桜と雪のLibrary

志水命言

本文

 薄紅が儚さを纏いながらも美しく舞う、桜の季節。窓外から見える桜の木に咲く花も、はらはらと散り行く。そんな桜吹雪の日も、図書館では変わりなく。今日もここにあるたくさんの本たちに見られている気分になる。見るのはこちら側なのに。

本は様々な感情に溢れている。風船が飛ぶように浮かれてしまう喜び。脳内がぐつぐつと沸き立つ土鍋のようになって、やがて爆発する怒り。この世界にありふれる海を宙に放って、それが土砂降りになってしまうような哀しみ。自身の中でワクワクする音楽が流れ出してパレードが続くような楽しさ。……これ以外にも色々な表情がある。そんな本たちが好きだ。今日も手に取った本を開く。


 ふわりと風に誘われ、貴女は優しく微笑む。その顔が眩しくて、視界いっぱいに広がっていた桜は目に入らなくなった。淡く透き通る、希望の光。貴女は僕にとってかけがえない人。どうか、この身が朽ち果てるまで……。改めて、この身に染みた春。もう二度と無い、この瞬間を抱きしめるように、貴女と歩こう。どこまでも一緒に。僕らは、どこまで行けるかな。

 世界は廻る。時は止まることを知らずに、ただただ経つ。「Underground」。廻るマワル世界。僕と貴女も、また廻る。燃えてしまいそうな日も、センチメンタルな日も、僕らは乗り越えた。

 唸る風と共に流れる結晶。僕の心に刺さる。貴女の身にも刺さる。だけど、こんなで終わるほど脆くないことを示そう。廻る世界に。そう言って掴んだ手。底冷えするような感情を手にした。廻る世界に振り回されて生きていかねばならない、哀れな生き物たち。僕の運命の歯車はとうに尽きた。貴女も尽きていた。僕らは、どこまで行けたのかな。


 一筋の風が吹き抜けて、開いていた本のページを閉じた。この物語は……自分自身だ。人の一生とは春から冬へと一周するように過ぎ去って行く。非情に、心を抉って。だけれど周りを見渡せば、花弁や結晶が舞う。並んで歩ける人も居る。世界は残酷なことより、幸せを少しだけ多く創っているのかもしれない。目指す星に手が届かなくても、きっと何かを得ているのだろう。

 本は自分の知らない感情を教えてくれる。流れ込んで来る感情は人それぞれで、それ故に感じることも人それぞれ。だから本は面白い。図書館の窓外には、真っ白は葉の無い木々の間を抜け降り続く、雪の季節。さぁ、どう生きていこうか。

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桜と雪のLibrary 志水命言 @Micoto_Shisui_

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