八、夕闇飯の日は暮れて

「夕闇飯の日は暮れて、未来は過去のように現在であった」


 面豚盗人裸(ツラトンスットラ)は、ゴルゴ13の丘で、集まった信者たちに説教していた。世捨て人であった。世界四大宗教のひとつである、ニヒリスト教の偉大なる開祖であり、その思想はあらゆる宗教を否定し「己の頭で考え判断する」というドゥ・イット・ユアセルフの精神を掲げるモダンな宗教であった。

 信者たちは彼を囲んで座り、まばゆい星空の下で、彼の話を目を輝かせて聞いている。しかし、その内容は素人にはただのタワゴトにしか聞こえないものだった。


「あめつちわかれしとき、」と彼は続けた。「神々がこの世界を作り、その子供らがさまざまな伝説を作った。

 たとえば、闇雲にヤマタノオロチ。キングギドラの失業保険。ホームレスと自殺。豚だったコウモリ。吸血イノシシのひび割れコンセントは、差し込んだ明日もあさっても、方向方角おまえの魂、ボランティア」


 丘の隅の祭壇に横たわるイケニエは、死んだふりをしている。

「ただの露骨について、肋骨にくっついて、離れた頭は空間だ。なにも考え抜いたのだ。

 神はおっしゃられた。『人間は失敗なので、いっぺん滅ぼすことにした。デリートと同じ。人はただのプログラムである』と。


 その日、天はくろぐろ渦巻いた。風は踊ることさえ砂嵐、凍りついた運命を、人生から素手で引きずり出して解凍した二年連続でしか、侵略者になりたいか?!」


 それを聞くや、あわてて飛び去る宇宙人。

「来ていたのはいいが、ただの冷やかしかよ。人類の危機だぞ、助けたりしろよ。このライダー仮面のウルトラ・ゴジラ野郎!」


 沈む国家のへさきで怒鳴るおっさんに、隣のビル・ゲイジュツは目を閉じて静かに言った。

「やめたまえ。人は知り合いから忍耐が得意だ。生きとし生ける……」



 そこまで話したとき、「コンコン」とドアをノックする音に全員が振り向いた。そこは丘で野外だから、ドアなどないのである。しかし相手は白いトガに身を包み、あごひげを生やし、なにやら神聖な面持ちでドアをあけ、彼らの中に入ってきた。そして面豚盗人裸(ツラトンスットラ)の前に来ると、彼をきっと見すえ、次のように言った。


「ジーザスという者だ。俺は殺人を殺す。ケツばかりでかい人間掃除機、ブラックホール企業に、就職新卒倒壊、」

「滅相もナチス」

 相手にしたくないので、教祖は手を振って苦笑して遠慮した。そして彼を指さし、周りの信者たちに叫んで命じた。

「ハイル・ヒットラー・エロ(ひっとらえろ)!」

 その手は、いつしかナチの敬礼になっていた。そればかりかナチの軍服で、ハーケンクロイツの腕輪すらしていたが、下着はブラジャーで、アナルにバイブを入れて超興奮していた。エロだから仕方がないが、いま「ひっとらえろ」と言われたのに、信者たちは動かなかった。「ヒットラーがエロ」なのか、「ひっとらえろ」なのか、判断が難しかったからである。エロの場合はただのバカなので従う必要はないが、彼らはどうもそっちのような気がしてしょうがなかった。


 そこへ芭蕉が入ってきた。やはりドアもないのにドアをあけ、筆で便箋に一句書いた。

「ネオナチは 毒ガスばかり 食い倒れ」




 秋に全世界で封切られた映画「面豚盗人裸(ツラトンスットラ)はかく語りき」のストーリーは、だいたいこのようなものだった。興行収入は散々で、監督は首を吊り、主演男優はその後不幸な役者人生を歩んだ。

 だがこの映画で客を最も困惑させたのは、教祖の最初のセリフに出てくる「夕闇飯」というものがいったいなんなのか、なんの説明もない点であった。そして、それを気にするものはいても、みなすぐに忘れてしまった。




 年明けに、DJぶった映画評論家が、テレビで叫んでいた。


「さあ今年の新作は、死んでしまったアフリカ仕様のデブで誇りだアメフトコミック、題して『スーパー・ゴールデンボールマン(超金玉男)』!

