最終話 廻るめく日々に星々を

高校生活はあっという間に終わってしまった。いろんな出来事がさささーっと。僕らを待つことなくあっという間に。


受験期、まぁ僕は違ったんだが。それはそれは過酷だったなぁ。生徒はせいぜい寝る間を惜しんで勉学にいそしむだけ。だが、先生たちはどうだろうか?


「先生、この問題教えてください。」


「先生、ここがわかりません。」


「先生、もうダメだ―。」


阿鼻叫喚。その地獄を正気を保ったまま見なければならない。ハッキリ言って、苦行だ。そのせいで


「ははは、先生の登頂部を犠牲にしたんだ。お前たち絶対に第一志望に受かってくれよ。あはははは・・・はあ⤵。」


ハゲセン、その頭頂部は水資源に恵まれたこの島国の数少ない荒原となった。まさに不毛の大地ってやつだ。


受験も終わり卒業式、ハゲセンの周りには生徒で溢れていた。


「ハゲセンありがとう。」


「すまん、ハゲセンの毛根たちよ。」


「ハゲセン、スキンヘッドもイケてると思うぜ。元気出せよ。」


生徒同士できっと受かってるって励ましあわないで、みんなハゲセンの頭頂部をいじってた。ストレスに次ぐストレスでハゲセンのハゲ増したってか。笑えねえよ、ハゲセンが不憫で。



当然だが、僕らが卒業した後、新しい一年生が入ってくる。ハゲセンの頭頂部に癒えぬまま。ハゲセンは一年生の担任になったんだと。そこでもハゲセン呼びが定着してしまい、ハゲセンはもう開き直ったらしい。って話を三年生になった苺から聞いている。


「へ―、ハゲセンの登頂部は再起不能かぁ。」


「そんなことより先輩。」


「そんなことってなぁ。」


酷いな苺。そんなことなんて言うんじゃない。ハゲセンが復活してたらビッグニュースなんだからな。新聞の一面にのるんだからな。


「今日は平日の真昼間ですよ。なんで卒業してSPの仕事についたはずの先輩が学校にいるんですか。」


まぁ、もっともなしつもんだな。


「そりゃあ、有給とってきたんだよ。親父さんから苺が去年までの実績と今年の地区大会での日本記録の更新で大学にスカウトされて安泰だって聞いたからさ。祝いに来たんだよ。」


なのに、苺は少し生意気になっていて、


「だからってわざわざ学校まで来ますかぁ。・・・それに、先輩は身長伸びすぎですよ。もう、私よりもおおきいんじゃないですか。先輩だって気づきませんでしたよ。」


「ちょっと付き合ってもらおうか。免許取ったんだ。ドライブに行こう。」


「今からですか!?」


「三年生はもう自由登校だろ。それに苺の授業はお昼までだったみたいだし。」


「なんでそれを・・・。」


SPになって気を配ることをひたすら叩き込まれたからな。


「見ればわかるよ。早く駐車場に行こう。」


「仕方ないですね。」


「今日は七夕だからな。夜まで付き合ってもらうぞ。」


「いいですよーだ。久しぶりの再会ですもんね。」


「お互い時間が合わなかったからな。」


「そうですよ。だから、エスコート期待してますからね。」


「あぁ、ちゃんとプランは考えてある。問題ないぞ。」


そう、SPたるもの完璧でなくてはならない。


「そこまで言うんだったら期待させてもらいますね。」



移動は自動車だ。この日のために、頑張って免許を取ったんだぞ。


「へー、先輩免許なんてもってたんですね。」


苺を助手席に座らせドアを閉める。そして僕も運転席に乗り込んで


「無免許で好きなだけ練習できる場所があったからな。」


そう、SP派遣会社の敷地内に専用のサーキットがあってそこでたくさん練習した。正直、格闘技、護身術、射撃訓練、マナーなんかよりも運転の方が苦手だった。だけど、頑張ったんだ。夜勤明けでふらふらのパパンを助手席に乗せ朝から晩まで、時にはママンに乗ってもらって。


