生きている限り…7

 迎えにはエヴァが来てくれた。少し動いただけですぐ息が上がってしまい、誰かに送迎してもらうようにとケイトが言った意味を、ディープは痛感していた。

 エヴァのサポートで、エアカーの助手席におさまって、

「わずか1週間で、ずいぶん体力が落ちるなぁ」

「大丈夫? 父さん」

「……うん」

 

 少したってようやく呼吸いきがおさまり、ディープは聞いてみた。

「エヴァ、サラはいいコだね。彼女に惹かれるのもわかるよ」

 その言葉にエヴァは驚き、慌てて、

「えっ!? ええっ! 何、父さん、僕達のことをもう知ってるの?」

 エアカーが自動運転に設定してあってよかったと思った。


 ディープは笑いながら、

「ああ、やっぱりそうなんだ」

「父さん、人が悪いよ。誰かから聞いたの? もしかして……ラディおじさん?」

 ディープは首をふった。

「ラディはいつもの冗談まじりにしただけで、それ以上、余計なことは言わないよ。ふたりとも、もう親の許可が必要な歳でもないし、何を気兼ねすることがある?」

「でも……。でも、彼女のお母さんのことが……」


 今度はディープが驚いて、身体を起こし、エヴァを見た。

「お前、誰から聞いた……?」

 エヴァは答えなかった。

「ごめんなさい。約束だから、言えない」

 ディープはシートの背に寄りかかり、

「まぁ、また複雑なことが増えるけど、それは僕とケイトの間の問題であって、ふたりには関係ないことだよ。今さら学生時代に戻れるわけでもない。また頭の上がらない相手がもうひとり増えるってわけだ」


 ディープはしばらく窓の外に視線をやって、黙っていたが、

「……エヴァ。クリニックのこと、これからもサラに残ってもらうよう話そうと思っているんだけど、どうかな?」

「えっ?」

「オペ後、リハビリが終われば、普通と変わらない生活が送れるようになるとは思う。でも、少し時間がかかるし、以前と全く同じというわけにはいかない。もし、彼女がやってくれるなら、あとを任せてお願いしたいと思うんだ。今までのやり方にこだわる必要はないし、できることをやればいい。僕が戻ってきた時、居る場所を少しだけ残しておいて欲しいけど、その他は自由にしてかまわない。エヴァとノヴァ、ふたりの出来る範囲でサポートしてあげればいいよ」

「父さんは……それでいいの?」

「そうだね。そろそろ楽をすることを考えろって、ラディに言われた」

 そう言うディープの横顔は、少しだけ淋しそうに見えた。

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