再会3

 そして、わずかな時間さえあれば、どこでもいつでも寝てしまう彼。寝られるときに寝るようにしていたら、そうなってしまったらしい。


 夕陽の差し込む教室で、ふたりで残って実験を繰り返し、反応待ちの時間に、気がついたら彼は、実験机に頭を落として寝息をたてていた。その無防備な寝顔を黙って見ているうちに、反応時間が終了したタイマーの音で、彼は目を覚ました。


 実験を続けながら、聞いてみた。

「ディープ、君はどうして医師を目指しているの?」

「僕? 父の影響かな。父親も医師だったから、いつのまにか同じように、そうなりたいと思ってた。つまり、僕は『人』が好きなんだと思う。だから、患者さんのそばに居て寄り添う医師でありたい。僕が目指すところはそこかな」

 それから、彼はまっすぐに私を見て、

「ケイト。君ならより高みを目指して進んでいけるよ。君は君の正しいと信じる道を進んで行けばいい。周りが何を言おうと、僕は君を信じるよ」


 それは、ずっと心の中で支えになっている言葉だった。


 それから、戦争の混乱で授業が打ち切りになり、卒業が早められた。

「じゃあね、ケイト、元気で。君と一緒の半年間、楽しかったよ」

 握手してあっさりと別れた。


 戦争が激しさを増し、連絡がとれなくなったことに気がついたときは、既に遅かった。私には連絡先を確かめるすべがなかった。


 *


 そのあとも、院内で何度か遠くに姿を見かけることがあった。でも、あえて声はかけなかった。

 彼は今も覚えているだろうか、そう思ったから。


 そんなある日、エレベーターの閉ボタンを押そうとした時、駆け込んでくる人影に、私はあわてて閉まりかけたドアを開いた。


(あっ……!)

 忘れることのない明るい茶色の髪。思わずその名前を呼んでいた。

「ディープ」

 髪と同じ色の瞳のその人は、驚いた顔をした。

「ケイト」


 そして、はじめて出会ったあの時と同じように、彼はニッコリと笑って言った。

「やあ、久しぶり」


 ——この再会が、ここから始まる新しい物語のきっかけだった。

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