第2話 何よりも大切なもの

 窓から日差しが差し込む天気の良い日、私はふと片付けたいと思い立った。断捨離が何かに良いことを思い出して、この天気の良さを利用して気持ちよく片付けたいと思った。「片付ける、片付ける!」と心の中で叫んで片付け始めた。人生を前進させたい、そんな気持ちで片付けた。そしてゴミ箱に捨てたものを確認した。「バカだなあ・・・無駄な時間とお金・・・」とゴミ袋を見下ろし私はしばばらくゴミ袋を見つめた。その中身はリサイクルショップで買った服と彼からプレゼントされた服とアクセサリーと食品だった。坦々と不要なものをゴミ袋へ入れて玄関先へ置いた後、いつものように川沿いを日光を浴びながら散歩して汗ばむ頃、自宅へ戻った。

 玄関のドアを開けて「なんか(部屋の)空気キレイ」と呟きながら靴を脱いで部屋へ入った。他人が着たリサイクルの服と、他人からプレゼントしてもらったもの・・・。それがゴミ袋へ入れたもので、取り戻したかったのは自分のプライドなのかも知れない。「私に彼が出来てねえ、柄にもなく・・・夢、実現すべきでない夢よ」ふとそんなことを感じて手を洗いながら悲しくなった。自分のことが情けなくて悲しくなったと同時に自分を大切にしたいという感情が湧いた。「大切なのは私、何より大切なのは私、自分が一番大切。」客観的に考えれば当り前のことだ。しかし私に湧いて出た初めての感情だった。

 当たり前のことが当たり前に出来ていない、それが私のこれまでの人生だ。それが私が故郷を捨てて、家族を捨ててた理由でもある。私は世間でいうところの「訳ありの女」というカテゴリーに入るのだろう。自分を大切に出来なかったこと、一言で説明するとそうなるが過去を遡って他人事として捉えても、それは私のせいではない。今は私の抱える問題への核心をつく問題と感情へのアプローチはまだ先にして、前進すればその先で問題の解決と感情の浄化は出来るだろうと信じている。

 そんなことを思いながら手を洗い鏡に映る自分を見て、月曜日のゴミ回収まで玄関先のゴミ袋を置きたくない衝動から、ゴミ袋を一階のゴミステーションへこっそりと入れた。そして私は彼への未練を完全に断ち切った。

 私は今、自分のことを情けないと感じた自分から立ち直ろうとしていて、人並の幸せを掴んだと錯覚して踏み切った彼と過ごした時間の記憶を捨て、再起しようとしている。 悲しかったのは同年代の彼が当たり前のように生活していた時間を、私のこれまでの時間と比べてしまったことだ。私の失われた時間を彼の生活を通して見た。それは私には無かった時間で、誰にでも平等に与えられた時間で、戻らない時間で、他人が仕事に邁進してきた時間で、他人が家庭を営んできた時間だ。それを知って全てをこれから手に入れたいと思った。元来の負けず嫌いな性格がそう思わせている。そんな私に一安心して、そして私のためだけにこれから全力で生きることを自分に誓った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そのままで @yumetoiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