生きている限り…4

「おーい、ディープ。生きてるか?」

 翌日、ラディが病室を訪れた。

 ディープはエリンには負い目を感じていたので、来てくれたのがラディで正直なところホッとしていた。

「エリンに頼まれて代わりに来た。はい、タブレットと眼鏡と……」

 少し起こしたベッドに寄りかかっているディープの前の、オーバーテーブルに並べていく。


「たいしたことじゃないのに、大ごとになって。大げさなんだよ、1週間も検査入院なんて」

 ラディの前だと、つい心を許して文句が出てしまう。それが許される相手だから。

「まあ、医者の不養生ってわけだね。少し休養しろってことで」

 話しながら、手際良く残りの荷物を整理して、物入れに納めていく。


「ラディ、エリンは大丈夫だった?」

 ディープは気になっていたことを聞いた。

「怒っているのと、心配と不安と後悔と……そんなところかな」

 ラディは指を折って数え上げ、

「君の顔を見たら叱りとばしたくなるからと言って、今日は来ないよ」

 ディープは肩をすくめて小さくなった。本当は自分で来たかったはずの彼女は、ディープの気持ちを気遣って遠慮したのだろう。


「そういうわけで、昨日は少し元気がなかったかな。でも、大丈夫だと思うよ。彼女は自分の気持ちを整理できるから。君と違ってね」

 ディープはため息をついて、

「君かエリンに相談すればよかった……」

「そうやって自分で気がついたなら、少しは成長してるってことじゃないの」

 ラディはそこで、小さくクスッと笑い、

「そう言えば、これは気がついてないと思うけど、エヴァとサラはちょっと良い感じになると思うよ」

「えっ!?」

「これからいろいろ楽しみだね〜」

 人の悪い笑顔でからかわれ、ディープは少しムッとする。


 ラディはそんなディープを面白そうに見ていたが、スッと表情をあらためた。

「今後のことだけどね、ディープの担当してる患者さんは、とりあえず休診にして、メディカルセンターに紹介することになった。健診とワクチンプログラムは、みんなで出来る限りやるって。ノヴァもエリンも出来ることは手伝ってる。サラはほんわかした見た目と違って、芯のしっかりしたコだね」

「サラは、いいコだよ」そう、あのケイトに育てられた娘だ。「でも……」

「でも?」


 ラディの問いかける視線に、ディープはなんだか困った顔をした。

「僕とケイトは同級で、彼女とは、その……」

 ラディは含み笑いで、

「ほほう、前に何かあったとか?」

「医学生時代、何かあったというほどのことはなかったと、僕は思っているけど、向こうはどう思っていたかはわからない。僕は彼女をその……、ひとりの女性という視点で見たことはないし」

「直接、気持ちを確かめたことはなかったんだろう?」

 ディープはうなずいた。

「ケイトが独身シングルだと聞いて驚いたくらいだ。ああ、これはここだけの話にしておいてくれよ」

「お互いもういい歳なんだし、今さらどうこうないんじゃないの。もし将来、彼女と親戚になるとなったら、また複雑になりそうだけど」

「ラディ! 全く……」

 ラディはディープに疲れが見えはじめたのに気がついて、

「他に必要な物があったら連絡して。明日はたぶんエリンが来ると思うよ。じゃ、また」

「ありがとう、ラディ」


 ラディは帰りながら、昨日、偶然耳にしたふたりの会話を思い出していた。

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