9:聖剣争奪戦
「破魔震伝流 ‐魂揺‐!!!」
一撃は、バンシィに届かなかった。だが、諦めず俺は闘志を強く燃やし全身を、魂を震わせ敵の顔面に叩きこんだ。その振動が、鼓動が悪を断つと教わったんだ。それが破魔震伝流だから!!
「破魔震伝流 ‐獅子奮刃‐!!」
ニア姉さんもまた、俺に呼応してバンシィの鎌を避けてそのまま鎌が付いた腕向けて切りつける。バンシィはそのまま姉さんを声で吹き飛ばし、姉さんを引き離す。
「姉さん!!」
後ろを振り向いた途端、影が濃く差す。こいつ、思考ってのがないのか? 敵を区別しているわけじゃない。近づいたものすべてが敵なんだ! そのせいか、はたまたあいつの繰り出す声が俺たちを狂わせているのか判断が少し遅れるっ!!
「他人の心配してる場合か!」
フィドルは叫びながら弾丸を放ち、バンシィの両眼をぶち抜く。それでもバンシィはこちらを的確に切りつけてくる。今あいつは、コウモリたちの超音波のように声を使っているんだ。だが、それさえ防げばいいということだ。
「弾の数は、大丈夫なのか?」
「後、1発だ。実弾の予備はねえ。持ってんのは全部偽物だ、規格にあわねえ!」
「あいつの喉元、狙えるか?」
「何度もやってる! だが、高速に鎌を振り回して弾を切り落としてやがる。弾は着弾したらもう祝福の効果は切れちまう。こういうときに、スキルに頼りっぱなしなのが仇になったな......」
フィドルの息が荒い。相当駆け回りながら銃で俺たちを援護してくれていたのだろう。それでも、手数が足りない。さすが、旧時代を支配していた魔物たちだ。
「なら、私が行きます!」
言い出したのはルミだった。
その眼には、これまでにあった恐れの感情はなく、闘志に満ちている。
「行くって、何か攻略法でもあるのか?」
「空気のない空間を作り、そこで倒します」
空気のない? 何を言ってるんだ!?
この娘、何をするって言うんだ!? 俺が理解するよりも先に、彼女は走りだしていった。そして、そのまま大きな杖を振り回して舞を舞うようにバンシィの周りをウロチョロとだが確実に円を描いている。その円は、陣となり、魔法の空間が浮かび上がる。その中には、バンシィとルミの二人だけ。二人とも、なにか苦しそうだ......。その一瞬で、彼女の杖が光り、杖から漏れた魔力が刃状に洗練されていく。その刃はバンシィの首をスパッと切り落とした。
「はぁっ!! はぁ......。はぁ......」
魔法陣が切れると、青ざめたルミだけがそこに立っていた。息もできなく声も発せれないところを作るなんて、決死の覚悟で倒してくれたのか。バンシィの死体は、もうなくなっている......。消滅したってことか。
「ありがとう、君のおかげで助かった」
「い、いえ......。私も、あの中で死を体験しました。その時、みなさんのことを思い浮かべたら、なんだか死にたくなくなっちゃいました......。ははは、何言ってんだろ私......。やっぱり、生きて帰りたいなぁ......」
「生きてたら、またやり直せるさ。さあ、剣を君の手に!!」
「ちょ、ちょっと! ジュノ!!」
「話が違うぞ!! ここで俺達が奪い合うって約束したろ! お前になんの権限があるんだ! それに、お前だって叶える夢があるだろう!!」
「まだ本物か確証できてないだろう!? それに、これは俺があげたいと思っちゃったんだ......」
俺は本当に欲張りな人間だ。目の前に欲しいと思う人がいたら、絶対に
「こ、これで私は元の世界に!!」
彼女が剣を持った瞬間、剣から光が放った。
「ほ、本物です! みなさん、本物ですよ!」
ルミがはしゃいでいると、突然光の矢がルミを襲い始めた。
矢はルミの胸を貫いていた。だが、急速にルミの祝福が発動する。間髪いれず、矢がどんどん舞い降りてくる。俺は剣を持ったルミを抱えて走った。
「その剣、置いて行ってもらう!!」
狐のお面を被った男が階段から降りてきたかと思うと、ボウガンを向けてそれを何度も引き金を引いてきた。矢は魔力を帯びていて、地面に電気が走っているように見えた。
「突然何!?」
「新手か!? くっ、一旦退くとするか。急ぐぞ、ジュノ!」
