第26話 眠れない夜、起きられない朝
そのまま夜を迎えるのもまずいと思い、
「一、苺、景色を眺めてるところ悪いんだけどさ・・・」
風呂が丸見えであることと、布団が一つしか用意されていないことを伝えた。わかってはいたが顔は真っ赤だ。だけど、気絶することがほとんどなくなった。面白くはないが成長だ。先輩として後輩の成長を喜ぼう。と思ったが、
「か、廻、先輩。風呂までならいいですよ。」
なに言ってんだコイツは。一緒に風呂に入るなんて、付き合ってからだろ。?そもそも今の僕らの関係性ってなんだ。流星群を見た時に互いに好きだったことがバレている。ってことは
「なあ苺、」
「なんですか廻先輩。」
呼び名は廻先輩に落ち着いたらしい。まぁそんなことより
「僕らって今付き合ってるのか?」
告白こそしてないけど両想いだというのが発覚したし。僕に至っては星に「苺と結婚できますように」なんて言ってるから告白通り越してプロポーズだよな。
「そそそ、それは、、、。まだ、付き合っていない・・です。だってちゃんとした雰囲気で告白されてませんもん。一乙女としてロマンチックな告白を求めます。」
まぁ、お互いにぎゃぁぁぁってなったのが告白だったら間抜けすぎるもんな。
「うん。わかった。苺の言う通りだな。じゃぁ、今日も一緒にふろに入るのは遠慮しておこう。」
「わかってくれたならよかっ、、、よくなーい。先輩一緒にお風呂入りましょうよ。美少女の裸を合法的に、合意の上で見ることができるんですよ。」
一人ノリツッコミからの美少女の押し売り。磯が良いなコイツは。
「いやいや、付き合ってもいない男女が一緒の風呂に入るのはいかがなもんだろ。」
「う~~~。この女々しい男め。っは!?もしや先輩は覗きの方が趣味だと。」
なわけないだろが。鉄拳制裁。たんこぶができない程度に手加減して拳骨をおみまいしたが、手加減なんて必要なかった。さすがは親父さんの娘。なんていうか骨密度が違うんだろうなって感じ。叩いたときの音が鈍かった。
「暴力反対です~。」
頭をさすりすらせずに言う一号、
「やかましい一人で風呂に入ってこい。」
ここまで言うとさすがの苺もふてくされながらも一人で風呂へと向かった。僕は苺に背を向けて考えごとをする。結局、僕の進路をどうするかだな。正直、SPに強要がないなんて恥だとパパンから大学で習うようなところまで教え込まれていて、普通の大学に行く意味があまりない。いっそのこと、僕もパパンと同じ職に就こうか。上手くやれば給料だってかなりいい。
「アリだな。」
「何がありなんですか?」
おっと、口に出ていたか。パシャンと水をかき分ける音がして、苺が話しかけてきた。
「いや、卒業後どうするかって話。それで父さんみたいにSPってアリだなって思ってさ。」
「へ~、それって私以外の女の子の護衛もするってことですか。ですよね。浮気ですよ、浮気。」
「あほか、僕の両親を見てみろ、そんじょそこらの付き合いたてのカップルよりもラブラブだろうが。」
「むむむ、確かに。」
どうやら納得したらしい。すげえな、うちのバカップルは。
「苺は将来はなにしたいとかあるのか?」
僕は身近にかっこいい手本がいるからスパッと決められるけれど苺はどうなのだろうか?
「私は先生になりたいかな。ハゲセンみたいな先生。」
「ハゲるのか!?嫌だぞ。」
「違うよ、生徒に親身になれる先生って意味。」
「大学に行くのか。いいんじゃないか。」
「なに、先輩はもしかして私が大学で他の男を見つけてくるんじゃないかって心配してるの?なわけないじゃん。恩義があるからね。」
「恩義かぁ。別に恩返しに結婚しろなんて僕は言わないぞ。」
「だーもう、助けられて好きになっちゃったの。だから、先輩以外を好きになることはないから。恥ずかしいから言わせないでよ。」
好意を言葉にして伝えられるってのは嬉しいな。じゃあ僕も
「僕も苺のあほでバカでそそっかしくて残念な美少女なとことか好きだぞ。お前以上の残念美少女はそういねえよ。」
「それほめてるんですか(#^ω^)。」
「褒めてるってば。」
そこで会話は途切れ、竹のカコーンって音が響く。
「今日は月がきれいですね。」
「夏目漱石か。」
「いえ、そんなつもりじゃあ。」
テンパる苺。やっぱり残念なこの子を僕は放っておけないし、その笑顔を見ていたいって思うんだ。
「まぁいいや。そろそろ上がりな。そろそろ夕食の時間だろうし、風邪ひくぞ。」
もう少しこの時間が長く続けばいいのにな。
「夕食おいしかったですね。」
「ああ、部屋だけでも十分なのに食事まで豪華になってたよな。」
苺が上がって少したってから女将さんが夕食を運んできてくれて、それを食べ終わって、僕は風呂を済ませ、今は余韻に浸っている。
「茶碗蒸しおいしかったです。」
「やっぱ、こういう旅館って出汁を丁寧にとってるから美味しいんだろうな。」
だけど、みそ汁とかで自分で出汁をとるのって案外めんどくさいんだよな。
「あー、苺が毎日みそ汁つくってくんないかな。」
「はうー。」
苺の様子が変だな。僕また何か変なこといってしまっただろうか。
「どうしたんだ、苺。」
「だって先輩が結婚してくれっていうんですから、まだ心の準備ができていない身としては余韻に浸ってたのに熱湯ぶっかけられたぐらいの衝撃ですよ。」
ああ、確かそういう意味があるんだったな。
「先輩、私をドキドキさせた罰として、私が落ち着いて寝られるように抱き枕になりなさい。」
急な命令口調。まぁ今日ぐらいいいか。
「今日だけだぞ。」
「やったー。ささ、布団入りましょうよ。」
先行して布団に入り掛布団をこちらがわに広げて誘う苺。
「わかったわかった。」
こうも至近距離だと苺の匂いもしてちょっとへんな気分になる。まぁ理性は持つな。抱き着いてくる苺、密着する体。だがしかし、苺は超筋肉質。見た目こそ美少女だがその実、筋肉の塊。僕が筋肉フェチだったら危なかっただろうそういうわけでもない。問題は理性ではなくフィジカルの方で、
「先輩、ぎゅ~~~。」
コイツは力が強い、僕よりも。それに寝落ちも早い。そして一度寝たら余程のことじゃ置きやしない。
「ちょ、重いって、ギブギブ。」
後方から回された一号の腕と自身の首の間に手を挟み入れ起動を何とか確保する。それだけにとどまらず寝返りをうつ一号。
「ちょっと、コレはマジでヤバいヤツ。」
プレスあれた僕。苦しくてなかなか寝つけない。起きたころには朝日が昇っていて、僕の胸元は何とは言わないが液体でベタベタだった。
「起き上がれねえ。」
そして重い。
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