4:仮初の勇者

「はぁ、見つからねえ......」


シャクティアで姉さんが勇者の証を手に入れてから、1日明けてしまった......。とにかく、俺はこの町のあらゆる道に詳しくなるくらいには歩き回った。それでも、ニアに訪れたようなチャンスは落ちていない。ただ、もうすでに日が落ち始めるている。時間は限られているものの、俺は少し疲れて姉さん行きつけの酒場で一呼吸置くことにした。


「まあ、そう簡単にチャンスは転がってないってことよ」


姉さんは頼んだ酒を豪快に飲み干していた。一番お前が言うなよって言ってやりたいところだが、言い返すこともできずただ目の前の水と一緒に言葉を飲んだ。


「地道に人助けでもしてみるかな」


「それも悪くないかもね」


ため息をつきながら一気に自分のジョッキを空にした。ついでに頼んでいた一品料理も残らず食べていき、俺達は酒場を出た。

すると、1人の線の細い女性の声が聞こえ始めた。うっすらと聞こえるが、何を訴えているかわからない。声のする方へ歩みを速めると、彼女の声が聞こえ始めた。


「だ、だれか......」


助けを呼んでいる。一瞬で感じ取った俺たちはその人の元へと向かった。その人は、老婆のようだった。だが、金のブローチを付けていない。いや、今は目の前の人を助けるのが大事だ。俺達は倒れていた彼女を背負い、近くの教会まで連れて行ってあげた。教会には他にも助けを求める者がおり、俺達は連れて来た老婆とも平等に手を差し伸べていった。


「あんた、そんなことやってる暇あんの?」


「遠回りに見える行動こそ、近道。これ、カノンが遺した言葉なんだ。よくわからなかったけど、今なんとなくわかった気がする。今俺がやっていることは、今後自分のためになるって!」


そう思おうと決めて、教会にいた孤児のような子たちと遊んでいるうちに、金のブローチを付けた司祭がにこやかな顔でこちらを見ていた。俺は少し緊張したが、なんとなくその司祭に話しかけた。


「あなたがここの司祭?」


「ええ。街に縁のないお二人であるにも関わらず、尽くしていただきありがとうございます。 こう見ていますと、かつての勇者を思い出します。助け合える行動力、慈愛に満ちた精神、そしてそのお顔も......」


司祭は、俺を舐め回すように回りを回って見つめていた。彼は俺を審査しようとしてるのか? いや、今は考えるな......。


「嬉しいです。 俺、勇者目指してますから」


「あなたも、その勇者に憧れて?」


「え、ええ......。 大勇者カノンに憧れて、勇者を目指してます」


「勇者になるため手を伸ばす行為は、善意からでしょうか? それとも、野望のための道具? 偽善ではないですか?」


そう言うと、司祭はこちらをぎろりと睨みつける。俺は答えることができなかった。


「私は偽善でも、行動すれば善だと思ってるわ」


「君に言ってんじゃあない! 私は若き少年に言葉をかけているのです。どうです? 神に誓って、純粋な心で彼らを救っているといえますか?」


俺は沈黙していた。すると、一人の子供が俺の服をちょんちょんと引っ張った。


「おにいちゃん、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ。 ありがとう」


「ううん、僕の方こそありがとう! 勇者の話、楽しかった!!」


「そう、だよな! 俺は自分の行動に嘘はない! 助けたかったから助けた! 勇者になるため助けた! どちらも俺の気持ちだ!!」


「ふざけるな! 偽善の善など、私の嫌いな言葉だ!! そのキラキラした目も、すべて、壊してやりたい......」


「司祭なんだろ、あんた。 あんたみたいな聖職者が、何言ってんだ!」


「私はただの司祭ではない! 私は勇者の称号を持つ者だ! 勇者を目指す君に、道を示す者だ!!」


そう言うと、目にもとまらぬ速さで、子供数人と姉さんを連れ出していった。

あいつ、子供はおろか姉さんを抱えてどこへ向かったんだ!?


