第2話 とある女子高生のクラスメイト

「おはよ、新しい高校で友達できた?」


「一応1人はできたかな…?日彩ひいろちゃんは?」


「まあいい感じに。入学式スマホ忘れちゃったからライン交換出来なかったのは残念だったけど」


「おはよ〜」


「おはよう」


「おは、遅刻かと思った」


「さすがに2日目から遅刻はしない」


中学校からの友達2人と共に電車を待つ。今まで同じ制服だったのがてんでばらばらになったのが不思議な気分だ。

リボン傾いてる、と日彩ちゃんに直されながら、もぞもぞと足を動かす。

個人写真だけでなく集合写真を撮ると予定表には書いてあったので、慣れないローファーで来たが、くるぶしに硬い部分が当たって違和感がある。自転車で駅まで来るのに、脱げそうでヒヤヒヤした。


「部活はまた剣道?」


「いや…最後の方幽霊だったし。もう運動部はやめとこうかなって。2人は吹奏楽?」


「ボランティアと生徒会と書道」


「帰宅部」


「部活って3つも掛け持ち出来るの?」


新しい高校生活を話題の中心にしていると、電車が来たので乗り込む。人が壁のようで、けれど乗り込むのに躊躇している暇は無いのでぐいぐいと押しながら電車内へと入った。


乗り換えの駅についたのでゆうちゃんは降りていった。私と日彩ちゃんはそのまま乗り、目的の駅まで電車に揺られる。乗り換えの駅で大分人が降りたので、ようやく座ることが出来た。


「友達作れるかなぁ…漫画とかアニメとか好きな人っているのかな」


「キラキラ女子多そう」


「実際そうなんだよ」


文武両道に力を入れた進学校なので、勉強もスポーツもできる人々が集まっている。自分はと言うと、スポーツは苦手な方だ。

仲良くなれる人はいるだろうか。


「じゃ、お互い頑張ろう」


「うん、頑張ろ」


日彩ちゃんとは同じ駅で降りるが向かう方向は違う。1つ前の駅の方が近いのに、私と同じにしてくれているのだ。

ふう、と息を吐いて学校への道のりを歩き始めた。同じ制服の人の流れについていく。


(うわ……やばい足痛すぎる)


頑張ろうと力んだものの、しかし、歩く度にローファーの縁の部分がくるぶしにあたっているせいで、学校まで残り半分を過ぎた頃には痛みのことしか考えられなくなってきた。


(本当に痛いどうしよう)


くるぶしに目を向けた瞬間だった。



───ごっそりと、何かが抜け落ちた気がした。



痛みが嘘のように消える。それどころか縁が当たっている感触はあるのに全然痛くなくなった。


思い当たるのは、ひとつしか無い。

『魔法病』。

ファンタジーを手に入れさせる代わりに、寿命を半分奪い、死期が近づくにつれて見るも無残に衰弱させていく病。

治療法はない。他の人には伝染らない。『魔法』を使ったとしても使わなかったとしても、きっちり寿命の半分で死ぬ。

発症した時点で、もうどうしようもない。


(寿命を100年と見積もるなら、死ぬのは50歳。最近の女性の寿命は87…?とすればざっくり43歳。だいたいそれぐらいか)


もし今40代だったとしたら、すぐそばに迫る寿命に怯えていただろう。けれど実際には今10代で、まだ時間があるように思える。

そもそも15年しか生きていない自分にとって、40代など何も思い描けないはるか遠い年齢だった。


ーーーーー


3年後を見据え、皆さんには今から目指す先を決めていてほしい。

──ざわざわと、空気が揺れた。


学年集会ということで、点呼を取り次第すぐに体育館に移動した。

そこで校長先生の発言へと戻る。


「そんなこと言われてもさ、今までここが目標だったんだから無いよね」


「だよね、大学とかまだ何も考えてない」


「合格出来てハッピーぐらいなのにね」


こそこそと隣のショートカットの女の子と喋る。名簿番号が一つ前の人だ。──名前はまだ、覚えていない。


さすが進学校というべきか。まだ入学して2日だと言うのに将来をもう考えなくてはならないのか。私は何も考えてこなかった。

ただ、実力的に入れると思ったから受験しただけ。


「では1組からクラスに戻ってください」


気づけば学年集会は終わっていて、ショートカットの女の子はもうすでに他の子と合流していた。

金曜日に話した、上原花衣さんは見つからない。多分前の方にいるのだろうけど、もうすでに移動し始めている人の波に飲まれて分からない。


「ねえ一緒に行かない?」


「あ、うん、行こ行こ!」


場所的に名簿番号がすぐ後ろなのだろう。1つ結びの女の子に声をかけられた。


「ごめん名前聞いてもいい?」


五谷ごたに紗楽さら、君は?」


「あ、神崎なつめです!」


君という呼ばれ方に少し引っかかったものの、にこっと笑ってくれたので多分良い人だろう。名簿番号が近いなら何かと話すことになるだろうし、仲良くしたい。


「私、友達いらないって思っててさ〜」


「え、…あ、そうなんだ?」


じっと見つめてくる目はどう返すかを見られているのだろうか。──予想外でうまく言葉が返せない。

仲良くしたいと思った矢先にいきなりの。何て言ったのか、頭に染み込むまでに時間がかかった。


「名簿番号近いし一緒に移動する人欲しいなとは思って!よろしく」


「あ、うん、よろしく〜…!」


頭のいい人に変わっている人は多い、とはよく聞くけれど。まさか同じクラスに名簿番号近めで引き当ててしまうとは──


「このあと集合写真だよね?」


「うん!」


「でそのあと個人写真」


「教室でしばらく待機だよね」


──と、身構えていたけど、あの衝撃的な発言以外はいたって普通で、聞き間違えたのかと思うくらいちゃんと話せている。



今歩いている校舎は、新しく建てられた部分と昔からある部分が混在しているので、階段が多い。

どうやってクラスに帰るのかはさっぱりだったけれど、五谷紗楽さんは迷いなく進んでいくのでついていった。

もはやどうやって歩いたか分からない、というところでクラスに戻れた。


「じゃ、これからよろしく」


「あ、うんよろしくね」


1つ結びの髪がはねて他の人のところへと駆けていく。


ここは県内でかなり名の知られた進学校。

頭がいい人と変人は紙一重であると覚悟した。

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