修学旅行⑫
その拠点は大きな屋敷のような形をしていて、大きな塀で囲まれている。
「ここにお母さんがいるのか? 」
正門の目の前に経つと何故か足が震える。
俺は恐る恐る敷地内に入った。
日が暮れて薄暗くなっている屋敷はとても気味が悪い。
そこには数人の教徒が立っており、俺には気づいていなかった。
だが、今回はナルノス神教を襲いに来たのでは無い。
俺は'この組織で成り上がる'
そしてお母さんの居場所をつきとめる。
俺はそこにいた教徒たちに話しかけた。
「すみません、ここの屋敷の1番偉い方はどちらにいますか? 」
「ここの教団に入信したくて 」
俺がそう言うと、教徒達は驚くことなく中に案内してくれた。
中に入ると、2人の教徒に連れられ廊下を進む。
屋敷の中はきちんと掃除されているようだが、やはり光源が足りない。
とても薄暗い廊下を通り、ある部屋の前に着いた。
そこの扉には、'第7部隊 隊長室'と書かれていた。
どうやらこの屋敷はナルノス神教第7部隊の拠点らしい。
ノックして部屋に入ると、そこには丈の長い黒装束を纏って、窓の外を眺めている男がいた。
彼が隊長か?
年齢はそこまで高くないようだったが、取り巻いている雰囲気がちがった。
俺は恐る恐る後ろから声をかけた。
「失礼します 」
「入信を希望して来ました 」
俺がそう言うと、男は振り返りこちらに歩いてきた。
そこにあったテーブルに向かい合って座ると。
男はゆっくりと口を開けた。
「君はなぜこの教団に入ろうと思ったのかい? 」
「俺は…俺はこの教団で、自分の価値を見つけたいんです 」
それは詰まりながらもそう答えた。
もちろんそんなの微塵も思っていない。
'さらわれたお母さんを取り返すため'なんて言えるわけが無い。
俺が答え終わると、男は少し笑みを浮かべた。
「お前、嘘をついているな 」
「まぁいい、おもしろい 」
「お前の入信を認める 」
俺は違和感を感じながらも、心の中でほっとした。
俺は後から、この違和感の正体に気づくことになる。
それから、俺はナルノス教徒として生活を始めた。
状況が大きく動いたのは、俺が'下克上'をした時だった。
この教団にはある制度が存在する。
それは'下克上'と呼ばれ、隊長に実力で打ち勝ち、その地位を奪うというものだ。
俺はその制度を知ってから、暇があれば方法を考えていた。
そしてある日、俺は隊長が森で狼に襲われているところに遭遇した。
それは俺が教団から家に帰る途中、お母さんと最後に会った場所だ。
見るところ、隊長はかなり深手をおっていた。
普通の人ならその状況で隊長を助けたかもしれない。
だが俺は違う。
俺は目の色を変え、胸ポケットに入れていたナイフを取り出した。
そのまま、隊長に気を取られている狼にナイフを刺した。
急所を刺された狼は、暴れることなく死んだ。
「助けてくれてありがとうな、チルハ 」
隊長は俺に礼を言ってきた。
助けた?
何言ってんだこいつ。
俺は地面に倒れたまま見上げる隊長の首に向かってナイフを突き刺した。
これで俺が'第7部隊隊長'だ。
それが俺が下克上を果たした時だった。
俺が隊長になりしばらくした頃、全隊長と会った時に覚えた違和感の正体に気づいた。
俺は人の心が読めるようになっていた。
それは恐らく後天性のもので、全隊長を殺した時に俺に引き継がれた能力だ。
つまり、異能力を持っている人を倒すと、その能力を奪うことが出来る。
俺はそう結論づけた。
そして、上の指示でメルトという人物の行動を監視しろと命令が下った。
俺はメルトに接触し、情報を聞き出した。
それは俺が想像している以上に衝撃的なものだった。
俺はその時、メルトを殺すと決めた。
この組織での出世のために。
~~~~~~~~~
「!!!」
(なんだったんだ、今のは)
何か夢を見ていたような気分だ。
ふと、脇腹に痛みを感じ自分の体を見てみると、メルトが俺の腹部をナイフで貫いていた。
ここで終わりなのか?
お母さんを見つけられずに俺は死ぬのか?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます