第2話 残念系クールビューティー 後輩一号 惨状

 倒れるハゲセンを背に僕は教室を出る。


旅に出るとは言ったものの特にこれと言って目的地は無いのだ。


「パパンとママンをどう説得しようものか。」

 

そう僕の口からこぼれる独り言。


「ストレートに『自分探しの旅に出たいのだ~。』じゃダメなのか~?」

 

と気の抜けた声で話かけてきたのは(後から聞いたがハムボというらしい)


「よお、後輩一号。なんだ急に。」

 

後輩一号こと花村 苺。


僕は部活はしておらずそれどころか委員会にも所属していない(一号は陸上長距離、期待の一年生としてチヤホヤされている)のでなんで関わっているのかは謎だが、


一号いわく『前にあった女の子の顔も覚えてないなんてヒドイです。思い出してくれるまで絶対に言わぬ。』だそうだ。


(ちなみに最近隣に引っ越してきたのだがどうやらママンは覚えているらしい。)


「いい加減、人の名前ぐらい覚えてください。まったくもう。」


「『のだ』が抜けてるぞ。」


「そんなことないなのだ。」

 

こんな感じで雑なキャラ付け、取り繕うとして余計に迷走してしまう、


いわゆる残念系美少女といった感じの子なのだ。


せっかく(僕よりもちょっとだけほんの5cmだけ大きいのが気に食わないが)黒髪ロングクールビューティーが僕の前では台無しである。


 「はわわ~。」


 

こんなに恥ずかしがるくらいなら無理にキャラを作らずに素の自分で話しかければいいものを。


かわいそうに(校門の前で)蹲って悶絶している。


しかも、ちょうど帰宅部達の下校のピークで奇異の視線まで向けられている。


僕なら余裕で死ねるな。そろそろ、助け舟を出してやろう。


「いつまで蹲ってんだ、一号。早く帰ろうぜ。なっ。」

 

そう言って手を差し出す。


すると、恥ずかしいような、(自意識過剰かもしれないが)嬉しそうな、よくわからない表情で僕の手を掴む。

 

キャーキャーうるさい周りの声(男3割女7割ってところか?)を無視して校門を出る。


おっと忘れるところだった。


「なあ一号、俺夏休み旅にでるけどお前も来るか?両親は十何回目かの新婚旅行に行くって言ってたから必然的に自転車旅になるけど平気だろ?」


プシューまたはフシューという擬音が背景に見えるぐらいに顔を真っ赤にする一号。


「ふっ、デカくて優秀でかわいげのないやつだと思っていたけど以外とカワイイんだな。」

 

それがトドメになったのか今度は固まって動かない。


フリーズ、否シャットダウンしてしまったようだ。


下校の邪魔になってしまうので仕方ない。ここは先輩らしく家まで負ぶっていってあげようではないか。


一号の目の前に立ち背中を向け近づいて、


「ふんっ。」

 

あ、ヤバい。想像してたより重い。この筋肉め。


いっそ鉄人一号に改名してやろうか。


そう心の中で悪態をつきながら帰路につく。


う~ん。何か嫌な予感がするが気のせいだろうか?まあいいでしょう。

 

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