 映画は、いつものとおり犬神家の祟り。正午からアトランチス。at lunchっす」

「なめとんのかああ!」

 そう笑いだすのは、バッファロー脳のスクリーン・プーチンである。そこへ怪盗二重丸三世登場! 常に間に合わない。

 だけど猛獣だから、猪突唐突猛進妄信でアサシン。昨日死んでも葬式ナシの朝死ン。朝シャン。


 物価ならロシアを恨め。コロナもワタシもコンビニトイレ。妄想する、これも、それも、ソ連も。


 そこへ「うちのポチがお世話になって」と、近所のおばさんご挨拶。即死過剰の暁で、くたばった地球。

「いいぞ、もっとやれンスキー!」


 まるでコンドルは禁煙ハゲタカだな。中毒オタク・ハイエナは、みんなこぞって愛してる突然なのだ。


 好きなんだ殺人。大変だなストーカー。生きた心地も通り魔。


 やべえぞ鼻から田代。いつものことさラブソング。誰のことでも仏滅なく、などと言いがかりは世も末だ。


 重箱の片隅に、この世界の四隅に、勝ったつもりか明日をも知れ。タバスコ一気飲みは冗談だ。


 なのに実行。死んだらあの世で地獄行き。生まれ変わって天国行き。生まれ間違って死ぬ屍。


 どん詰まりばかり時空で静止。時も空間もないと、ネトゲでもするしかアランフェス特許許可曲。

「今年の不死身ロックは誰がトリですか?」

「棺おけだって」


「全員、片足入れろー!」

 つまんねえライブ。全然盛り下がる客客客。さすがは棺おけ。メディアは大々的にお気持ちティラノザウルス。

「食え! 食い殺せ!」


 ダメだ、全身キノコだらけだ、この蟻の餌。砂漠だらけたこの国じゃ、引きずり込まれたあとがない。四面子守歌。




 これが正月映画「スーパー・ゴールデンボールマン(超金玉男)」のあらすじだが、封切数秒で発狂する客が続出し、上映禁止になった。




  xxxxxx




 ここからは実話である。

 面豚盗人裸(ツラトンスットラ)は、ゴルゴ13の丘で、集まった信者たちに説教していた。世捨て人であった。世界四大宗教のひとつである、ニヒリスト教の偉大なる開祖であり、その思想はあらゆる宗教を否定し「己の頭で考え判断する」というドゥ・イット・ユアセルフの精神を掲げるモダンな宗教であった。

