22:モテ男の秘訣
料理対決の時にぐちゃぐちゃになった床を片付けている俺とティルが片づけていると、倒れていたカインの方からうなり声がしてきた。
「う、うう......」
頭を押さえて、ようやくカインが起きだした。起きなかったらどうしようかと思ったが、とりあえず安心して胸を撫でおろした。
「よかった、無事で......」
「や、やめてくれよ......。僕を放っておいてくれ......。いっそのこと、殺してくれ......」
「仲間を放っておくわけないだろ? ほら、立てよ」
俺は手を伸ばしてカインを立ち上がらせた。カインはスラリと立つもまだ少し猫背で俺達に目線を合わせようとしてくれなかった。見かねたティルは彼の頭を掴み、自分の方に向けさせた。
「それに、あなたにはまだ戦っていただかないと私たち困りますのよ? だから、しっかりしなさい」
「でも、僕は......」
ここで自分が出ようと思わないってことは相当見られたくなかったんだろうな。自分の真の姿というやつを......。俺達が何も言えずにいるとショウがまた煽りそうな顔でこちらに向かって来た。
「おやおや? 今度は戦意喪失かぁ~? だから滅びるんだよ! 不安定な獣人は!!」
「こいつ......!」
「ジュノ。見返すなら、彼の土俵で見返さなければ完全な勝利と言えませんわ。ここは堪えて、次の勝負を......」
「わかってる......」
「なら、続けるか? お前との勝負なら、楽勝な気がするぜ! ギャハハハハ!」
「言えよ。次の、ゲームはなんだ?」
「次は、ダンス対決だ! どうせ、ダンスなんて知らないだろうけどな!」
彼の言う通り、ダンスなんて知らない。やったこともない......。
「勝負とはいえ、ハンデをやるよ。俺から始めにダンスを見せてやる。そして、俺様に楯突いたことを後悔しろ!!」
ショウはセバスチャンからもらった機会を受け取ると、そこから音楽を流し始めた。すると彼はくねくねと舞を舞い始めた。ダンスって、姉さんがやってた舞の事か? いや、でも姉さんの演舞とは違う。もっと型がなくて、もっとアクロバットで、なにか惹きつける力がある......。
「俺、実はダンス部なんだよね。こういう時、女を魅了するのは踊れる男なのよ!! どうだ! これが、俺の渾身のダンスだ!!」
決めポーズをすると、彼のパーティメンバーから拍手喝采が送られていった。正直、これは負け確定かもしれない。でも、どんな勝負でも最後まであきらめない! 勇者カノンだってそうしてきた。俺だって、諦めないさ!
「さあ、音楽は流れ続けている。お前のターンだ! だが、詰みに向かうターンだがな!」
彼がダンスをしていた真ん中まで移動し、音楽を聴く。そして、目を閉じて姉さんの演舞を思い出していた。丸を描き、拳を出し足を出す。すべての音に、自分の知っている破魔震伝流の基本の型を繰り出した。
「なにあれ......」
「終わったな......」
「それでも、俺にはこれしかない。ティルが料理は相手を幸せにすることが大事と教わったように、ダンスも誰かを魅了するだけじゃない。誰か一人を笑顔にできる可能性があると信じて、俺は踊り続ける!!」
その不格好な演舞を見かねて、ティルが俺の前に出てき始めた。俺の拳を信じて、彼女は制止した俺に対してお辞儀をした。
「私が、舞踏のいろはを教えてさしあげますわ」
そういうと、彼女は俺の震えて握っていた拳をゆっくりとほぐし、優しく包み込み、エスコートしながらゆっくりと右足、左足と音に合わせてぐるぐると回っていった。
俺もそれに合わせるように、彼女の足を踏まないようにしながらあくせくしていると、彼女は微笑みかけた。
「さすが、武闘家ですわ。呑み込みが早いですわね。私、小さいころからダンスのお稽古しましたけど、このステップは私でも3日はかかりましたのよ?」
「いいの? 俺に加担して」
「あなたに感化されて、私が勝手に踊りだしただけですわ。踊りという者は見る者ではなく、共有しながら一体になるものでしてよ」
ティルが、俺を離すと俺はぐるぐると回転していった。俺が目を回してふらつくとドンッとなにかにぶつかった。優しく抱えていたのはカインだった。
「ありがとう、二人とも。ここからは僕が引き継ぐ。僕の願いはスターになることだからね。ダンスは得意なんだ」
いつもの調子に戻っていたカインの言葉に俺は笑顔で彼と手を取り、バトンタッチした。瞬間カインは輝きを取り戻し、自分自身を表現するかのように大きく羽ばたいたり、激しく体を動かした。それはどこか痛々しく、どこか悲しげなものだった。
その姿にティルも、ショウも驚いていた。
「おまえ、おまえだけいい気になりやがって!!」
ショウが音楽を流していた機械を持ち出し、カインに投げつけるもカインはお構いなしに踊り続ける。それどころか、投げられた機械をキャッチしてそのまま抱えながらダンスし始めた。
「君のような醜悪な人間は、モテるとかモテないとかいう以前の問題だよ! 僕の仲間を傷つけ、愚弄する奴にモテる資格はない! 僕が輝く限り、君のような人を僕は許さない!」
彼の言葉で、カインは一掃輝きだした。どういう原理なのかよくわからないけどみんなまぶしそうにしながら彼を魅入る。彼の姿はあまり見えないけど、たぶん彼の最後の演出だ。彼の動きが止まると、彼の発光現象も収まった。
「これが、僕のすべてだよ」
「なにあの発光......」
「それは、僕のオーラさ♪ 美しさを磨いていたら君もそうなれるよ」
「そうようもんなの......?」
「勝った気になるなよ! まだ勝負はついていない!! 勝敗を決めるのはこいつらだろうが!」
「でも、彼女たちは僕たちを評価してくれてるみたいだけど?」
審査員となった彼女らは頷き始め、立ち上がりカインに味方した。
「正直、感動致しました。私は彼らを評価したいです」
「リリィ、お前嫌い」
「あんたの独善的なダンスより、彼らのダンスの方が好きかな」
「ふざけるな、ふざけるな!!」
ショウがカインに拳を振り上げたその時、俺はカインを払いのけ、ショウの胴体に拳をぶつけていく。全体重を乗せた、その拳はいままでのどの拳よりも硬かった。
「破魔震伝流 ‐魂揺‐!!!」
後からやってくる波動に、ショウは吹き飛んでいき地面に倒れてしまう。
「お、俺の手がぁあああ!!」
俺の一撃が決め手となり、ショウの体はどんどん光の粒子へと変わっていく。ショウのパーティーメンバーは放心状態で彼の元へ駆けつけていった。あんなに暴言の吐いてた姑息な彼を、まだ彼女たちは好いているんだな......。でも俺達は、彼を思い偲んでいる場合じゃない。
「行こう......。フロアはまだまだあるんだ、ここで立ち止まってるわけにはいかない。時間があるわけじゃないし、目的も決まってない。それでも、一分一秒でも早く上に登っていかないと......」
「そう、ですわね。あなた方には悪いですけど、ごきげんよう」
「じゃあね。君たちも、本当に願いを叶える気があるなら早く登った方がいいよ」
俺達は彼らを置いて、歩みを止めることなく階段を上がっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます