11:次なるショー
地下コロシアムの天井から日が差してきた。多分、夜が明けたのだろう。見渡すと、すでに勇者候補たちが集まっていた。昨日より少し減ったか? 900人くらいになってる気がする。今度は勇者とはまた別の人間が観客席に座り始めた。街の住人やら、見慣れない身なりのいい人たちまでどんどん集まってくる......。なんなんだ? この人たちは。
「さて、みんな揃ったころかな?」
「はい、代表。オーディエンスも今日はここに集まってきたようです」
「素晴らしい! やっとショーらしくなってきたね!」
レオとその秘書アニとの会話が聞こえて来たと思うと、天井から彼らが現れた。どうやら、今観客席にいる人たちはおーでぃえんすというらしい。なんのことだかさっぱりだけど、今回はここで争うのか?
「さあ! みなさま、お待たせしました! 勇者たちの勇者たちによる勇者だけの祝祭『ザ・ラストワン・ショー!』はお楽しみいただけているでしょうか!? パイロット版を経て、皆様にお届けしてはや100回目! 記念すべきこの日に、皆様にこうやって生で視聴いただけるのは光栄なることです!」
このショーってそんなにやってたのか!?
ただ、その記念ということもあってか、観客の声は熱気にあふれているように感じた。俺も他の勇者たちも、その記念のショーに参加できていることに歓喜しはじめていた。その盛り上がりをぶつ切りするように、レオはたった一本指を天井に立てた。その仕草に、全員が息を呑んだ。
「さて、第一部次なるショーの課題を発表する! それは、これだ!」
レオは布が被さったものの後ろに回り、その布を引っ張った。すると、石板が見えた。あれって、カノンの冒険譚の記念碑!?
「皆さまご存じように、これは勇者カノンの冒険譚が刻印された記念碑だ。この国にたった一つしかない、大切なものだ。だが、時代は変わった! 今回のミッションは新時代の幕開けとして、是非君たちにこの石ころを『破壊』してもらいたい」
「......は?」
「破壊? カノンの記念碑を? それは、ちょっといただけないかもねぇ......。私にとって、カノンは刻まれし希望で永遠のヒーローなんだよね。その聖書を壊す?」
「そんなの、できるわけがない......」
姉さんと俺はただ動揺するしかなかった。だけど、他の連中というと乗り気のようだ。昨日喧嘩を吹っ掛けて来たボアも肩をぐるぐると回してやる気満々だ。フィドルも、新しい銃を見つめてるみたいだ......。
「できないものはやらなくていい。だが、その時点で君のラストワンへの道が閉ざされる。道を切り開くためには、スクラップアンドビルド! 古きを捨て、新しきを築け! さあ、ショーの開幕だぁああ!!」
「制限時間は8時間です。最初に壊した人が今回の勇者となります! それではよろしくお願いします!」
アニの言葉と共に、勇者たちが中心の石板へ向かう。俺達も当然石板へ向かう。だが、思考が違う。俺は、少なくとも俺と姉さんは石板を守るために動き始めた。
「これで俺が勇者だ!」
1人の勇者候補が鋭い三日月型の鎌を振り上げる。その瞬間、俺の足はその男の下腹部に深く入れた。
「させるかぁ!」
突然のことに、破魔震伝流も使い忘れるもその男から石碑の防衛に成功した。他の連中も続々と石板へ向かうも、俺は次から次へと吹き飛ばしていく。
「破魔震伝流 ‐百脚繚嵐‐!!」
「一々技出してたらキリがないわよ、ジュノ!」
「それでも、守るんだろ!? 姉さん!」
「当たり前! 私たちの原点、傷つけさせるわけにはいかないわ!」
姉さんは俺と対象の位置に立ち、背後から襲う勇者たちを次々となぎ倒す。俺もまた、1人また1人と倒していく。にしても、本当にキリがないな......。みんなタフなせいか誰一人として俺達の攻撃を食らっても退場しない。
「面白い事してるじゃないかぁ!? 少年!」
伸びる紫の鞭のようなものが、石板の頂点を襲いかける。だが、なんとか俺はその鞭を掴んだ。くそ、剣を持ってるようで痛え......。
「ビュートソード、僕以外に使いこなせる子がいるなんてね。ちょっと見直したよ。ジュ~ノ♪」
「ボア! 今お前の相手をしている暇はない!!」
「君たちのおかげで、勇者たちはお互いの潰しあい始めてる。なら少しくらいヒマなんじゃない?」
周りを見渡すと、確かに他の勇者たち同士で戦いが始まった。みんな、足を引っ張り合って、自分のために他人を蹴落としにかかり始めたんだ。俺がみんなの邪魔をしたから......。だけど......!!
