第5話 とある女子高生の未来

「ねえ、漫画とかって読む?」


「え、読む読む!」


「どんなん読むの?」


「結構ギャグ漫画とか多いかな?あと、マイナーな漫画が好きかな〜」


「へえ、どういうの?」


「うーん例えば……あ、ごめん順番来ちゃったね」


X線検診車からクラスメイトが降りてきたのを見て、スリッパを脱いで検診車の中におそるおそる入る。

男子と女子は別なので、名簿2つ後ろの五谷紗楽さん──初対面で「友達いらない」と言い張った人──が真後ろになり、少し緊張しながら喋った。

せっかく、すらすらと喋ることが出来る話題になったのに間が悪い、と思いながら、X線検査を受ける。予測していたのよりもスムーズに終わった。


入れ替わるようにして紗楽さんと車の中ですれ違う。花衣ちゃんは私よりも名簿番号が早いので、もう次の心電図検査の方へと移動しているだろう。



ちなみに『魔法病』は、初期は自己申告しない限り発覚しない。

私の場合あと20年ほどは初期症状でいられる。初期症状とは魔法を使えるだけで、何の痛みや異常も発生しない状態のこと。

だからいくら検査してもバレることは無い。隠し通すことが出来る。



ファンタジーを手に入れる『魔法病』、それを喜べる人間はまだ何も知らない子供くらいだ。

書き示すことが出来ないほどの悲惨さ。

ありとあらゆる臓器はボロボロになり、皮膚はただれ、内側から外側まで満遍なく傷つく。そんな状況で『魔法病』による回復が働くので、苦しみは長く続きなかなか死ぬ事が出来ない。『魔法病』の末期症状者には安楽死が認められているものの、『魔法』がある程度強いとさらに苦しみながら生きることになるので、制限がある。

まさに生きる屍となって、尊厳というものを全て無くし、いつ来るか分からない死を望み続ける。


その状態になる前に、少しでも臓器や皮膚に異常が見られた時点で、命を絶つ『魔法病』患者は多い。

ずるずると生き延びれば、待つのは絶望だから。国や世界は表向き自殺を止めようとしているものの、本当はみんな分かっていた。

『魔法病』患者は自殺すべきだと。


『魔法病』は難病だ。特効薬はない。

人類が誕生してから今まで、決して少なくは無い『魔法病』患者がいたので、伝染しないことや遺伝によるものでもないことは判明している。ただ、治す方法だけが、いくら時間を掛けても見つからない。


「はい、終わりです」


「ありがとうございました」


異常なし。

これが異常ありになるまでが私の人生。

寿命はきっちり半分。残された時間は寿命の半分の45歳から、今の年齢15歳を引いて、30年ほど。

そのうち異常なし、つまり初期症状でいられるのは20年ぐらいだろう。末期の症状になるのは寿命の半分の、10年前くらいだから。

つまり実際には35歳が、私のタイムリミット。その時が来たら私は自殺する。


私の飼い犬のエマちゃんは今2歳。今年で3歳になる。いつかエマちゃんを思い出せなくなり、そんななかで生きていくなど嫌だったから。だからこれは幸運。──そう、幸運だ。


「ねえ一緒に戻らない?」


「え、うん!」


「仲良くしてくれる人、だいぶ名簿番号後だから。話せそうな人がいて助かる」


「あ、そうなんだね。私も仲良い子名簿番号先だから分かる」


「さっきのさ、物理の授業難しくなかった?てか先生が悪いよねあれは」


「ほんとにそう!何言ってるのかさっぱり理解できなかった」


「それな?建築の方行きたいから物理必須なんだけど…心折れそう」


「建築?もう決まってるのすごいね」


「うーん…いや、ちゃんと決まってはいないんだけどね。いいなって思ってるぐらい。えーと、なつめだっけ?君は?」


「あー、私は…生物関連がいいなって。漠然すぎるんだけどね」


「じゃあ生物選択?」


「まだ決められないかな…」


文系。理系。

日本史。世界史。地理。

生物、物理。

どれを選ぶのか。後悔しないのか。目指す大学は。目指す学部は。就きたい職業は。どれが得意なのか。何になりたいのか。

すぐに、決めなくてはいけない時が来る。1年もない。夏を超えたら仮決めだし、12月頃にはもう決定で変えられない。

未来なんて考えられなかった。未来を失ったばかりだというのに。


「話全然変わるけど、校外学習のバーベキュー、名簿番号で分けられるっぽいから多分一緒になるね。よろしく」


「あ、そうなんだ?知らなかった。私バーベキュー人に任せっきりで生きてきたからできるかなって不安だよ」


「うーん、まあ結構やったことあるけど簡単だよ」


教室につくと、じゃあ、と別れて1つ結びの髪がゆらゆらと他の人の方へと向かっていった。

私も花衣ちゃんの方へと向かう。


「このあと校外学習の班決めだよね?」


「うん!一緒に組もうね」


「───うん。もちろん」



結果だけ言うならば、私は花衣ちゃんと、知らない2人と、いつも1人でいる人との5人グループになった。

校外学習は、1週間後。───あまり楽しみじゃなかった。

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