第5話 ピーマン苦手な勇者だなんて、普通にザコザコ

「勇者ピッキーって、ピーマンも普通に食べられないのね。ザッコ」


 あたしは、ピーマンの肉詰めをモッシャモッシャ食べる。


 魔王に仕える四天王の一人が収めていた塔を、攻略したばかりだ。


「せめてものおもてなしを」とのことで、ピーマン料理をいただいている。


 この街は、冒険者の初期装備である「竹の槍」の名産でも知られていた。

 驚いたことに、竹は魔法使いの杖としても愛用されている。あたしも魔法の触媒には、ここの竹を使用しているくらいだ。

 エジソンが電球を開発する際に使用していただけあり、やはり竹は魔力の伝導率が高いみたい。

 よく考えたら、おとぎ話に出てくる魔女のホウキも、持ち手は竹だったわね。


 で、この街の名産が、竹とピーマンである。


 出された夕飯は、タケノコごはんと、ピーマンのハンバーグ詰め、ラーメンだ。


「まあ、そういうなって。オイラも苦手だぞ」


「百合に挟まれる三人衆」のひとり、盗賊のマレリーも、ピッキーと同じようにピーマンがキライだ。

 ハンバーグのピーマンだけを、残している。


「でもあなたと違って、勇者はタケノコは食べているわよ?」


 勇者ピッキーも、タケノコは食べるのだ。

 タケノコごはんは、おいしそうに食べている。

 案外、高級品だと思うんだが。それも、日本人の感覚だからなのだろう。

 異世界では、割とメジャーな食べ物なのかもしれない。


「その辺に生えてる、雑草じゃん。あんなの、何がうまいんだってのー」


「そうだそうだ」

 

 同じようにタケノコに手を伸ばさないハッサンと共に、ラーメンをすする。

 メンマとナルト、チャーシューのついた、昔ながらの中華そばだ。

 異世界に「中華」なんてないが。


 ひょっとすると、異世界ではタケノコって、雑穀扱いとかだろうか?


「その割には、二人はおいしそうにメンマを食べているじゃない」


「おう。コリコリしてうまいんだよな」


 ハッサンに至っては、メンマのおかわりまでしている。


 あたしは、どんぶりの中に入っているメンマを取り出した。

 

「メンマの原料は、さっきあなたが『その辺に生えている』と形容した雑草なんだけど?」


「マッ!? メ、メンマの原料が、竹だっていうのか?」


 マレリーが、お箸からメンマを取り落とす。


 メンマがタケノコであることは、本当だ。

 タケノコを蒸して一ヶ月ほど乾燥させたものが、メンマである。

 中国や台湾に、メンマ専用のタケノコがあるらしいけど。


 異世界のメンマは、それに勝るとも劣らない。

 

「どう? 竹も案外、おいしいもんでしょ?」


「おお。デリン。お前、オイラたちのスキキライまでなくして、オイラたちまで百合に溺れさせようってか?」


「てえてみが深い」


 マレリーとハッサンが、青ざめていった。


「ないわよ。安心して食べなさい」


 あたしはただ、竹の偏見をなくしたいだけだ。


「いやあ、竹ヤブでタケノコを取ったときを思い出しますな、勇者よ!」


 ユリー二世がピッキーに声を掛ける。


「そうだな。しかし、成長しすぎたタケノコは、あまりありがたがられなかった」


 タケノコは、成長して青くなると、竹になってしまう。そうなると、もう食べられなくなる。流しそうめんの台にでも、するしかないだろうな。


「子どもが苦手な野菜といえば、ニンジンとピーマンはほぼツートップじゃないのかー?」


「かもしれないわね。あたしも子どもだったときは、ピーマンが苦手だったわ」


 あたしが言うと、ピッキーがあたしの肩を掴む。

 

「デリン! どうやって克服したのか、ぜひ聞きたい!」


「そんなにガッツかなくても、教えてあげるわよ。そうねえ」


 あれは、母親が作ってくれた料理である。

 

 当時はそれほどメジャーではなかったが、無限ピーマンという料理が開発された。


「ツナとピーマンを和えたものよ」


 たしか、ツナの水煮、細ぎりにしたピーマンを使う。

 で、一緒に和えてレンチンし、コショウをかけたらできあがりだ。


「デリン。ツナってなんだー?」

 

 マレリーのリアクション通り、ここにはツナがなかった。

 マグロはあるが、ツナのような保存食品がないのだ。


「でも、うまそうだな。ピーマンって、なにがうまいんだ?」


「食感かしら? 慣れると、苦みもクセになるものよ」


「そうかー。いただきまーす」


 ガマンして、マレリーがピーマンをかじる。


「ううーん、オイラにはまだ早かったかもしれんなー」


「ムリをする必要はないわよ」


 マレリーを強くしたところで、勇者ほど強く慣れるわけじゃない。


「いつものように、ピッキーでも食べられそうなアイデアを考えるわ。ささ、食べさせてみなさいよ」


「わかった。あーん」


 毎度おなじみ、ピッキーによる食べさせっこを始める。


 焼いているためか、コリコリ感はなくなっていた。

 その分、しっとり感が肉と混ざっている。

 苦みが舌を支配する分、肉の旨味がさらに引き立った。

 スキキライを克服させてくれた、母親には感謝だな。


 とはいえ、これは強敵だ。 


 さすがに、勇者にピーマンを食べさせるのは無理だろうか?


 あたしが長考モードに突入していると、運悪く魔物が襲ってきてしまった。

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