12:決別
2日経って、再度勇者である俺達は集められていた。その中には姉さんもフィドルも残っていた。みんな、休んでいるはずなのに服装はボロボロだ。加えて、歴戦の戦士のような面構えになっている。
「ね、姉さん......?」
姉さんは答えなかった。人が減ってからというものの、彼女は俺に口を聞かなくなった。いよいよ、姉さんも俺を「敵」として見ているのだろう。話しかけるのくらい別に構わないだろ、と自分の心の中で思っているとレオが登場した。
「さて、2人次のステージ上がったことで、残る勇者枠は4人となったわけだが......。君たち、命を懸けてまで願う気持ちは変わっていないかな?」
誰一人として手を挙げて「やめたいです!」なんて言うやつはいない。ここの人間全員はもう願いのためなら手段を選ぼうとしないだろう。俺はそいつらに勝てるんだろうか。何も願いもない俺が......。いや、願いならあるだった。でもその先、未来がないんだ。彼らの未来を奪ってまで歩む道なのか? 俺の勇者の道は......。迷いの中、レオは新たなショーの内容を伝える。
「すばらしい! ではショーを続けよう。今回は、たった一人のお姫様をある場所まで連れて行くまでの珍道中ショーだ。勇者たるもの、危険な道のりでも姫をエスコートできるのは当然。では、今回の姫に登場していただこう!」
そう言うとレオはショーから立ち去り、彼とバトンタッチするかのようにいつもの動きやすそうな恰好のアニさんが俺たちに近づいてきた。
「姫役のアニです。本日はよろしくお願いします。それでは、ルールを説明します。私を共和議事堂まで連れて行ってください。地図はこちらから皆さんがお持ちの勇者の証に転送しますので、確認して向かいましょう。私と手をつなぎ、議事堂に連れて行ったたった一人が今回のラストワンとなります! 期限は1週間! それでは、スタートです!!」
アニのスタートの合図と共に、勇者たちがアニの腕を引っ張り始めた。こっちだ、こっちだとアニの顔色も覗わずに自分の都合でお構いなしだ。彼女の腕が引きチゲそうなのを我慢できず俺は数人の勇者を引きはがした。
「やめろ! 痛がってるだろ!」
「そっちこそ! また邪魔する気か!? ルーキー!」
「誰も彼もみんな俺をルーキー呼ばわりしやがって! そんなに珍しいか! 新人が!」
もみくちゃになっていると、銃声が一発聞こえた。発砲した主は俺の予想通りフィドルだった。フィドルはテンガロンハットを深くかぶり、ため息をつきながらアニを自分の所へ引っ張った。
「おいおい、レディのエスコートの仕方も知らないのか? 野蛮な奴らだな......」
「おい! ずるいぞ!」
1人の勇者が近づくと、フィドルはまた発砲した。銃弾は急速に曲がり、その勇者の足の甲に当たった。勇者が痛がっている間に、フィドルはアニさんの手を引っ張りコロシアムを出ようとした。
「まずい! 追いかけないと!」
「あんたを行かせるわけにはいかない」
そう言って俺の前に立ちはだかったのは姉さんだった。彼女の眼には覚悟と闘志が宿っているようだった。いつもより鋭く、ギラギラと輝いていた。
「私はもっと、もっともっともっと、勇者と戦いたい! そして、最高の勇者となったあんたと戦いたかった! でも、あんたは私の理想の強さには程遠い! だから、ここで引導を渡す!」
「なに急なこと言ってんだよ!」
「姉さん」と続けて言う直前に、彼女の双剣の一振りが俺の髪の毛を数ミリ切り落とした。突然の殺意に、俺は動揺して動けなかった。
「言ったはずよ。腑抜けてたらあんたを蹴落とすって。あんたは弱すぎる。コピー野郎に技を奪われて、苦戦して......。あげく、願いを諦めてるような態度、それが気に食わない!」
悩みも打ち明けれずにうじうじしていたこの2日間で、姉さんは俺を見限っていたのか......。それで、姉さんは口を聞いてくれなかったのか......。あの島での決意は嘘だったのかと、姉さんは怒りに任せて剣を振るった。でも、俺は命を落とすわけにはいかない。すぐに避けて岩をも砕く「
「俺は! 俺は......。諦めきれない! 諦められるわけがない! それでも、このショーに参加して、人を蹴落として、倒して、殺して......。本当にその価値があるのか、不安なんだ......。俺は最高の勇者になれるのかって」
「だから気に食わないって言ってんのよ。破魔震伝流 ‐獅子奮刃‐!!」
俺は初めて、回避の震避からのカウンターの伝返を成功させていた。姉さんのヒビ入った愛刀はボロボロに砕けた。彼女はその剣を捨て、まだ残っていたもう一つの剣で俺の首元に向かった。その刃を俺は優しく受け止める。
「だから、俺に勇気を与えてくれる姉さんには感謝してる。こうやって、ずっと後ろ向きだった俺に背中を押してくれた。でも、それは今日までだ。わかったよ、姉さん。俺は、歩き続けるよ。俺自身の願いのために! 最高の勇者になって、いなくなったみんなを取り戻す! ルミも、ボアの弟も他の勇者たちも、そしてこれからいなくなる姉さんも! だから......!!」
ありったけの感謝をこの拳に変えて姉さんに届ける!!
これが、俺の俺が編み出しだ最終奥義!!
「破魔震伝流 秘技 ‐
両腕を前に出すと同時に、二つの相対する波動が姉さんへ向かう。波動は打ち消し合うこともなく、混ざり合うことなく姉さんの体に浸透していった。すると、姉さんは動かなくなった。俺の波動が、姉さんの......いや、魔族の波動を打ち消したんだ。
「破魔震伝流 奥義 ‐魂揺・伝‐」
さらに俺は姉さんにゆっくり近づき、ゆっくりと拳を何度も姉さんに打ち付けていく。その痛みと力は何倍にも膨れ上がり、姉さんは手も足も出ずにボロボロになっていく。
「いい、拳じゃない......」
「姉さん!!」
姉さんは技の威力で観客席下の壁にぶつかっていった。俺はすぐさまその場へ駆けつけた。すでに姉さんの体は消えかけている......。
「は、早く行きなさいよ。あんた、勇者になるんでしょ? なるんだったら、一番、ラストワンを目指しなさいよ。じゃないと、許さないから......」
「うん、うん!! 絶対に、なってみせるよ! 約束する!! 俺が最後で最高の勇者だ!」
「バイバイ、ジュノ」
そう言うと、姉さんは砂のように粒子となって跡形もなく消えていった。ルミのときもそうだったが、どうなってるんだ? この事象は......。知るためにも、もっとこのショーの深くまで潜り込まないとな。そのためにも、まずはステージをクリアしないとな。
「ありがとう、お母さん。俺はあなたの誇れる、立派な勇者になるよ」
俺は地図を元に、8人の勇者とアニさんを探しにコロシアムを出た。
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