 信者たちは彼を囲んで座り、まばゆい星空の下で、彼の話を目を輝かせて聞いている。しかし、その内容は素人にはただのタワゴトにしか聞こえないものだった。


「夕闇飯の日は暮れて、加藤家では新婚夫婦の確執が想像以上であった。まず夜がいけない。営みにちぐはぐとズレとすれ違いが顕著で、若旦那が嫁に叫ぶ。

『眠るな! セックスしろ!』

『脅すな! 明日の取立て』

『な、なんのことだ?!』

 驚く夫に妻の流し目。

『使い込んだでしょ。だから、今日だけはそっと首吊り自殺のふりよ。縄のあとセクシーね』


 しかし、そこで引く旦那ではなかった。

『SMじゃないぞ、ウンコしっぱなし。ここまでぶらぶらしてりゃ、死んだことだし、

としか思えねえし』

 すると女房はライターを引っ張り出して言った。いつになく顔の般若に磨きが千手観音がかっている。

『疑いはいつも浮気だぜ。ここまでおいでのdelivery hellに、無限風俗へ堕ちてしまった哀れな男よ』


 夕闇飯の日は暮れて、明日は昨日のように今日なのです。


『やめちまえ!』と、ついにキレだした夫の読経のようなあげつらえ。『お米ひと粒、税込み五千円。おなかイコール破産』

『ついに革命か、あっそ。全てが変わったのね、ふーん』


 それは愛みたいに冷えすぎだった。とても飲めたもんじゃない嫁の美しさのよう」




 余談だが、このニヒリスト教、実は世界四大宗教には入っていない。預言者のイエス・ニヒリスト(英語読みだとジーザス・肉食らい人)に直接聞いたから間違いない。今から二十世紀前の話である。だから鏡は見たくない。映らないからだ。





(参考)この作品の元になった詩


夕闇飯の日は暮れて

未来は過去のように現在だ


闇雲にヤマタノオロチ

キングギドラの失業保険

ホームレスと自殺

豚だったコウモリ

吸血イノシシひび割れコンセント

差し込んだ明日もあさっても

方向方角

おまえの魂、ボランティア


イケニエ死んだふり

ただの露骨について

肋骨にくっついて

離れた頭は空間だ

なにも考え抜いた


風は踊ることさえ砂嵐

凍りついた運命を

人生から素手で引きずり出し

解凍した二年連続でしか

侵略者になりたいか


飛び去る宇宙人

ライダー仮面のウルトラ・ゴジラ

知り合いから

忍耐が得意だ


生きとし生ける


俺は殺人を殺す

ケツばかりでかい人間掃除機

ブラックホール企業に

就職新卒倒壊滅相もナチス

「ハイル・ヒットラー・エロ」


毒ガスばかり食い倒れ


死んでしまったアフリカ仕様の

デブで誇りだアメフトコミック

スーパー・ゴールデンボールマン(超金玉男)


映画は

いつものとおり犬神家の祟り

正午からアトランチス

at lunchっす


なめとんのか


バッファロー脳のスクリーン・プーチン

怪盗二重丸三世登場

常に間に合わない


だけど猛獣だから

猪突唐突猛進妄信アサシン

昨日死んでも葬式ナシ


物価はロシアを恨め

コロナもワタシもコンビニトイレ

妄想するこれも それも

ソ連も


うちのポチがお世話になって と

近所のおばさんご挨拶

即死過剰の暁

くたばった地球


いいぞ、もっとやれンスキー

まるでコンドルは禁煙ハゲタカ

中毒オタクハイエナ

みんなこぞって愛してる突然


好きなんだ殺人

大変だなストーカー

生きた心地も通り魔


やべえぞ鼻から田代

いつものことさラブソング

誰のことでも仏滅なく

などと言いがかりは世も末


重箱の片隅に

この世界の四隅に

勝ったつもりか明日をも知れ

タバスコ一気飲みは冗談だ


なのに実行

死んだらあの世で地獄行き

生まれ変わって天国行き

生まれ間違い死ぬ屍


どん詰まりばかり時空で静止

時も空間もないと

ネトゲでもするしかアランフェス特許許可曲

今年の不死身ロックは誰がトリですか

棺おけだって


全員

片足入れろー!


全身キノコだらけだ蟻の餌

砂漠だらけたこの国じゃ

引きずり込まれたあとがない

四面子守歌


眠るな セックスしろ

脅すな 明日の取立て

今日だけはそっと首吊り自殺のふり

縄のあとセクシーね


SMじゃないぞウンコしっぱなし

ここまでぶらぶらしてりゃ

死んだことだし、

としか思えねえし


疑いはいつも浮気だぜ

ここまでおいでのdelivery hellに

無限風俗へ堕ちてしまった


明日は昨日のように今日なのです

やめちまえ


お米ひと粒、税込み五千円

おなかイコール破産


ついに革命か あっそ

全てが変わったのね ふーん


愛みたいに冷えすぎ

とても飲めたもんじゃない


夕闇飯の日は暮れて

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