第8話 オニオンサーモン寿司を食べた勇者に負けちゃうなんて、それでも四天王最強なの?

「ピッキー、お料理が減っていないわ」


「すまないね。マヨネーズがあれば、割とイケルかもと思ったんだけど」


 結局マヨと刺身が合うわけでもなく、ムダにマヨを消費してしまった。

 残飯は、あたしがもらうことにする。

 

「ぬははーっ! 我が名はダークナイト。教会を潰して回ってただいま見参」


 あ、戻ってきた。


「意外と早かったわね? 教会はすべて潰してきた?」


「ま、まあ。お前たちが指摘した教会の地点は、あらかた破壊してきたぞ!」


「そう。それはどうも」


 教会が破壊されたことで、街の住民が歓喜している。

 やっぱり、教会は人々にとって邪悪な存在だったみたい。

 国の税金より高いお布施なんか、要求するからよ。

 

「でも近隣住民に迷惑をかけたなら承知しないわよ」


「いや。普通は潰さないか!?」


「ダメよ。滅びるべきは教会だけよ。近隣住民は、ただの被害者なんだから」


 教会は勇者だけではなく、世間にも搾取を要求している。


 ある意味、魔王よりえげつない奴らだ。


「うむ! 教会があるせいで、我ら魔王軍が脅威の存在と恐れられているからな! 我々は庶民から金銭を搾取するような、あくどいやり方は好まぬ! まずは勇者を倒し、人々が絶望したところで正面からすべてを破壊し尽くしてくれるわ!」


「勇者は倒すつもりなのね?」


「無論!」


「あ、そう。じゃあ敵ね。ユリー! ハッサン! マレリー! お願いね!」


 あたしは、「百合に挟まれる三人衆」に、四天王の足止めを頼む。


 その間に、勇者が食べたくなるような料理を考える。


 とはいえ、相手は腐っても四天王だ。


「うわー! こいつ超強い!」


 マレリーが、ぶっ飛ばされた。


「てえてえ!」


 ハッサンの剛腕も、四天王最強には通じない。


「バカな。我々だって、実力は上がっているはずなのに」


 ユリー二世に至っては、剣さえ抜いてもらえないくらいである。徒手空拳だけで、軽くあしらわれていた。

 

 屈強の三人が、ほとんど相手にならない。

 さすが、一晩で世界じゅうの教会を取り潰してきただけある。


「ぬはは! 脆い! 脆すぎる! これが勇者一行の実力か?」


「ええ。でも、これで充分よ」


「なにい!?」


「見ていなさい。勇者の本当の実力を」


 あたしは、カルパッチョを完成させた。


 生のサーモンをスライスしたタマネギの上に乗せて、オリーブオイルを垂らしただけである。


「そんな料理で、勇者が強くなるとでも?」


「おいしい! 力がみなぎってくる!」


「ええええっ!?」


 コイツ、いちいちリアクションしないとしゃべれないの?


「オリーブオイルと塩だけっていうシンプルな味付けなのに、タマネギといっしょに食べると見事に調和が取れている」


「まだあるわよ。オニオンサーモンのお寿司よ」


「やったー! マヨネーズだ!」


 ピッキーが、両手を上げてバンザイをした。


 そう。勇者は「マヨラー」なのである。

 マヨネーズがあれば、どんな料理でもおいしく食べるのだ。


「タマネギとサーモンだけでも、相性最高だったのに、なんだこのマヨとの親和性は!? マヨ最強! うまいっ! これは、無限に食えるぞ!」


 オニオンサーモンは、子どもにも大人気のお寿司である。

 舌がお子様の勇者でも、満足させる味だ。


「まだあるわよ。あなたに食べさせたいって言っていたでしょ?」


「デリンはまだ、なにか隠し玉があるのかい?」


「あなたに、これを食べさせたかったの。『ツナマヨ』のおにぎりよ」


「やったー!」


 ツナ……マグロの水煮を、マヨネーズで和えて、ゴハンの中に詰める。

 おにぎりにして、と。


「さあ、どうぞピッキー」


「いただきます。はむ! おおおおおおうまい! うますぎる!」


 異世界でも、ツナが作れた。しかも、ツナマヨも完成できるとは。

 故郷の地球でしか、食べられないと思っていたのに。


「ツナの脂と、マヨの脂肪分が絶妙に絡み合って、しっとりしたライスをさらに濃厚にさせている。この味は、異次元のうまさだよ」


 あたしは無限ピーマンも、おまけで作ってあげる。


「これがツナとピーマンを合わせた、無限ピーマン! あああ、こんな味だったんだ。ピーマンの苦手を克服した、今ならわかるよ。これはまさしく、デリンの故郷に出てくる、最強のピーマン料理! 出会えて、幸せだ!」


 ピッキーが、ごちそうさまをする。

 

「ようやく、すべてのスキキライを克服できたよ。デリン!」


「がんばったわね。ピッキー」


「応援してくれてありがとう、デリン!」


「ピッキー」


「デリン!」


 あたしたちは、抱き合う。


「あのー」


 おっと、忘れていた。四天王最強のナイトが、まだいたんだっけ。


「ああ、こんにちは。待たせたね。さよなら」


 ピッキーが、手から雑に光を放つ。


「ぐおおおおお!」


 浄化の光によって、モンスターは消滅した。


 四天王最強のナイトさえ、ピッキーの敵ではない。


「オニオンサーモン寿司を食べただけの勇者に負けちゃうなんて、それでも四天王最強なの?」


 情けない四天王は放っておいて、いよいよ魔王城へ向かうことに。


「これで、すべてのスキキライはなくなったのよね、ピッキー」


「うん。デリンのおかげだ。私はもう、なんでも食べられるよ」

 

 

「そう……ではもう、あたしの出番は終わりね」

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