「しかも、マニュアルなんてすごいですね。」


「高級車ってマニュアルが多いから仕方なくな。ほんと苦労したんだぜ。」


「それで今日の行先は?」


「夏の思い出巡り。」


さぁ、あの日の続きを始めよう。



「ここの海覚えてるか?」


「先輩がチャラ男どもをぶっ飛ばしてくれたとこですよね。」


相変わらず、チャラ男は嫌いか。まぁ、苺にとってかっこいい男は親父さんだからな。きっと、苺が僕を好いてくれてるのもそういうことなんだろう。どうだ?せっかく二人きりなんだし聞いてみるか?


「なぁ、一つ質問があるんだけど良いか?」


「良いですよ。なんですか?」


「苺の好きな男のタイプってさ親父さんっぽい人だよな。」


「ぶふぉっ。きゅ、急になに言ってるんですか!?まるで私がファザコンみたいじゃないですか。」


「だって、苺ぐらいの年の子だったら顔のいいチャラ男の方が好きだろ?なのに、苺僕と言ったら誠実さぐらいしか取り柄ないぞ。顔だって、認めたくはないけどかわいい系だしさ。」


そう、この童顔で幼いお嬢様方の護衛することが多い(リピーターがほとんど)。


「それは・・・そうかもしれませんけど。」


「やっぱりそうだよな。苺の中で之かっこいい男って親父さんだもんな。子供からしたら父親はヒーローだから。」


僕も職場でのパパンは素直にかっこよくて頼れる大人の男って思う。家ではママンにデレデレで尊厳なんてないけどね。


「お父さんには内緒にしててくださいよ。」


「ああわかった。僕の口からは言わない。」


ああ、今頃親父さん大喜びだろうな。


-時間は今朝に遡り-


苺が学校に向かったのを確認した後で、僕は花村家を訪ねた。


「廻くん、今日は娘とデートをするんだって?しかもお泊りで。」


「はい、親父さん。告白こそできていませんが、プロポーズさせていただきたく思います。」


「そうか、そうか。君になら任せられる。いいだろう。許可しよう。」


「ありがとうございます。親父さん。」


「おいおい、親父さんじゃないだろう。お義父さんと呼んでくれ。」


「上手くいったらそう呼ばせていただきます。」


ははは、気が早いなぁ。しかも失敗したら恥ずかしすぎて死にそう。


「そこで頼みがあるのだが、」


こうして、お泊りデートを許可する交換条件として車にリアルタイムカメラ、音声レコーダーを仕込み、娘が自分をどう思っているのか確かめて欲しいとのことだった。だから、今の僕らの様子も全部親父さんには筒抜けで、今頃、普段ツンツンしている娘が自分のことをかっこいい父親だと思ってくれていることを知って歓喜しているだろう。もしかしたら号泣しているかもしれない。


「さて、着いたぞ。これに着替えておいで。」


そう言ってオバサンから預かっていた巾着袋を手渡す。


「もしかして・・・。」


そう、そのもしかしてだ。


「水着じゃないですか。それに新品。なのにサイズが合っている!?・・・先輩のえっち。」


そんな目で僕を見るな―。夏の熱気でも吹き飛ばせないような湿度のこもった視線。それに耐えきれなくなった僕は白状する。


「オバサンから預かっていただけだ。」


顔を真っ赤にして背中を向ける苺。


「・・・ちぇ、なーんだ。先輩の趣味がしれるとおもったんだけどな~。」


SPになってから今までよりも声を聴き分けるのは得意になってるんだよな。聞こえている。聞こえているけど聞こえなかったフリをするのが正解だろう。だけど、ただ無視するのも面白くない。ならば、


