第6話 チンジャオロースを食べただけの勇者に負けるモンスターって、哀れザコすぎて泣けるんですけど

「うわー! ピーマンのおばけだ!」


 魔物が街に現れて、住民が逃げ惑う。

 

「ピーピーピー! あてくしは、まともじゃねえええ!」


 著作権に引っかかりそうな歌を垂れ流しながら、植物型の魔物が街を襲っていた。

 手に持つ、サボテンギターをかき鳴らして。


 ピーマンの身体から、頭と手足が生えている。


 

 その姿を見ただけで、ピッキーは勇者なのに怖気づいてしまった。

 ざっこ。

 


「あんたたちみたいな汚物しか放出しない種族なんて、あてくしが捕獲してあげる。おとなしく、あてくしの養分におなりなさいな!」


 魔物が、ピーマンのツルから触手を伸ばす。

 

「不埒モノめ! なにものだ!」


 ユリー二世が、剣で触手を切り捨てた。


「あてくしの名は、アルラウネ! ピーピーピーで、まともじゃねえですわあ!」


 たしかに、ロクでもない。


「てめー。ピーマンになってオイラたちを動揺させるとか、ただもんじゃねえなー?」


「ええ。あなたたちの弱点など、魔王様には筒抜けなの! おまけにあてくしは、死んだ四天王様の怨念を分けてもらって、さらにパワーアップしているのよん!」


 ピーマンが先端についた触手で、マレリーとハッサンを拘束した。


「さて、あてくしの一部分を食べて、あなたたちもあてくしの眷属になりなさいな!」


「うわー! 頭からピーマン生やすなんて、いやだー!」


「てえってえ!」


 マレリーとハッサンが、暴れ回る。


 しかし、伸縮自在なピーマン触手は、二人のパワーを相殺してしまう。


「ユリー! あなただけでも、敵を足止めして! あと!」


「あと、なんですかな?」


「できるだけ、ピンチを装って!」


「承知!」

 

 相手が勝ち誇っている今は、逆に勝機だ。完全に、油断をしている。 

 

 あたしは【合成レシピ】で、勇者にふさわしいレシピを考えつく。


「レシピができ上がったわ。今日のメニューは……『青椒肉絲チンジャオロースよ!」

 

「百合に挟まれる三人衆に、モンスターを足止めしてもらう。


 その間に、あたしは料理を作る。


 炎魔法で熱したフライパンに、細切りのピーマンとタケノコ、豚ひき肉を一緒に炒めた。


 続いて、甘辛く味付けをする。


「できあがったわ! デリン特性の、チンジャオロースよ!」



「うむ! デリンどの! 早く食べさせるのですぞ!」


 ユリー二世が、触手に掴まってしまった。


 これはいけない。早くしてやらないと。


 あたしは、勇者ピッキーにチンジャオロースを食べさせる。


「うん! 最高だ! ピーマンって、タケノコと一緒に食べると、こんなにおいしいのか! ちょっと七味が効いているのが、ポイントだな!」


 ひき肉もアクセントになっていて、プチプチした食感になるのだ。


「ああ。これは、白米がほしくなる!」


「もちろん、ありましてよ。ザコ勇者さま!」


「あああ。ボクはダメな勇者だ! デリンの料理がないと、ボクは生きていけない!」


 丼いっぱいの白米の上に、ピッキーはチンジャオロースをワンバンさせる。

 そうそう。これが、一番うまいやつ!


 ピッキーは、あたしがそうしてほしい食べ方を、ちゃんと理解している。


「うまい! チンジャオロースと白米、究極の出会いだ!」


 ピッキーは、あれだけキライだったピーマンを、あっさり平らげた。


「ごちそうさまでした!」


 さて、と、ピッキーがアルラウネとかいうピーマンヤロウに立ち向かう。


「ひいいいいい! なんなの、バカな! このあてくしが、圧倒されている!」


 魔物が、後ずさる。


「来るな! おのれ!」


 ビビっている魔物が、ピーマン触手を無数に放つ。


 だが、勇者ピッキーは襲ってくるピーマンにかじりつく。


「そのピーマンを食べては、敵の傀儡になってしまいますぞ!」


「平気よ。今のピッキーに、精神汚染は通用しないわ」


 あたしの魔法により、ピッキーはピーマンの毒を受け付けない。


「じゃあ、死のうか」


「ぎゃああああああ!」


 浄化の光によって、ピーマンのおばけはただのピーマンに成り下がった。


 チンジャオロースを食べただけの勇者に負けるモンスターって、哀れザコすぎて泣けるんですけど。


「デリン、おかわりを」


「ええ。喜んで!」



 追いチンジャオロースを作って、あたしの腕はパンパンになる。

 だが、こんなに充実した料理は、久しぶりかも。


「ありがとう。デリンがいなかったら、わたしは負けていた」

 

「どんな苦手なものでも、料理次第でおいしくなる。母からの受け売りよ」


 イヤイヤしても苦手な食材をおいしく食べさせてくれた、母親に感謝だ。


「デリン、キミのお母様は、男爵夫人だよね?」


「ええ」


「たしか奥方様って、お料理は苦手だったよね?」


 おっと、いけねえ!


 勇者ピッキーには、転生のことは話していなかったんだ。


 この一件は、内緒にしておかねば。

 

「それより、教会よ! タケノコの値上げに加担していたって、報道されていたわ!」


 なんとか、話題を教会の不正ニュースで上書きする。


「竹の槍って、最近高かったでしょ? みんな利用するから、値段を教会が釣り上げていたそうよ!」


「相変わらずですな。教会は」


 どうにか、ごまかすことはできたようだ。


「デリン、おめーからはこの世界じゃない匂いがするんだけどな」


「気のせいよ、マレリー。いつも料理をしているから、香辛料の香りじゃない?」


「それだ。ようやく理解できたぞ」


 あたしは、ホッとする。


 もし、異世界から転生したと知られたら、あたしは好奇の目で見られるだろう。

 誰も、あたしの料理を食べてくれなくなるかもしれない。


(勇者 ピーマン克服)

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