第2話
「ひええ〜っ!星くん、何とかならないの!?無敵のスターパワーとかで!」
「むり!むり!ぼく、星くんじゃなくてオドラデク!」
私達は、容赦なく追いかけてくるヘンな一つ目犬から命からがら逃げているところだった。ばかに鼻が良いようで、隠れてやり過ごそうと思いもしたが駄目だった。そうなったら走り切って撒くか__________倒す他ない。
まず現実的なのは撒くことだが、身軽になった私でも距離を詰められてきている。万一成功したとしても一つ目犬が居ることへの根本的解決にはならない。こんなに暗く広い森の中で撒いて、いつ見つかるか分からない恐怖に怯えるなんてごめんだ。
だとしたら、残った道は敵を倒すのみだ。…正直、現実味がない。あんな化け物を素手で、ものを抱えたまま倒すだなんて………ものを抱えたまま?私は何を持ってたっけ…犬は、首に怪我をしてた…………いいことを思いついた。
「……ごめん、星くん。覚悟決めて!!」
「なになに!?どーゆーこと!?」
僅かなリードを利用し素早く木に登って敵の様子を窺う。案の定、視覚に力を割いていた犬は一瞬私達を見失って止まった。その間に不運な糸巻きの細く透明な糸を外して、輪っか上に緩く結び、準備する。
「ぎゃーーっ!?何してるんだよ!痛いだろ!」
「まじごめんっ!ちょっと我慢してて!!」
一つ目犬が声で私達に気づき、まっすぐ飛びかかってくる。その時、私は大声を諌めて敵の鼻先に糸を垂らした。それは見事犬の首に引っかかり、多大な圧を掛けた。驚いたのか犬が動きを止めると、体重が掛かって首吊りの姿勢になる。
私は必死に糸を引っ張り、躾首輪のように無力化するまで続けた。
「グギ…ギュ」
わずかな時間が経ち、犬が苦し紛れの唸り声を消して力を抜いた。私も糸を持つ手を緩め、木の下に降りてそそくさと糸を外し始める。まだ息はあったのでほっと胸を撫で下ろした。「うわぁ...生傷に食い込んで血が出てる。ごめんね、わんちゃん。」
「おうい!僕のこと忘れるなよ!痛かったんだぞ!」
「星くん、普通に動けるじゃん。そっち側に今戻すからちょっと待っててね。
…はぁ、ホント運悪いなあ、私。折角いい夢見たと思ったのに。」
「夢?ここが夢なわけないだろ。現にさ、犬が追っかけてきて知恵で倒したじゃないか。こういうのは、夢なら大体捕まるか逃げ切るんじゃないか?」
「たしかにー…でも、こんなの現実じゃないよ。私が見てるヘンな悪い夢。どうせこの辺で終わって、朝が来る。そしたらまた寝坊してて、急いでアイロンかけて...
この犬だって、かっこいいけど非現実的でありえな…い?」
犬の糸をほどき終わってよく見た時、呆気にとられてしまった。
犬は気づいたら縮んでおり、獣人(ケモ耳じゃない方)の姿で倒れ込んでいた。
(狼男ならぬ犬男...?息はあるし倒されて変身が解けたのかな。……って、わっ!?起き上がった!?)
「イタタタタ…俺は何をしてたんだ?取り敢えず周りは誰もいな…
あ。…………ハ、ハハハハ。…すみませんね、何か、着る物を」
彼は今しがた受けた首の傷が癒えぬまま起き上がり、様子を窺っていた私たちに気づくと、はっとして赤面し非礼を詫びたのだった。
異世界カフカ えふちゃん @efuchan
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