第10話 私刑に処す

昼食も腹八分を超えて食べ僕らは店を出た。


きっともとはとれているだろう。


そんなことより、一号が食べ過ぎたらしく、


「先輩、いったん休憩させてください。」


顔面蒼白って四字熟語が視界にちらつく。


乙女なら言い出しにくいことなのだろう。


丁度ここは駅前でお手洗いもあるだろうから。


「いったん解散しよう。少し買わないといけないものがあるんだった。」


本当は買うものないけど、こうでも言わないと一号は恥ずかしがって体調壊すかもしれない


「では、三十分後にまたここで。」


ということで、俺はしばらくこの辺をブラついておく。


それにしても、最近来なかっただけで好きだったパン屋さんや雑貨屋さんがなくなっていて、少々センチメンタル。


十分ほどブラついてた時だった。


「なあ、ねえちゃん。俺らと楽しいことしな~い。」


チャラくてガラの悪い半端者が三人、一号にナンパを仕掛けていた。


まったく、俺も俺だが、あいつもあいつだな。


なんで、こうも少女漫画でありがちなことにまきこまれるかなぁ。


「やめてください。人を待っているんです。」


「そいつ彼氏~?」


うわぁ。ありきたりだぁ。ありきたりとおりこして様式美だ。


まぁ、だからなんだって話だが、


「おい、僕の連れに何の用だ。チンピラ。」


「あーん。なんだぁ男女いや、女男か?」


あー(#^ω^)。こいつら処す。


「先輩、助けてくださいよ。」


「待っとけすぐに終わらせる。」


他の二人には申し訳ないが連帯責任だ。


文句はプリン頭に言いやがれ。


「てめえみたいなひょろがりにやられるかってん、ダ。」


感情に任せた、顔面を狙った右ストレート。


僕は見切って、体をひねりながら腰を落とし、


相手に背を向ける。


僕の耳の近くをチンピラの拳が通過する。


それを、


「くるりんぷぁー。」


掴んで、足を伸ばしながら前屈する。


それはそれは見事な一本背負い。


今度、親父さんにも試してみようっと。


「や、やべえよこいつ。ゲンちゃんを一瞬で。」


「とりあえず担いで逃げるぞ。」


思ったほか二人はまともだったので見逃すことにした。


去っていく彼らと反対に一号が駆け寄ってくる。


「さすが先輩、一瞬でしたね。惚れ直しました。」


親父さんと引き分けてるんだ。当然っちゃあ当然だ。


「おいおい、それじゃ惚れてるってことになっちまうぜ。」


プシューという効果音がピッタリな様子の一号。


「「「キャー!!」」」


さっきまではプリン頭に集中していて周囲の人に気づいていなかった。


「やっべ、めんどくさいことになったな。


一号歩けるか。」


ダメだ。ただの屍のようだ。


って冗談言ってる暇ねえ。とにかく人の間に隙間があるうちに逃げ出す。


「許せ。後でクレープでも奢ってやるから。」


あいつら、肖像権を知らねえからな。


あいつらがスマホを出す前に背を向けて、


羽織っていたジャケットを一号に被せ、


お姫様抱っこして人の間を駆け抜ける。


右手にインカメで動画を回すスマホを持って。


後日、晒し返してやる。


僕を走らせやがって、


「こいつら絶対、私刑に処す。」

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