第24話 ミッドナイトスターダスト

夕食を近くのコンビニで済ませた僕らはビーチに戻ってきていた。


「先輩、夏でも夜は涼しいですね。」


「夏祭りの時は熱かったけどな。」


「それは、人が多かったからでしょ。」


「今は二人きりだからな。」


夜が涼しくても一号は熱い。


「もう少し海の方に寄ってみないか?」


そう言って僕は波打ち際まで歩いて腰を下ろす。


「もう、2日目も終わっちゃいましたね。」


隣に座った一号が言う。


「そうだな・・・」


流れる沈黙。聞こえるのは波の音とうるさい心臓の鼓動。少しキザ過ぎてやしないか不安になるが・・・一号の様子を見る限りは大丈夫だろう。


月明りに照らされた一号の頬は、先日のリンゴ飴を思い出させる。


沈黙も一号との間なら気まずくはない。むしろ心地いいぐらいだ。ただ、一号はそうじゃないようで、


「先輩、私先に部屋に戻っておきますね。」


そう言って立ち上がる一号。僕は一号の手首をつかんで引き留めて言う。


「今日は少し話したいことがあるんだけど良いか?」


少し悩む素振りを見せた後で一号は再び座った。


「なんですか?少しだけなら聞いてあげますよ。」


上から目線だな、この生意気な後輩め(もちろん口には出さないが)。


「少しだけ、昔の話をしようと思ってな。思い出したことがあるから聞いて欲しくて。」


「良いですよ。聞いてあげます。さらに、本日限りその真偽まで教えるおまけつき。」


そうそう、コイツは昔から真面目な雰囲気が苦手だったよな。


「お、それならお願いしようかな。じゃぁ話すぞ。」


「はい。」


「今から10年前の話なんだけどな。僕は両親に連れられて銀行に行っていたんだ。そして、父さんが通帳を忘れたと言って僕と母さんを残して家まで取りに戻った。そして、父と入れ替わるようにしてきたのは銀行強盗だった。詳しくは覚えていないが、日本人じゃなかったのは覚えている。それで子供と大人に分けて立てこもりに発展。その時に確か同い年ぐらいの女の子がいたんだよな。その子って、」


「ええ、先輩の隣にいる女の子ですよ。」


やっぱりそうだったか。


「つまり、一号はその時のことで僕を好いているってことでいいんだよね。」


「もう、言わせないでくださいよ。先輩の意地悪。」


「ごめんって。だけどなんで僕なんだ。強盗どもを制圧したのは父さんだろ?」


そう、僕のパパンは普段は超ド級の愛妻家だけど強いんだよな。


「ええ、そうですね。先輩のしてくれたことと言えば私と強盗の間に立ってただけですもんね。だけどその背中がどれ程心強かったか。まぁ、今はもう私の方が背が高いですが。」


「けど、高校で再開するまでは一度も会ってないじゃないか。」


そう、その日以来あった覚えがない。


「いえいえ、会ってますよ。まぁ、今の姿ではありませんでしたが。実は今もコンタクトつけてるんですよね。高校からですが。さぁ、察しのいい先輩ならもうわかったんじゃないですか?」


「ま、ま、ま、まさか。よくイジメられてたメガネっ子か!?」


「正解です。そのたびに先輩助けてくれましたよね。その後すぐにどっか行っちゃうから離せませんでしたが。」


「そうだったのかすまん。」


「いえいえ、私もイメチェンせずに会いに行くべきでしたね。思い出してくれたようでうれしいです。そうだ、今のうちに何か疑問があれば答えますよ。」


疑問なぁ、2つぐらいか。


「2つ答えてくれるか?」


「いいでしょう。」


「1つ目は、イジメられてた理由。2つ目はあの時僕よりも身長低かったよな。」


「2つ目から答えますね。」


そう言うと1号は猫背になって立ちあがった。


「先輩も立ってみてください。」


言われるがままに立ってみる。


「ね、中学生のころからすでに私の方が身長高かったんですよ。」


姿勢が悪かっただけかい。恥ずかしい。そんな僕の様子を気にせずに1号は続ける。


「イジメられてた理由ですが、私たちの学校ってあまり治安が良くなかったじゃないですか。」


「そうだな、この間のプリン頭みたいなのがうようよいたな。」


「ええ、それで私をイジメてた子たちってお兄さん、お姉さんがいるんですよ。」


「もしかして、親父さんに補導された人の弟、妹が娘にお礼参りってことか!?」


「正解です。まったく私かんけいないのに。それもあって私は父に冷たいのかもしれませんね。」


「だけど一番の理由は、」


「私のことが好きすぎてキモイ。」


親父さんドンマイ。今の声量的に後者の理由が9割だぞ。


「一号ばっかりに答えさせるのもあれだから僕も答えるぞ2つまで」


「えーっとそうですね。」


波が三回行ったり来たりして一号が聞いてきたのは


「オトウサマの仕事と先輩が今好きだなあって人教えてください。」


コイツ、オトウサマの発音が怪しかったな。ってそんなことより、ぼ、僕の好きな人!?お前なんだよ。身長についての質問の代償が告白の強要!?釣り合わないって。ええい、仕方ない。当たって砕けろだ。


「ゴホン、まず父さんの仕事だろ。父さんの仕事はSPだな。僕にもその技術仕込もうとしてるんだからたまったもんじゃない。企業のお偉いさんとかその親族の護衛。アイドルの護衛をしてたこともあったけど母さんがサイン貰ってきてって言って拗ねて、それ以来アイドルの護衛はNG出してる。ちなみに、現役だ。ただ、仕事がない日の方が多いから家事も分担してやってる。親父さんと知り合ったのも仕事中らしいぞ。」


「へえ~~、それであんなに強いんですね先輩もオトウサマも。それで好きな人は誰ですか?」


っち、面白そうな話で質問を誘発して好きな人についての質問権を没収する作戦が~。


「僕が好きなのはな・・・」


決めろ、ここで日和ったら男じゃねえ。やれ、もしかしたら気絶してくれるかもしれない。そしたら、夢落ちってことにできるだろ。


「一号、否苺。僕はお前が好きだ。」


「・・・。」


どうだ!?やったか。


「先輩、私も大好きですよー。」


ムギューっと抱きしめてくる一号。ダメだった~。いや、いいのか?もう僕もパニック。


「あ、流れ星ですよ。何を願いますか?私は先輩と付き合えますようにって願います。先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、・・・・・・・・・・」


僕とは違って一号はもう落ち着きを取り戻していて流星群に気づいた。そう、ここを

コースに選んだのはこれを見る為でもあったのだ。ってか何回先輩って言うんだよ怖いよ。


ふう、こんな一号を見て多少気も和らいだし僕も


「一号と結婚できますように。」


「きゃぁぁぁぁ。」

「ぎゃぁぁぁぁ。」


やっちまったー!!


こうして僕らの二日目は終わった。星屑のように一瞬にして。

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