第8話 孤狼の令嬢

フェンの住む辺領の村から北西にずっと進んだ先にこの辺で一番、多くの人で賑わう都会に辿り着く。


都市アイシス


街の外観は円形状になっており、中央に行くに連れて土地が隆起している。街道は螺旋上の坂になっており、街の中心は小さなお城のような屋敷が建ち、綺麗に刈られた芝に囲まれ噴水がある。その広大な敷地を囲うように赤いレンガの家屋が建ち並んでいて、上空や遠くから見たその街の外観は圧巻。


また街道の坂の合間には立派な木々も見え


赤と緑のコントラストにその中央に建つ白亜の小城はまさにファンタジー!


その外観は住民は勿論、旅人にも評判が良い。その外観を目で見て肌で感じる為に観光客が訪れる程に。また、爵位こそ低いがファルマズラ大陸に住む者は知らぬ人はいない。人生で一度は訪れたい。その呼び声は他の貴族からにも。


そんな街の中心に建つ屋敷こそ、この辺り一帯の領地を統治するアイシス男爵の住まい。


しかし、美しいのは街や屋敷だけではなく、この屋敷の令嬢は、それ以上に美しく、彼女を一目見た者は同性異性問わず、必ず心奪われる。その美しさは妖精と称される程。


だが、そんな美しい少女は今、庭園の隅に暗い表情で立っていた。右手にはショートソードが握られて。。


少女の髪色は、白銀色をベースに月光に照らされてるいるような、どこか神秘的な雰囲気を感じる青白さを含んだミディアムヘアで、その瞳は黝簾石タンザナイトのように紫色を帯びた深く澄んだ青色で、まるで夜空に溶け込んだ月明かりのように美しい。整った顔立ちは幼さがありつつも見る人を魅了する美貌で、その陶器のように綺麗で白い肌は太陽の光に照らされる事で神々しさを帯びる。


所作の一つ一つに気品があり、隠しきれない育ちの良さと、どこか儚く、悲しさを帯びながらも凛々しくあろうとしている。

そんな殊勝な少女こそ


男爵家の令嬢


ラニア・アイシス


同年代の間では、と称されおり、

その強さは敗北を知らず、8歳にしてアイシス家に仕える騎士を負かし、とある七英雄の血を継ぐ者でも手も足も出せない程。。しかしその圧倒的な強さ故に、彼女は寂寥感に苛まれていた。それは、強さだけではなく、数年前に起きたとある事が引き金になっていた。



「おや、お嬢様、剣は振られないのですか?」


そう声をかけたのは、鎧に身を包み、兜を左脇に抱えるようにして持った高身長イケオジの騎士だった。


「いえ。。訓練をしようと思いましたが、気乗りしなくて。。少し考え事を」


「ふむ。まぁ、お嬢様には私の部下では相手になりませんしな。それにどうやら立ち合い相手より、を。。。」


「相手については前から貴方に頼んでるじゃない。それにを話すのはやめてと前から言ってるでしょ?私はもう大丈夫だから。。」


「申し訳ございませんが、幾らお嬢様の頼みでも旦那様の命令に背く事はできません。それに幾ら実力があっても子供を相手にするのは私の立場上余り宜しくはないですからね。

それにお嬢様。。やはり。。」


「二度も言わせないで。幾ら貴方でも怒りますよ。騎士団長さん?」


そう言うのと同時に、彼女はこの騎士を睨む。


するとイケオジ騎士は困った顔を浮かべて


「これは申し訳ございません。以後このようなことがないよう気をつけます。では、私はこれより旦那様に任された仕事がございます。数日は屋敷を開ける事になります」


するとラニアは驚いた表情を見せ


「騎士団長が直々に動くって。。。」


「旦那様の御命令で、領内の見回りととある調査をしなければなりません。詳しいことは旦那様にお聞きして下さい。それでは」


そう言った後、少女に一礼し、その男は屋敷の門に向かっていく。門に近づくと持っていた兜を歩きながら被る。

門の外には彼の部下が騎乗して待機しているのが見えた。


「すまん、待たせた。では皆、行くぞ」


「「は!」」


男の言葉に、待機していた部下達が寸分の狂いなく同時に声を発する。男はそれを聞き、用意された馬に乗る。


アイシスの街を出てから出て数分。

騎士団長と呼ばれた男がため息を吐く。


「団長、どうしたんですか?」


「いや、お嬢様のことで、少しな。強さもそうだが、それ以上にがまだ。。。な」


「強さはもう我々以上、いやはや面目ない。それには、お嬢様自身で乗り越える他ないでしょうし、団長がこれ以上気にしても仕方ないと思います。」


「いや、お嬢様なら確実に乗り越えられると思うんだが、乗り越えたとして、彼女以上に強い同世代と会ったことがない故に、少々怠慢になってるのがな。。。」


「「はは。。」」


会話を聞いていた他の部下も乾いた苦笑い。。


「これは旦那様も気にしておられるからな。。」


「それを含めての領内の見回りと聞きましたが、それと同時に行う調査というのは?」


「あぁ、そうか皆は旦那様から説明されてなかったな。ほら、これよりずっと南に行くと村があるだろう。代々騎士爵の当主が1人で村に来る魔物と戦っていると言われているあの村が。その森で少々不穏な動きがあるらしくてな、その調査なんだとか。」


「あぁ!確かにありましたね!不穏な動きって。。でも凄いですよね。1人で森に潜む魔物の脅威から村を守ってるだなんて。どんな方なんですか?確か爵位が騎士でも当主になった際は旦那様方に挨拶しますよね?あれ?前回したのいつでしたっけ?」


「あぁ、毎回あの村の当主はんだ。いや、正確に言えばしたくてもできない。何せ当主しか戦える者がいないからな。毎回書面で執り行っておられるな。私も会うのは初めてなんだ。まぁ訪れるのはその村だけではない。領内の村全てだからな。気を引き締めて行くぞ」


願わくば、領内の村のどこかに令嬢と同等か勝る程の力がある若しくは、彼女の心の支えになり得る少年少女に出逢えるようにと。


ここにいる全員がそう思い、馬鉄を鳴らしながら進むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る