10:幕間
「勇者の卵たちよ! お疲れ!!」
俺達勇者候補たちは、聖剣を手にしたレイと共に約2週間ぶりに、教会下のあのスタジアムに呼び出された。残ったのは、俺ら含めて1000人弱。初めて開催をこの目で見た時の10分の1だ。いなくなった人たちは、ルミみたく消滅したのか......。くそ、どうして消滅しなくちゃいけないんだ......!
「皆、お気づきの通りラストワンが決まった! その名もレイ君だ! 彼は誰よりも強かな勇者だ。私もその強欲さには負ける。君は新たなステージへと向かう権利を得た!」
「なに? これで終わりではないのか! 私がラストワンだろ!」
レイ同様、俺達勇者たちに動揺が走っていた。
でも、もし、可能ならまだチャンスがあると言ってほしいっ!!
「そうじゃないんだ、ルーキー。ここからが、君のショータイムだ。ザ・ラストワンショーは3部構成。今、君が勝ち取ったのは第1部にすぎない。つまり、序章だ。ここから第2部へ進む者は残り、5人」
ご、5人!?
つまり、俺が第2ステージへいけるのは200分の1......
俺はそのひと枠を勝ち取って見せる!!!
「これは、気合が入るねぇ。でしょ、ジュノ」
「ああ。戦い続けているかぎり、俺は勇者になれる!!」
「おお、みんなやる気出てきたねぇ! じゃあ、レイ君には第2幕のステージへ移動してて。今残っている1000人の勇者候補諸君に、新たな課題を与える! ......と、いいたいところだが、一旦まずは休憩としよう」
え? 休憩?
まだ始まったばかりだろ? とはいえ、みんな疲れた顔をしてるな......。それは、俺も同じかもしれない。鏡はまだ見てないけど......。
「というのも、まだ次のショーの仕込みが終わってないんだよね~。君たち、ちょっと見つけるの早すぎ! まあ、それだけ優秀な卵たちが今回集まってるということだろう! それは、大いに期待している! では、みな思う存分観光したまえ!」
そう言うと、レオは立ち去っていった。毎回いろいろと言葉が足らないんだよなぁ。
そう思っていると、それを察していたかのように秘書のアニさんがこちらにきた。
「それでは、これより1日間の休憩に入ります。休憩の際は、シャスティア市内の観光や宿泊は自由でございます。もちろん、みなさまは勇者と同等に扱われますので、料金の支払いは不要でございます。では、ごゆっくりとお休みくださいませ」
アニさんの言葉で、多くの候補生たちは群れずにパラパラとコロシアムを出ていった。俺も少し外の空気を吸いに行こうかな......。
「こんなにがらんとしてたっけ? このスタジアム」
姉さんの言う通り、コロシアム内には俺と姉さんと対角線上にいる2人だけ。その2人は俺たちにガンつけているように見えた。いつ休めるか、いつ退場するかわからない時に、狙いをつけてくる奴もいるんだろうか。
「なんか、見られてる気がする......。行こう、姉さん」
「それは弱い者の思考だよ、ジュノ。なんで私たちが出ていかないといけないの?」
そう言うと、姉さんは眼光鋭く見つめる2人の方へ向かいだした。
俺は姉さんを追いかけて彼らに向かった。その人たちは、その目つきを変えずに俺たちをずっと見つめていた。一人は片腕が義手で、もう一人は長剣を地面に置いて座っていた。
「あの、私達になんか用ですか?」
姉さんは明るい声色で聞いていたが、その顔は作り笑顔のようだった。姉さんの問いに、男が大剣を背中に帯刀して立ち上がった。思っていたより、小さいな......。
「きみ、魔族でしょ。しかも、魔王の子だ。そのおヘソの宝玉をみればわかる。魔人っていうんだっけ? 魔族は滅んだと聞いたけど、なぜ生きてるのか不思議でつい見てしまった。 だけど、今殺す楽しみが増えた。この手で魔族を殺す。こんな
「悪いけど、私はこの目で最高の勇者が誕生する様を見届けるのが夢なの。それまで、死ねない」
姉さんの言葉に大剣の男は、不思議そうな顔をしていると義手の男の方が冷笑しながら姉さんに近づいてきた。
「なに? お前も勇者になりたいの!? 化け物の癖に......。 これは、しつけが必要かな?」
「必要ないよ。特に、君たちみたいな三下にはね」
姉さんの不敵な笑みは、義手の男の方の心を逆なでしたようで、姉さんの胸倉を掴みだした。こいつらよく見ると、顔が似てるが、もしかして双子か?
「ふざけんなよ!? そんなに死にてえなら相手になってやるぜ!!」
「いいわ、相手になってあげる」
姉さんの目つきが、標的を見つけた猛獣のようになっていた。やっぱり、姉さんの本質は勇者になりたいとか、勇者を見届けるとかそういうんじゃない。強い勇者と戦いたいんだ......!