「ああ言えばこう言う奴だな......。わかったよ、相手してやらぁ!」
「ありがとう♡ じゃあ、楽しもうか」
途端にボアは真剣な表情に戻り、ビュートソードを突き出す。俺はそれを避け、蹴りを二発入れる。だが、そのどれもボアには届かない。ボアのビュートソードは風切り音を奏でながら俺の頬を少し削る。俺はそのソードの伸びきった瞬間を狙い、足で踏みつけ、彼の顔を何度も殴りつけた。
「お前とはここで決着を着けてやる!」
「そんな寂しいこと言わないで、最後まで踊ろうよ」
「その薄気味悪いニヤケ面やめたら考えてやるよ!」
だが、彼の笑みは止まない。彼はビュートソードを収納して別の短剣を腰から抜き出して素早くなんども突き刺そうとしてきた。こいつ、どんだけ武器隠してんだよ!!
「楽しいねえ! 君との死闘♪ やっぱり、僕の目に間違いはなかったよ。さあ、少しシリアスに行こうか」
「ぐぅあ!?」
一瞬消えたと思うと、彼は背後に回って俺の背中を刺していた。ボアは少し俺の首を背後の彼自身に向けさせて囁く。
「大事な弟の仇、取らせてもらうよ」
「悪いとは思ってる。でも、それは覚悟の上だろ!!」
体を振動させて、刺された刃を折るとボアは少し目を丸くして固まっていた。この一瞬を見逃したらだめだ。
「破魔震伝流......」
魂揺を討ちかけた瞬間、彼の姿がまたも消えた。こんな動き、神避以外ありえないぞ!? こいつ、何者なんだ?
「破魔震伝流 ‐震避‐ 便利だね、これ」
「はぁ!? お前、祝福でも持ってんのか!?」
こいつ、破魔震伝流を使えるのか? 一体何者なんだ? 俺と同じ、誰かに教わったのか? それとも、俺の技をコピーする祝福でも持ってるのか?
「別にないよ。ただ、目がいいってだけ。僕、人の物はすぐ奪いたくなっちゃうんだよね。面白そうなのは特にね......」
「どこまで人をおちょくったら気が住むんだ!!」
「最後の最後までさ。さて、後ろを見て見なよ」
すると、俺達が守っていた記念碑が少し欠けていた。その破損箇所からヒビも入っている。まずい、ここまでの日々では少しの力でバラバラになりそうだ! こうなったら、俺の手で終わらせるか? いや、そんなこと俺自身ができるのか?
「僕にとって、面白い存在でいてくれるんでしょ? さあ、君自身の選択で苦しむ君を見せておくれ!」
「う、うう......。 うわあああ!!」
俺は衝動的にボアに殴りつけた。だが、それは空振りに終わっていた。すでにボアの姿は目の前になく、背中にはずっしりとした重みを感じた。その重みを跳ね返そうとするも遅く、記念碑の崩れる音と共に太ももあたりに痛みが入る。
「!? がぁっ!?」
「君の苦しむ姿、楽しかったよ。でも、まだまだ青くてつまらない。だから、次のステージで待ってるよ」
彼の声と同時に、アニさんが笛を吹いていた。終わりの合図だ。もうそこに、記念碑はない。俺は発散しどころのない怒りや悲しみを拳に変えて、地面に強くぶつけた。
「レオ!! 勇者を冒涜して、なにがショーだ! あんたにリスペクトはないのか!」
代表であるレオに感情をぶつけるも、彼は動揺しない。むしろ冷酷な顔つきへと変貌し、俺を見下ろす。
「敗者にショーを冒涜する権利はない! それに、俺は君を認めはしたが、これまでの伝統ある勇者は選ぶ気はないと決めている。100回目の勇者は革新的であってほしいんだよ。つまり、君のような古臭い人間から、淘汰されるのだ。だから、君は勇者に選ばれない」
レオの言葉には客観的な正しさがあった。だから、勇者に選ばれない理由も納得して言い返すこともできなかった。俺はただうなだれるしかなかった。
「みな、ご苦労。では、今度は二日後にショーを再開する。それまで英気を養うように。だが、今回は休憩中の喧嘩はNGだ。貴重な参加者がこれ以上減っても仕方がないからね」
始めてその言葉を聞いて、俺は身の回りを見渡した。すると、そこには10人ほどしかスタジアムにいなかった。ほとんどすべての人を倒したの姉さんのようだ。彼女の体にべったりついた返り血がそれを物語っていた。
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