「うあああああ!!!」


子供たちの声が、教会の上から聞こえ始めた。

俺は外に出ていくと、教会の屋根の一番上に司祭が立ちその両腕には片方には姉さん、そしてもう片方には子供たちが捕まえられていた。


「姉さん、なぁに掴まっちゃってんのさ!」


「いやー......。私だって抜け出せるけどさ......。私高いところ苦手なのよ......」


 この司祭、姉さんを片手で持っているのもすごいが、そのもう一方の手にも子供の首根っこを掴んでいた。この二人、重量に差があるはずなのに、屋根の細いところでバランスを保っている。あの司祭、かなりのやり手だな......。ずっと上を見上げていると、司祭がこちらに叫びだした


「勇者であるなら選べ!! 『すべて』ではなく『一つ』! たった一つの選択を、お前の手で決めろ!! お前に、身内を捨て他人を救うことができるのか!! それとも、他人を捨てて身内を助けるか!?」


俺は迷いもなく、屋根の上に立つ司祭に向かって飛びこみその拳を打ちこんだ。その行動に司祭は目を丸くした。人質は放すことなく、ぎゅっと握りしめられていた。


「破魔震伝流‐魂揺‐!」


瞬間、子供とニア姉さんが司祭の手から離れ落ちていく。その様子を捉え、すぐに彼女たちを抱えて地上へと降りた。俺は空を見上げた。多分、あの一発じゃ司祭はすぐに目を覚ます。


「私が、あの一発でやられると思うな!!」


殴られて顔の腫れて空から急降下する司祭が目に映った。冗談かと思いつつも、彼のその胆力に尊敬しつつ、俺はまた拳を構える。


「ああ、たった一発で済むもんか!」


「なっ!?」


司祭が振り上げたこぶしをギリギリでよけ、俺はそいつの顎めがけてもう一発アッパーカットを繰り出した。


「破魔震伝流 ‐魔震天ましんでん‐!!」


司祭の腹部を軽くへこませていき反動で司祭は空高く上がっていく。少し浮いたところで、また落下していく。俺はその落下していく司祭を受け止めて地上に背中から落っこちていった。


「がはぁっ!?」


「ジュノ!!!」


地面に倒れ込む俺に駆け寄る子供たちと、ニア姉さん。みんなが俺に肩を貸してくれて、立ち上がらせてくれた。司祭にも手を差し伸べようとしたとき、彼はその手を払いのけ自分で立ち上がって、みせた。


「な、なぜ私まで助けた!! 私は君に選択を与えた! その選択に私も入ってなかったはずだ!!」


突然起き始め暴れた司祭はこちらに殺気をむけて起き上がった。


「別に、死ぬ必要はないなって思ったからだよ。それ以上もそれ以下もない。姉さんの方は大丈夫だった?」


「うん。子供たちは無事。私もまあ、大丈夫。気にしないで」


二人で談笑していると、司祭は肩を落として俺を見つめ始めた。


「敵わないな、君たちには......。皆、すまなかったな。ジュノ君、君は勇者にふさわしい」


その言葉を待っていたかのように教会の扉が開いた。そこには、改まった表情をしたアニさんがまたも登場してきた。アニさんは俺に勇者の証を渡してきた。


「おめでとうございます。これで、あなたも晴れて勇者となりました。もうすぐショーの開催となりますが、お二人ともこのままショーの会場へお越しになりますか?」


「ああ、頼む」


「よろしく~」


司祭とアニさんは俺達の言葉を聞き、教会の中へ再び誘った。子供たちは、それを見守り俺達を小さな声で応援していく。司祭が奥でなにかいじくり始めると、教会の奥の扉が開き始めた。扉の奥はトーチが等間隔にならんだ洞窟のようだった。


「他の勇者様もお待ちしております。 それでは、ショーをお楽しみください」


「俺たち以外の勇者か、楽しみだ! 行こう、姉さん!」



「わかってるわよ! 私も他の勇者に興味がでてきちゃった。これは勇者になった甲斐があるわね」


俺達二人は洞窟の光りに導かれ、ショーの舞台となるであろう場所へと向かっていく。人一人が通れるような洞窟を進んでいくと、いよいよ上に上る階段と白く飛んで開けた道へ続いていた。この先にたくさんの勇者がいる。そして、たった一人の勇者になるために俺達は戦いあうんだ!!





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