「ええ......。なんでそんな流れになるの?」
「休憩中の戦闘は禁止されてない。つまり、勝手にやり合っていいってことだよなぁ? 義手のサビにしてやるぜ!」
義手の手の甲からガシャリと音が聞こえたと同時に、小さな刃が出現した。その刃の先端は姉さんの顎先を捉えていた。
「姉さんを傷つける奴は許さない」
「ね、姉さん? じゃあ、お前も」
「俺は正真正銘人間だ! 最高の勇者を目指す者だ!」
「次から次へと! 初めの相手はお前にしてやるぜ!」
義手の男がこちらに目線を向け、瞬時に詰め寄ってきた。こいつ、意外に身のこなしが軽い。だが、重心が少しぶれている。義手が重いのだろう。そのブレは、癖になっているようだ。正確さを欠いているが、修正力が高い。
「悪いけど、俺はラストワンを目指してるから! 破魔震伝流 ‐
瞬発力と、精密動作による打撃の魂揺とは裏腹に、この破刃心は振動による破壊力で精密さをカバーする。技を受けた者は、その言葉のごとく硬い刃をも砕く! 義手なんて、お手の物だ!!
「お、俺様の義手を!! よくも!! だが、想定内だ!!」
破壊されかけた、義手のパーツを自ら取り外して二の腕のみとなった男は、残った方の腕で殴りかかってきた。だが、それは素人の拳だ。俺にはたやすく見える。
「悪いけど、こっちも想定内なんだよね! 破魔震伝流 ‐魂揺‐!!」
拳が正確に彼の胸部にあたるのを感じた。彼の鼓動を感じる、それを一度制止させる! それが、魂を揺さぶる拳! 魂揺! これに耐えた者は姉さんくらいしか知らない。
「ぐっ......! うああああ!!」
義手の男は瞬時に消滅した。それを見た大剣の男が姉さんを差し置いてこちらに向かってくる。
「へえ、僕の弟を倒すなんてやるねえ」
目の前の姉さんを無視してこっちへ向かう長剣の男に、ニアは目を赤くして双剣で彼の長剣を真っ二つにして、彼の顎先に姉さんの刃が向いた。
「無視してくれたあなたはどう? 命を懸けてまで追いかける夢なの?」
「夢はないよ。僕はショーが大好きなんだ! だから、願いを持つなら永遠に戦い続けられる権利を求める。もしくは、戦い続けられる力不老不死の力! 僕は僕のの享楽のために戦う! 面白いからなぁ」
「ふざけてんのか!」
「案外真面目に答えたんだけどなぁ......。なら、そういう君はどうなの? ラストワンを目指すとかほざいていたけど、なにを求めてるの?」
「言葉のままだよ。勇者になるために、このショーに参加してるんだ」
「何、言ってるの? 勇者になるのは手段でしょ? 目的じゃない。大半の勇者はその先にある光を掴むためショーに参加してる。君は勇者になったら叶えたいことはないの? 勇者になれば、それで終わり?」
勇者になった後?
そんなこと、考えたことなかった。ただ、憧れて俺でも勇者になれると証明したくて、ショーに参加した。なるならナンバーワン、いやラストワンだと。それで、その後、俺はどうするんだ? 防衛戦か? 魔王の残党を残らず滅ぼす? それとも、勇者カノンの冒険の続き? 俺は、勇者になって何がしたいんだ?
「おやおや、口数が減っちゃった。そんな子が、ラストワンになれるわけがない。この戦いは面白い奴が勝つんだよ? 僕くらいね」
固まる俺をよそに、大剣の男は腰に付けていた棒状のものを取り出し始めた。すると、棒の先端から垂れた紐が紫色に光りまっすぐこちらに伸び始めた。顔擦れ擦れで避け、拳を繰り出すも彼に届かない。
「な、なんなんだ!? あの武器は」
「レイザーファイバー、だって。理屈も意味もわからないけど、僕は勝手にビュートソードって呼んでる。ビューッと伸びるからね! 面白いだろ」
「いや、自分で面白いって言わないだろ! そういうのは......」
「別に構わないだろ、僕が面白いって思ってんだから。だけど、君たちにはもう飽きちゃった。面白そうと思ってちょっかい出したけど、勘違いだったよ。ごめんね」
そう言うと、男は剣を収めて外へ出ようと、歩き始めた。
俺は不意に彼の腕を掴んだ。
「な、なんだよ」
「お前、名前は?」
「つまらない子に名乗る名はない。と言いたいけど、その眼は気に入った。僕の名はボアだ。弟の名前はイーゴ。しっかり胸に刻んでおけ。君たちが消した、僕だけの勇者の名だからね」
「ああ。ボア、俺はいつか君をも楽しませるような勇者になってみせるよ。今は、それが俺の願いだ」
「楽しみにしてるよ。でも面白すぎたら君の事も壊しちゃうかも」
なんなんだ、こいつ......。
だが、こいつのお陰で俺には勇者になった後のビジョンがないってのがわかった。そこは感謝しないとな。次に会う前に、勇者になってからのことも考えないとな。
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