第2話 アルバイト生活スタート

 次の日、朝起きて軽くジョギングをしてから朝食をいただき、9時半には家を出てバイト先に向かう。



 その後、異世界仕込みの驚異的な身体能力で仕込みと接客の両方で重宝されるようなった僕は数日後、あっという間にバイトリーダーになってしまった。


 並列思考を使えば、ウエイティングのかかった満席のホールととんかつを揚げるのに大忙しの厨房の両方を瞬時に見極め、的確に動きながら仲間に指示を出していく。


 対魔族戦やダンジョン攻略で培われた才能がここでいかんなく発揮されていく。


 さらに、忙しさのあまり指を切ってしまったチーフの指を本人の痛覚に遅れること1秒以内にヒールを使い、本人も気づかぬうちに瞬時に治してしまう。


 魔族に、斎藤のヒールは厄介と言わしめたほどの高速治癒、前線で指揮を執りながら、勇者にバフをかけ、ケガをした味方を治療していく僕を見た魔族の悔しがる姿は、いつも僕の優越感を満たしてくれていた。


 死を隣り合わせにした戦いに比べれば、ランチのピークなど恐れるに足らずですよ。


 瞬速歩法を駆使してお客様に料理を提供し終え、午後2時からお客さんが少なくなった頃を見計り、休憩に入る。


「休憩入りま~す。」


「斎藤リーダー、今日もいつもの賄いスペシャルでいいですか?」


「はい、料理長、お願いします。」


 休憩室に料理長が賄いを持ってきてくれて、美味しくいただいているところに、本部から偉い人がやって来た。


 僕はとんかつを食べながら視線を上げずに、2人の男に鑑定を試みた。


 常務取締役の山本隆さんと統括マネージャーの田中さんだということがすぐに分かった。


 僕は気づかないふりをして、賄いを食べ続けていると、店長が休憩室に入ってきて、偉い人たちに僕のことを紹介し始めた。


「斎藤君、ちょっといいかな。わざわざ本部から視察に来てくれたので、挨拶してくれないか。」


 僕は店長に言われて立ち上がり、お偉いさんの前で挨拶をした。


「君が斎藤君だね、噂は本部迄届いているよ。君の働きは相当凄いらしいじゃないか。もし良かったら、うちで正式に社員として働いてみないか。」


「わかりました。これも何かのご縁でしょうから、よろしくお願いします。」



「とりあえず、4月から入社してくる新入社員の研修があるから、一緒に受講してくれ。」

「その時は、君の方が現場では先輩なんだから、新入社員にアドバイスできることがあれば頼むよ。」

「1週間の研修の後、それぞれ店舗に仮配属になるのだが、君は5月にオープンする新店舗のスタッフとして、新人アルバイトの指導をお願いしたい。」

「そのまま1ヶ月くらいで新店が軌道に乗ったら、その後は既存の赤字店舗のテコ入れと、今後オープン予定の店舗での新人指導係、人員不足の店舗の補助をお願いしたいと思っている。」



 なるほど、店長が本部スタッフになるのを断ったせいで、僕にその仕事が回ってきたというわけか。


 まあいいさ、魔王討伐隊に入り、魔王城に向かうプレッシャーに比べれば、どうってことないさ。


 自らの欲望を断ち切ることにも慣れてきたし、仕事に打ち込むか。

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