「ああ!!」
俺達は狐面の男に正面から向かい、走り出していった。そこしか出口はない。しかし、ボウガンだけであれば近距離での戦いは不利になるはず。
「剣だけ持っていけばいいものを......。だから甘いと言ったんだ」
「何!?」
なんだ? 急に槍が飛んできたぞ!? のけぞる姿勢に気を取られていると、キツネの面の男がこちらに手を出してきた。
「祝福『絶対捕縛』発動」
祝福という言葉と共に、俺が抱えていたルミが手元からいなくなっていた。
後ろを見ると、キツネ面の男がルミを抱えていた。
「お前、さっき助けたやつか!?」
「お前じゃない。私は、レイ! 勇者ハンターだ」
そう言うと、彼は槍に持ち替えていて、そのままその槍をルミに突き刺した。
槍はルミの腹部を貫き、地面にめり込んでいった。ルミはすぐに抜こうとするも抜けず、死ぬに死にきれない状況に涙を浮かべていた。
「やぁああああ!!! ヤダ! 嫌よ! 私は、死にたくない! ここでなんて死にたくない!!」
「どんな祝福でも、勇者は必ず死ぬ。呪いの槍はそういう性質を持つ。少女よ、安らかに......」
「たす、け」
言葉も紡げないまま、ルミは俺達の前から消えた。ただ、ルミが持っていたであろう勇者の証だけがひらりと落ちていった。俺はその証を拾った。拾ったときに、他の勇者たちの証も見つけ、戦慄した。これはバンシィにやられた勇者たちの......。
「殺す必要は、ないはずだ......」
「貴様とて、同じことをしていたはずでは? たった一人の勇者を決めるというのはそういうことだ」
「横入りしやがって! 貴様ぁ!! 聖剣は俺のもんだぁ!!」
フィドルが最後の銃弾を放った。だが、その銃弾は空中で止まった。
「無駄なことをしたな。その銃弾を、他のものに向けて入ればお前はまだ見込みがあったというのに。お前は、不合格だ。そして、そこの少年もだめだ。隣にいるのも魔族だから論外だ」
「あんた、人を馬鹿にして」
「お前は人じゃないだろ。感情があるふりはやめろ。滅びゆく定めの化け物め」
「......。姉さんを、姉さんを悪くいうなあ!!」
俺は構えることさえ忘れてただ、そのレイという男の顔面を殴ろうとした。だが、それは悉くよけられていった。いや、避けたというより止めた? 空間が壁みたいになって拳があいつに届かねえ......!!
「だから貴様は甘いのだ! 聖剣はもらっていくぞ!」
狐面から光りが漏れると、目が眩み目を閉じた。閉じたまま、拳を振るった。だが、そこにはなにもなくただ空虚のみだった。
「なんだよ、なんなんだよチクショー!! ベットした相手が間違っていた! お前は、お前だけは俺の夢を笑わなかった。本当のことを聞かなかった。だからここまでついてきてやったのによぉ! なんなんだ、この体たらくは!!」
「フィドル......」
「ここに銃弾があれば、お前を殺していたところだった......。運がよかったな......。だが、お前達との同盟もここまでだ。聖剣は他の奴に渡った。時期にショーが終わる」
その言葉が本当だった。すぐに、ショーで初めにゲームの解説をしてくれたレオの秘書から連絡があった。残っている勇者候補全員は、一度会場に戻ってくるようにと。一体、負け犬の俺たちに何の用があるんだ?
「俺は先に会場に向かう......。だが、これでお前達とは最後だ。......あばよ」
フィドルは背中を丸めてとぼとぼと歩き始めていった。俺は追いかける余裕も、資格もない。そして、俺の夢ももう叶わない。
「あーあ。力が手に入るっていうのに、ジュノはすぐ手放しちゃうんだから......。でも、あんたらしい。とんだ甘ちゃんだよ。でも、それって私が甘やかしてたからなのかな......。 いや、今は考えないでおこう。きっと、考えたら私もあんたのこと嫌いになっちゃうかもしれないから......」
姉さんの目は俺の心を凍てつかせた。
俺は、そしてニアもフィドル同様教会の下にあった会場へ戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます