5:開幕! ザ・ラストワン・ショー!

 階段を上った先には、大きなコロシアムのような場所が広がっていた。天井に空は広がっておらず、逆に土だけが広がっている。もしかしてここは地下施設なのか?

コロシアムの観客席のような場所にも勇者候補らしき強者ぞろいが座っていた。


「数は1万人ってところかな......」


「中々多いわね。 ここからたった一人の勇者が決まるのね......」


 俺達と同じようにコロシアムの中心にも勇者たちはいて、会話しているようにも見えた。時に平和で和やかで、時に探りを入れるような緊張感が走り、俺たちにもそれが伝わってきた。しばらくすると、先ほど俺達を誘導してくれた司祭と女性が俺達を払いのけ、コロシアムの真ん中に立ち始めた。すると、ゴゴゴという音と共に、真ん中の場所だけがせりあがっていき光がその二人に集まっていく。司祭は自分の着ていた聖装を脱ぎ始めると、煌びやかな衣装をあらわにした。すると、司祭は両手を広げて大声を叫びだした。



「勇者の卵ども、ようこそ! 『ザ・ラストワン・ショー!』へ!! 私は、このセレモニア共和国の第1党首レオ! これは君たちが最後の勇者となり、願いを叶える、その軌跡を追う最高のショーである! さあ、皆願え! 欲しろ! 自分の大義を賭けて、命運を賭けて『たった一つ』を手にして見せろ!!」


その言葉に、他の勇者たちは拳を上げて歓声をあげる。

俺もまた、その光景にただ圧倒された。これが俺が立つ次のステージってことか......。息を呑んでいると、レオは続けて俺達に最初の試練を与え始める。


「それでは、君たちにミッションを伝える。この国に伝説の剣を一振りどこかへ隠してきた! その剣を探し、ここに持ってくるんだ。君たちが勇者なら、その剣を見つけることなど容易いことだろう。制限は今から20日間! それでは、皆の健闘を祈る!」


た、たった一つの伝説の剣を探すのか? それができなければ勇者じゃなくなる......ってのか? そんなのいやだ! 絶対に探し出してみせてやる!

息巻いているうちに、レオは俺達の前から去っていた。残りは、俺達にあの勇者の証を渡してくれた女性だ。


「お疲れ様です。私は党首レオの秘書を務めております、アニと申します。以後、よろしくお願いいたします。まず、制限時間の確認は皆さまの所有する『勇者の証』で確認できます。それで、皆様同士でもどれだけ遠く離れていても会話することが可能です。同盟を結んで情報共有するなり、ウソの情報を流すのも自由でございます。それがあなたにとっての勇者たる信念なのであれば......ですけどね。それでは皆様、いってらっしゃい!」


そう言うと、秘書のアニさんはレオと同じ方へと去っていった。残ったのは俺達勇者だけ。ある程度の人はすでに散り散りになって、探しにいっていた。もうすでに、技量を図るため戦いあっている人たちもいる。20日間か、長いようで短いな。俺も出発するか。


「行こうか、姉さん」


姉さんは「なんで一緒に行動する前提なのよ」と言いたげな表情だが、少し口を紡いでため息交じりに改めて口を開いた。


「はぁ、そうね。たった一つしかないんだ、目指す場所は一緒なんだし道中は一緒にいてあげるわよ」


「よし! じゃあ、大冒険の出発だ!!」


コロシアムから外へ出ようとしたその時、俺たちの目の前に大剣が振り下ろされる。


「ちょいと待ちなよ、ルーキー」


目線を上げると、ニヤついた眼鏡の男が大剣を片手に俺たちを通せんぼしていた。


「なんですか? 邪魔なんだけど?」


俺は彼の大剣をどかそうと手を伸ばそうとすると大剣がスッと動き、こちらの首元に移動していた。かなり動きは速いな。それでも姉さんと手合わせしたときより軽いな。


「震えてるみたいだから、俺達が手伝ってやろうと思ってな」


歓喜と、敵意で震わせていた全身を、彼は緊張によるものだと判断しているらしい。


「別にいいよ。この震えは、俺自身の喜びの現れみたいなものだから」


「強がるなよ。どうせ考えてる願いは変わらないんだ。金が欲しいんだろ? なら、俺がすべてを手に入れて、分け前をやる。それでお前はここで退場リタイアしても変わんねえだろ?」


こいつは、俺の肩に自分の腕と全身の体重を乗っけて来た。その顔は、まだ俺を小心者扱いしているように見える。それは構わない。ただ、一つ気になったのは「一攫千金のために勇者になる」だと? 勇者になるためにここにきたんじゃないのか?

俺はそいつの腕を振り払い、2,3歩下がりながら拳を構えた。


「願いのために勇者になるのは構わないけど、そんな下種な願いは嫌いだ」


「私もこいつ嫌い。ジュノ、喧嘩するってんなら手を貸すよ?」


「姉さんは手を出さないで。これは俺に売られた喧嘩だ。それに、目先の願いだけで勇者になろうとするやつに、負けるわけない!!」


「そんなの、このショーに参加した連中誰しもそうだろ! ていうか、お前まだ勇者に憧れてんのか? 古くさっ......。 お前みたいなやつに願いを独り占めされてたまるかってんだ!」


彼は片手で持っていた大剣を振り下ろした。その軌道は俺にとってはスローに見える。剣を振り払い、そのまま彼のみぞおちに拳を突き出した。破魔震伝流など、使うまでもない。


「ぐっ......!! このガキっ!!」


風を切りながら、大剣を振り回す男。だが、その鋭く重い刃は俺にかすりもしない。面白くない状況に、男はますます憤る。俺だって、こいつにはもう退場してもらいたい。だが、意外にもこの男の太刀筋が早くて隙がない。唯一の隙があるとすれば、こいつがバテたときだ。


「なんだよ、体力バケモンかよ!!」


「これでも大剣1万回振り上げてんだ! そうそうなことでへばってたまるかぁ!! これで、終わりだァ!!」


振り下ろされた大剣に、俺は使ってこなかった破魔震伝流を解禁した。この技は、剣や大砲のような大型武器を破壊する技『破魔震伝流 ‐破刃心ハバキリ‐』だ


「お、俺の剣がぁ!?」


間髪入れずに、俺は次の一手を繰り出す。


「破魔震伝流 ‐昇震念のぼりなまず‐」


男の顎に掌底を当てて、俺は彼の体全体を吹き飛ばした。男は陸に上がった魚のように、ビチビチとコロシアムを舞う。突然訪れた静寂で、俺の視界が久しぶりに広がった。別の場所で小競り合いをしていた勇者候補たちの、目を丸くした姿が映る。勇者カノンも、こんな風に注目を集めていたのだろうか......。


「遅れ取っちゃった......。早く行こう、姉さん」


「そうだね。 こんな弱い奴相手にしてる暇ないよね」


「いや、気を緩めてたらこっちの腕が落とされてた気がする......。世界ってこんなに広いんだね! スゴイや、姉さん」


俺たちは、改めて歩き始めてコロシアムを後にしようとした。だが、後ろから矢が無数にこちらに放たれてきた。後ろを振り返ると、俺の対決を見た漢たちが熱をあげてこちらを倒そうと目をぎらつかせて追いかけてきていた。


「あんた、ちょっと目立ちすぎなのよ!」


「勇者って、そういうもんでしょ? 好意的に捉えようよ! ピンチはチャンス! もっと先に進もう!」


地下コロシアムから、教会へ戻る道は少しずつ狭くなっていた。コロシアム前は人が数百ならんでも余裕があったが、今は人一人の余裕しか幅がない。ドンドンと狭まれて互いを互いの足を引っ張っていく勇者たちを見て、俺は呆れながら振り返ってようやく外へ出た。


「ほら、ちゃんと考えたらゆっくり出れたでしょ?」


「意外ね、ちょっとは考えるじゃない。それで、これからどうするの? どうやって、こんな広い土地の中でたった一振りの聖剣を見つけるの?」


「本気で言ってるの? 姉さん。勇者カノンの聖剣と言えば、場所は一つでしょ?」


そう、彼が聖剣を見つけた場所はたった一つしかない。俺の勘も剣はそこだと言っている。ウオロイ山の山頂「神の戦場いくさば」だ。そこしかない。そこじゃなくても、そこに行きたい。勇者を目指すなら、あの場所は欠かせないからな。


「ああ、ウオロイ山......。あの場所ならあり得るか......。じゃあ、誰かに先越される前に向かいましょ」


俺達は、勇者の聖地ウオロイ山へと目を向けた。教会の背中に立つ広大な山。あの頂上でカノンは魔王を倒すため、神と修行したという。そして、彼は修業の成果として聖剣を手にした。勇者の始まりの章なら、いつでも俺は復唱できる。その物語を頭で思い浮かべながら、山を目指した。

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