ミッドナイトスターサイクル
久繰 廻
第1話 久繰 廻は旅に出る
高校2年生の夏。僕-久繰 廻は、蒸し暑い教室で選択に迫られていた。
「大学に進んだらどうだい?親御さんも安心するだろう。それに君なら公立の大学ぐらいなら確実に受かるだろう?」
目の前にいるのは担任の葛城先生。(葛城→カツラギ→カツラ→ハゲ)通称ハゲセン。
実際ストレスで若手だというのに少しずつ髪が薄くなってきており、いずれ名実ともにハゲセンとなるだろう。
こんなヒドイあだ名をつけているが、みんな、少なくとも生徒全員はハゲセンを好いている。もちろん僕もだ。
そして今は夏休み前の二者面談の最中だ。
彼は生徒に親身に寄り添ってくれ、その結果親御さんと生徒との間で板挟みとなりハゲてしまっているのだ。せっかくのイケメンが勿体ない。
なので、僕としてもハゲセンの毛根のためにも『はい、○○大を目指してがんばります。』なんて言ってあげたいという気持ちがあるのだが、言えない。
僕にはモチベーションがない。夢もない。ただなんとなくの惰性に任せて生きている人種なのだ。
幸い、両親は『生きていてくれたらそれ以上は望まないよ。』と言ってくれているので問題はない。
そう、基本的に何をしても許されるのだ。だから、
「よし決めた。」
「どこだい!」
キラキラとした視線を向けてくるハゲセン。申し訳ない、大学ではないんだ。
「僕、この夏旅に出ます。」
ほげぇ?っとしたハゲセンの表情、写真を取ってクラスのグループLINEに上げれば女子ども(それと一部の男子)がさぞ喜ぶことだろう。
ショックから立ち直れていないハゲセンだったが、もう一度聞き返してきた。
「聞き間違いかな、北大を出ます?と言ったのかな?」
許せあわれな毛根達よ。
「いいえ、僕旅に出ます。自転車で日本一週してきます。それでは、旅の用意もあるので失礼します。」
颯爽と椅子から立ち上がり、机に掛けてあったリュックサックを背負い教室の戸をガラガラと引き、出る。
倒れるハゲセン、舞い散る頭髪を背に僕の夏休みが始まった。
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