第29話 まだ、好きだと言えないから
「やっぱ無理。」
夜、星空、丘の上、風でなびく髪。今告白したらすごく絵になるんだろうなと思う。だけど、まだ僕には覚悟が足りてない。だから、
「先輩?」
急にかがんだ僕を心配したのか駆け付ける苺。情けないな。だけどこのままだと苺にかっこがつかない。
「いや、少し恥ずかしいこと言おうとして悶絶してただけ。もう、言うけどさ。」
「なんですか~。」
にやにやしてる苺。言ってやる。
「なぁ苺。苺は部活だったりで忙しいかもしれないけどさ。また、こうやって流星群見に行ってくれないか。」
「良いですよ。って、へっ?」
ふっふっふ、簡単に告白してもらえると思うなよ。
「そこは告白する流れじゃないんですか。」
「しないよ。」
まだ、好きだと言えないから。
「だから、かわりにまた流星群見に行こうって言ってるんじゃないか。」
「先輩のバカー。サイテー。ヒトデナシ。」
ぽかぽかと殴ってくる苺。また顔っていうかおでこに当たってるんだけど。
「むにゅう~。」
「とりあえず、今日はもう帰ろうぜ。親父さんたちも心配してるだろうからさ。」
ブーブーと腰バッグが振動する。
「噂をすればほら。」
そう言って苺に僕の携帯を手渡す。
『廻くん、娘は無事かね。』
「もう、お父さんってば・・・」
そこからの会話は聞かなかった。きっと親子の会話に邪魔者はいない方がいいのはずなんだ。だから、僕は先に自転車を止めておいた場所に向かった。
「ふー、もうヘロヘロだな。けど、もう少し続いて欲しいと思う僕がいるんだよな。」
そう、独り言。苺は親父さんと喋っていて、親父さんの親バカ度的にまだ苺は電話にかかりっきり。そして、時間が時間だから誰もいないはずだ。そう、思っていた。なのに、
「こんな夜遅くに外出とは先生としてはちょっと心配だね。それで見つかったのかい。やりたいことは。」
ハゲセンがいた。独り言聞かれたかな。ま、ハゲセンにだったら問題ないんだけどな、いい先生だから。
「親父と同じ仕事に着こうかなって思いまして。それで、大学に行くかは後で考える形です。」
「そうか、良かったな。君なら大丈夫だろう。
「えっ!親父をしってるんですか?」
「まあな、先生がまだ高校生の時、あの人にSPさそわれてたんだけどな。武力的なのは期待してないけど、お前は人を安心させれるからオレと一緒にやらないかってさ。」
「なんで断ったんですか?」
「そりゃぁ、先生になりたかったからだよ。先生って仕事はなたくさんの人生に深くかかわれる仕事なんだぜ。ストレスも半端じゃないけどな。」
「確かに、現在進行形で剥げてってる人が目の前にいますもんね。」
「だけど、公開はしてないよ。おでこは後退してるけど。」
夜風で涼しかったが、先生のギャグのせいで寒くなる。それが気まずかったのか、
「じゃあ、先生はそろそろ帰るからな。廻も早く帰るんだぞ。」
「はい、また学校で。」
「ああ、また学校で。宿題やれよ。先生が出した奴だけは絶対に。」
「帰ったら小説書くかぁ。ったく、めんどくさい宿題だぜ国語教師め。」
先生の背中を見送って振り返ると
「先輩、お待たせしました。さっさっ、早く帰りましょう。」
「そうだな。」
苺との距離は、今はまだこれで良い。
「先輩は宿題終わりました?」
「あとはハゲセンの小説だけ。」
「え~、もうそんなに終わってるんですか。私のを少し上げますよ。」
「自分でやれバカ。」
そんな先輩と後輩のたわいのない会話。それと自転車の音が住宅街に溶けていく。真夏のアイスみたいに、余韻を残して。
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