第25話 ショートカットで旅館にGO!!

互いに恥ずかしい思いをした翌日、僕らは顔を合わせられずにいた。


「せんぱい、おはようございます。」


「お、おう、おはよう。」


それに、一号の親父さんが


『廻くん、娘に会わせろ。寂しいぞ。』


って言ってるし、


「キャンセル代はこっちがもってやる。」


ってことでお金の心配もしなくてよくなったから。


「どうする一号、帰ろうか?」


「そうしましょうか。」


二日目にして盛り上がってしまい自転車旅へのモチベーションもなくなってきて、旅の日程を一日切り上げることにした。宿は最終日に泊まる予定だった宿にして、今日が実質最終日なのだ。そういう思いをモチベーションにして僕らは自転車をこぎ始めた。


旅の道中、どちらかというと帰路の途中一号が


「先輩、一号じゃなくて、苺って呼んで欲しいです。」


こう言ってきた。後ろからだから表情は見えないが、まぁ恥ずかしがってんだろうなと、長年の(と言っていいかわからないがその)勘でわかる。


「いいよ、一文字抜くだけだからな。そういうんだったらそっちも名前で呼んでくれよ。」


少しハードル高かったかな。


「・aいさん。」


「ん?なんて。」


もちろん聞こえているけどからかいたいだろ?


かいさん。」


「さん付けはよそよそしいな。」


「かーいー!!」


「よくできました。」


そんなこんなのサイクリング。ちょっと楽しくなってきて、一日切り上げるんじゃなかったな、もったいないことをした。そう思った。



「とうちゃーく。」


立派な旅館に興奮気味の一号、じゃなかった苺。僕もそれに続いて暖簾をくぐる。


「女将さんすみませんね。宿泊予定日を一日前倒ししてしまって。」


「いえいえ、いいのよ気にしなくて。お二人のお父様方にはお世話になりましたから。」


「そう言ってもらえると幸いです。」


そっか、パパンも親父さんも警護のそごととかで使ってたんだな。


「それに、美男美女は目の保養ですから。おほほほ。」


変な人だな、いい人だけど。


「よろしければ父たちがどういったことでここを利用したのかお聞きしてもよろしいですか?」


「はーい、私も気になります。」


「ええ、いいですよ。確か、今から20年ほど前だったかしら。あなたたちのご両親たちは新婚旅行でここを選んだのよ。それでその時に助けてもらったのよ。」


ここに新婚旅行で来たんだ。ふーん、っは!?苺と目が合った。恥ずかしい。このタイミングで相手の方を見るなんてもうそういうことじゃないか。言い訳できない。


「あらあら、二人はうぶなのね。久繰さんたちはイチャイチャしてたし、花村さんたちは旦那さんが尻に敷かれてたけどねぇ。やっぱり若いからかしら。」


からかわれた、まぁまだ思春期だけどさ、いい趣味してるよこのおばさんは。


「さて、続きをお話ししますね。あなたたちのご両親方が宿泊中に心中しようとした男がいましてね。奥さんを刺した後で他の旅館のお客様も刺そうといたしまして、底を助けていただいたんですよ。久繰さんが刺された人の手当を、花村さんが男を取り押さえてくれたんですよね。それもすぐに。こういう商売は信用がすべてですから。ホントに助かりましたよ。」


へ~やっぱりパパン達はすげえんだな。っていうか、包丁持ってる人を素手で制圧する親父さんって強すぎるだろ。


「それで、こんな、当日の朝になって宿泊日を今日に変更なんていう無茶を聞いてくれたんですか?」


「いえいえ、それはあなたの久繰さんが『あの娘大好きマンが5日間も耐えられるわけがない。多分、息子たちの旅行は短縮されると思う。それで息子は好きなものは最後に食べる派でさ、きっと、明後日の朝にでも電話で宿泊日の前倒しの連絡が来ると思うから。』と連絡がありましたので問題ありませんよ。」


親友と息子の考えることぐらいお見通しってか。パパンめ、よくやった。ほめて遣わす。


「そして、これは私からサービスです。お部屋を今日の空室で一番いいものに変更させていただきました。もちろんお代はそのままで結構です。」


こちらですと言って案内され着いた部屋は


「うわー、池が見える。それに広ーい。」


景色がよくて、何より広い。元の部屋の二倍はあるぞ。


「喜んでいただけましたか。しかし、それだけではありませんよ。」


「檜風呂ですか、それも匂いからして温泉ですよね。」


「ええ、その通りですよ。部屋から出ていて恥ずかしいかもしれませんが、他の客室から覗けないように設計されていますのでご安心してください。それでは私は退室しますが何か御用がございましたら受付までいらしてください。それでは、若いお二人の邪魔をしないよう、私は退出させていただきます。それでは。」


取り残された僕ら二人。一号はまだ窓から見える池に夢中だから気づいていない。だが僕は気づいてしまった。布団一つしかねえ!それに他の部屋から風呂を覗かれる心配はないって言ってたけど、この部屋からじゃ丸見えじゃないか!!どうしたらいいんだ、僕は~!!

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