「苺、何か言った?」


「///。何でもないです。急いで着替えてくるので先輩は待っててください。」


まぁ、僕は下に海パン穿いてるからズボン脱ぐだけなんだけどな。


「さてと、泳げない苺のために浮き輪でも膨らませておきますか。」



「お待たせしました。似合ってますか。」


そんな質問、


「カワイイ。心臓に悪い。今日が平日で良かった。」


即答するにきまってるだろう。


「ふぇっ!!えっと、えっと。・・・ありがとうございます?」


あざとい。これが素なんだけど、どうして苺はこんなにもあざとカワイイんだ。天然だからか。って、いかんいかん。暑さに頭がやられていた。


「じゃあ、さっそく海に入ろうか。」


「っ、はいっ!!」


前回は人込み(一部ゴミ)のせいで楽しめなかったからな。いやぁ、太陽もまぶしいけどさ、笑顔が「まぶしすぎる。


「先輩、楽しいですよ。連れてきてくれてありがとうございます。」


なんだよ、もおおおおおお、かわいいかよおおお。


「喜んでくれてよかった。でも、デートはまだこれからだよ。」


「えっ!!」


「っあ!」


やっべ、やらかした。


「うーん、とりあえずあがろうか。」


「そそそ、そーですね。」


互いにテンパったままそそくさと海からあがる。誰も周りにはいないのにとてつもない羞恥心に襲われ。その僕のバタ足は僕史上最速なのであった。



「「・・・。」」


あの後、前回サービスしてくれた旅館に向かっていた。その車内で一切会話はなく。この状況、オバサンにみられてるんだったらママンにもみられているだろう。恥ずかしすぎる。


「着いたぞ、降りようか。」


「・・・はい。」


そそくさと車から脱出。旅館にチェックイン。今度は正規の料金で。


「おお、久しぶりですねえ。もう、付き合ったのかしら?」


相も変わらず青春大好きの女将さん。


「だから、まだですってば。」


「ははーん、わかったわ。明日の朝食の白米は赤飯にしてあげる。」


バッキャロー。なんで僕の周りの女性はこんなのばっかなんだー。もういい、真面目に相手していてもつかれるだけだ。


「それで部屋に案内してもらえませんか?」


「いやぁ、甘酸っぱい。」


とか言いながらもちゃんと案内してくれるんだから文句が言えない。質が悪い。


「はい、それでは一時間程したらお夕飯をおもちいたしますので、それまでごゆっくりお待ちください。」


そう言って立ち去る女将さん。やっと一息つける


「あの先輩、」


わけないかぁ。


「なんだ、苺。」


「その~、先輩って私のこと好きですよね。」


そうだな、ここは痛み分けといこうか。


「そうだな、苺の僕に対する好きと一緒だな。」


「っえ!!本当ですか!やったー。」


そのまま抱き着いてくる苺。嬉しいよ、嬉しいけどまだダメなんだ。スッ。


「先輩なんで避けたんですか!!」


「いや、そういう過度なスキンシップは付き合ってからだろう。」


「じゃあ、付き合いましょう。今ここで。」


「いや、ロマンチックじゃないじゃんか。」


「いいじゃないですかそんなもの。それに、お姫様抱っこは過度なスキンシップに含まれないんですか?」


「あれは必要があったからであって。」


「なら、私は今猛烈に先輩に抱き着きたいです。これは生理現象です。必要なことです。」


すすすー。ふすまの空く音。まさか、


「あらぁ、彼女ちゃんは彼氏さんにぞっこんみたいねえ。」


やりやがったな、女将さんめ。


「いやぁ、青春成分で若返るわぁ。」


苺は恥ずかしさのあまり燃え尽きてショボンって感じだけどな。


「女将さん、お料理の準備はどうしたんですか(#^ω^)。」


「そりゃあ、お客様から予約が入った時にこの日のために親戚の女の子に手伝い入ってもらってるのよ。全快はいいところをみれなくて悔しい思いをしましたからねえ。いいですか、成長は若者だけの特権じゃありませんのよ。ほほほほほ。」


「お夕飯おもちしてまいりました。って叔母さん何してるのよ。すみませんお客様。このババアはこちらで引き取らせていただきます。それではごゆっくりお召し上がりください。」


