第39話:帰郷
「村へ戻るだと!?」
いったん、応接室にマデリーンを残し、クロエは廊下に出てエイデンに意志を伝えた。
案の定、エイデンは
「
エイデンが心配するのも当然と言えた。
昔のこととはいえ、逃げ帰ってきた生贄の娘が報復を恐れた村人たちに殺されたことがあったのだ。
「だ、大丈夫です。フードを深くかぶってこっそりと会ってきます。翌日には帰ってきます」
ノースフェルドから村までは馬車で半日かかる。着いたら夜になってしまうだろう。
「それに、もうあの恐ろしいカーターは亡くなって『花嫁の儀』がなくなったと知れば、皆も暴挙に出たりしないでしょう」
「……」
「母の顔を見て帰ってくるだけです」
「……わかった。俺も行く」
「そんな! ダメです」
「なぜだ。おまえを一人で行かせられるわけがない」
「マデリーンもいますし、大丈夫です。それに、ケランが日雇いの人たちを連れてくる予定なんです。その人たちの面接をしなくては」
「……っ」
「ただでさえ人手不足なんです。城まで呼びつけて
「くそっ……!」
エイデンが苦虫をかみ潰したような表情になった。
辺境では貴重な人材をみすみす逃すわけにはいかないのを痛感しているのだろう。
エイデンがそっとクロエの手を取る。
「わかった。だが、指輪はつけて行けよ」
「わかりました」
作業のために王石の指輪は外していたが、クロエは部屋に取りに返った。
赤い石のついた指輪をエイデンに見せる。
「これで居場所はわかります。安心してください」
「全然安心はできないがな」
ふう、とエイデンがため息をつく。
諦めたのか、エイデンが大きく腕を広げた。
クロエはそっとエイデンの胸の中に飛び込んだ。
強く抱きしめられる。
「必ず戻ってきますから」
「ああ。戻らなければ連れ戻しにいく」
不安そうなエイデンを安心させるようにクロエは微笑んだ。
「いってきます」
「気をつけてな。早く帰ってこい」
応接室に戻ると、マデリーンが期待を込めた目で見つめてくる。
「どう? お許しはいただけた?」
「ええ。今から行けるわ。翌日には戻るけれど……馬車は出してもらえる?」
「もちろんよ! 帰りもちゃんと送るから安心して。ニールが御者をしてくれるの」
「ニール……」
マデリーンの婚約者だ。いや、今はどうなのだろう。
「ニールとはうまくいってるの?」
「ええ。彼はとても優しくて、私の言うことを何でも聞いてくれるのよ」
「そう」
クロエホッとした。
激高したマデリーンが、「私のほうがエイデン様にふさわしい!」と口にしたことが引っかかっていたのだ。
(やっぱり、あれは混乱して言った言葉だったのね。二人はうまくいっているみたい)
「じゃあ、行きましょう。クロエ。真っ暗になる前に村に着ていおきたいわ」
「そうね」
気が
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