第37話:突然の来訪
王都から帰って一週間がたった。
クロエはまた、朝起きてエイデンを起こし、朝食をとったあとは花の道作りに精を出し、城内を片付け、乗馬の練習をするという日常に戻った。
「クロエ……いや、クロエ様……」
目を合わせず、ぼそぼそと呼んでくるケランにクロエは苦笑した。
「ケラン、クロエでいいわよ。様づけなんて……」
「でも、おまえエイデン様の婚約者になったんだろ」
ケランが気まずそうに目をそらせる。
王都から帰ってケランに婚約者になったことを報告すると、ケランは驚きはしなかったが明らかにクロエをどう扱っていいかわからず困惑していた。
「私は私よ、ケラン。何も変わらないから」
「……まあ、言われてみりゃそうか。顔に泥をつけてる姫なんておかしいよな」
汚れた手袋で顔をこすってしまったクロエに、ケランがタオルを差し出してくれる。
「ありがと……」
雑草を抜きまくったせいで、手袋はどろどろに汚れている。
クロエは素手でタオルを受け取り、顔を拭いた。
「はー、今日もいい天気だね」
「ああ。おまえ、しっかり水分をとれよ」
「うん」
ぶっきらぼうだが、相変わらずケランは優しい。
城に帰ってきたあとも気が滅入っていたクロエだったが、無心に花の道作りに精を出しているとだんだん元気になってきた。
「おまえも大変だな。新しい使用人が来たらちょっとは楽になるかね」
「そうだといいけど……」
エイデンが王都で雇った使用人は二人。
やはり辺境での住み込みは厳しいようだ。
「地元で雇うほうが現実的か。町に行って声をかけてみるか」
「私も行こうかな。馬の練習にもなるし」
毎日乗馬の練習をしているクロエは、ようやく一人で馬を走らせられるようになった。
「おまえはいいから。そんなの辺境伯の嫁のやる仕事じゃねえよ。俺が集めてきた奴を面接して、仕事の指示してりゃいいんだ、女主人は」
「女主人……」
改めてそう言われると、エイデンと共に城を仕切っていくのだと思えた。
「でも、今は人手が足りないし、ケランにばかり任せるのも申し訳ないし」
「おまえは何でやりたがるな。そういうところ、エイデン様とそっくりだ」
「えっ」
「嬉しそうだな」
「うっ、うん」
笑みがこぼれてしまうクロエに、ケランがため息をつく。
「汗まみれだな。ちゃんとした服に着替えてこい。午後からは城内の仕事をしろ。
「でも、あともう少し……」
「とにかく、休憩しろ。俺は町に出て人を探してくるから待ってろ」
「でも……」
「いいか、絶対に休めよ?」
ケランに念押しされ、クロエは仕方なく体を拭いてワンピースに着替えた。
「エイデン様、何かお手伝いすることありますか?」
執務室に入ると、エイデンが笑顔で迎えてくれる。
「ああ、ちょうどよかった、クロエ。注文したカーテンやシーツが届いてな」
「わあ……!」
王都で見繕ったリネン類が箱に入って届いている。
「大変だが、全部新しいものと交換してくれるか?」
「任せてください!」
この日をまちわびていたクロエは明るい声を上げた。
「早く実際に使ってみたかったんです。もし使い心地がよかったら、他の部屋のぶんも発注しましょう」
「そうだな。それもクロエに任せていいか?」
「もちろんです!」
そのとき、馬のいななきと馬車の車輪の音が聞こえてきた。
「なんだ? 来客か? 珍しい」
エイデンが窓の外を見る。
クロエもその横に立った。
「えっ……?」
クロエは目を疑った。
馬車から降りてきたのは、ドレス姿のマデリーンだったのだ。
「マ、マデリーン……!」
「おまえの妹か? 何の用だ……」
エイデンが険しい表情になる。
クロエは慌てて階下におり、玄関を出た。
「クロエ……!」
出迎えたクロエに、マデリーンが泣きそうな顔になる。
「どうしたの? マデリーン!」
「謝りたくて……」
「えっ?」
「この間は混乱して失礼な態度をとってしまってごめんなさい」
マデリーンが深々と頭を下げる。
「マデリーン……」
「本当に申し訳ないと思っているわ。クロエが生きていて嬉しかったのに、ひどい態度をとってしまったわ」
「……」
「事情があったの。お母様が大変で……」
「お母様が!?」
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