生きている限り…1

 エヴァはその日、AI診断プログラムの更新と、メディカルセンターとのネットワークシステムのメンテナンスのために、父親のクリニックを訪れていた。


 タブレットに目を落としてリストを確認しながら、通路の角を曲がったとき、

「あっ!」「キャッ!」

 出会い頭にぶつかった相手が、床に尻もちをついていた。

「ごめんなさい、私……」

「僕の方こそ、ごめん。前を見てなくて。大丈夫?」

 彼女の肘を支えて立ち上がるのを助け、床に落ちたクリップボードを拾い上げて渡す。

「僕はエヴァ・ブルー」

 彼女はうなずいた。

「知ってます。院長先生の息子さんですね。私はサラ・ミュラーズ、研修を兼ねてお手伝いに来ています」


 毎年この時期のクリニックは、子供達の新入学時の健康チェックやワクチンプログラムなどで、いちばん忙しい。今年は知り合いの娘さんにヘルプをお願いしたと、先日聞いたことを思い出した。

「ああ、父がお世話になっています」

「こちらこそ勉強させて頂いています」クリップボードを胸に、柔らかい笑顔で会釈して、「では、失礼します」

 ふわふわの淡いブロンドの髪を後ろでひとつに結び、きれいなコバルトブルーの瞳が印象的だった。


 ——これが、ふたりの出会いだった。


 

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