「待って、海莉ちゃん。今いいところだったのよ。後生だからぁ。」


「叔母さんはまだ見た目は若いんだから、後生なんて言葉使わないの。」


いい大人の恥ずかしい姿を見て冷静になったのか、苺の暴走は止まった。


プシュー。倒れる苺を抱きとめて


「まずご飯食べようか。」


「はい、」


いつもは僕の方が早く食べ終わるんだけどな。今日ばっかりは一心不乱にバクバクバクバク食べた苺の方が早かった。



食事を終え、30分経過して十分な食休みも取った今。僕は勇気を振り絞っていた。


「苺、夜のドライブに行かないかい。」


赤くなった顔を見られたくないのはお互い一緒だったようで、テクテクと廊下にでる苺。僕は車のカギと箱を持ってその背中を追った。



またしても車両での会話はなかった。


旅館の裏の丘の上に着き、車から降りる僕ら。


「到着、場所は違うけど見に来たものは同じだよ。」


「ほんと先輩は星が好きですね。」


ははは、やっぱりそう思われてるか。


「いや、確かに星は好きなんだけどさ。」


けど、僕のことを知ってほしいから、ちゃんと言葉にしよう。


「苺、誤解してるようだから先に言うけど。僕は星自体が好きというわけではないんだ。」


「えっ?そうだったんですか。」


「僕はな、たくさんの思い出を残したい。思い出にするには何が必要だと思う?」


「急に質問ですか。・・・目印、何か特別な非日常ですか?」


「確かに、今のこの状況は非日常だね。今日は良い思い出になったと思うよ。」


だけど、違うんだ。もっとシンプルなものでいい。


「じゃあ、なんですか?教えてくださいよ。」


「繋がりだよ。その出来事があったから今がある。要するに、その出来事が今の自分に影響を与えていると思えばそれは思い出なんだ。」


「なんとなくわかりましたけど、それと星ってどういうことですか?」


僕は天の川に手を伸ばしながら言う。


「星を好きな人と見る。ただ思いを馳せる。その時間を共有する。結局、僕はただ繋がりが好きなだけかもしれないね。星は繋がりを感じさせてくれるから。だから星が好きなんだ。ちょっとキザすぎたかな。」


あはは、ひかれてないといいけど。


「ふふ、先輩にもかわいいところがあるんですね。」


おっ、結構反応は悪くない。ならもう、今しかない。


ポケットに手を突っ込んで片膝を地面について、箱を開いて言う。今度こそ。


「苺、僕は君が好きだ。君との思い出をこれからも増やしていきたい。だから、僕の隣にいてくれませんか。」


「はい。私で良ければ喜んで。」


こうして僕のプロポーズは成功した。そうして、帰りの車内はこれまでの沈黙を取り戻すように


「先輩、付き合ってもないのにいきなりプロポーズってどうなんですか。このこの~。それにこの指輪宝石ないじゃないですか。まぁ?先輩から貰ったものなら、おもちゃの指輪でも嬉しいんですけどね。」


「一応、その指輪の値段はダイアモンドついているのと同じぐらいの値段だからね。細工が綺麗でしょ。」


「確かに暗くてよく見えませんでしたけど、かなり凝ったデザインなのにゴチャゴチャしてませんね。」


「それに、宝石一つだと飽きちゃうだろ。手貸して。」


「なんですか。指輪じゃなくて手?」


苺の手を掴んで視界に映るなかで一番明るい星に向け


「あー!!なるほどそういうことですか。いやぁ、今のはキザですね。最高にキザです。付き合ってなかったら痛いヤツだって思うところでしたよ。」


「酷いなぁ。一年間ずっと考えてたんだぞ。」


「「あははは。」」


今日見た星空を僕はきっと忘れない。


「廻るめく日々に星々トキメキを。」


これからも僕らの人生は続いていく。少しづつ思い出を増やしながら、星が夜空を廻るが如くミッドナイトスターサイクル

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ミッドナイトスターサイクル 久繰 廻 @kulurukuru

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