第10話:庭の探索
「うわあ……」
城を出たクロエは城壁を見上げた。
昨日は暗くてよくわからなかったが、そびえたつ城壁がぐるりと城を囲っている。
「こんなに大きい敷地を囲っているの……?」
あまりに壮観な眺めにため息しか出ない。
だが、前任者が城の手入れを怠っていた時代が長すぎた。
城壁はあちこち欠けたりと、ほころびができてしまっている。
「ここも直したほうがいいよね……あ……」
遠くの方でケランが城壁に触れているのが見えた。
クロエは駆け寄って声をかけた。
「ケラン、もしかして城壁を調査しているの?」
「ああ。補修していかないといけないから。これ、かなりの人手が必要だな。あちこちガタがきている」
「人手は周辺の町や村から?」
「頼んでいるんだが、手の
「そっか……」
前任者のカーターが長きに渡って城を放置してきたツケが回ってきている。
(エイデン様、お気の毒に……私が力仕事もできればいいんだけど……)
非力な自分が恨めしい。
「それに辺境伯といえば、地元では悪名高いから。若い娘はもちろん、男性も嫌がる。代替わりをしたと話しても、なかなか集まらない」
クロエはふと気になった。
「ケランは……なんで城で働いているの?」
「……」
まだ十代半ばくらいのケランが、一人で住み込みの使用人をやっているのが気に掛かっていた。
ケランが栗色の髪を揺らせる。
「……エイデン様に拾われたんだ。行き場がなくて困ってたら声を掛けられて」
「一緒だね!」
思わず声をあげてしまう。
「私と同じだ……」
じっとケランを見つめると、気まずそうに目をそらせた。
(いいなあ、羨ましい……)
ケランは城に住み込んで、当然のようにエイデンの世話をしている。
(私もそうなりたい……やっぱり役に立てるようしっかり働くしかない!)
「ケランは庭も管理しているの?」
「とてもそんな所まで手が回らないよ。城の中もまだ手つかずだし。庭は後回しだな。今はどれだけ人手がいるか、どこから手を付けたらいいか算段をしているところ」
「じゃ、じゃあ、私が庭を手入れしてもいい!?」
初めてケランの顔に赤みが差した。
「それは助かるけど……できるの? ここに集められた娘たちはお嬢様育ちばかりで、野良仕事なんか誰もしなかったけど」
「えっ、あっ、私はそんな大したものじゃないの」
確かに父は村長で司祭の家系ではあったが、血は繋がっていないうえ、ずっと下働きをさせられていた。
「庭作りはずっとやってきたし、畑仕事だってできるから」
「そうなんだ!」
馬鹿にされると思いきや、ケランの表情がぱっと明るくなった。
「じゃあ、庭のチェックを頼んでいいか? 俺、そっちは全然わからなくて」
「うん! 任せて!」
ケランに手を振り、クロエは庭へと向かった。
自然と足が弾む。
(ケランからも庭を任された! 頑張ろう!)
後から来た余所者のクロエをケランが
城の裏手に回ると、クロエは絶句した。
そこは草木が枯れ落ち、雑草が生い茂っている廃園が広がっていた。
「ひ、ひどい……!」
まったく手をかけられず、おそらくは見ることもなく放置していたのだろう。
クロエは拾った枝で雑草をかきわけ、荒れ果てた庭園を進んでいった。
もともとは
(これ、どこまで続いているの……?)
ようやく城壁まで辿り着くと、そこには木の扉がしつらえてあった。
その奥には木々が生い茂っている森が見える。
(なるほど……この奥に森があるのね)
思ったよりも庭は広く、さすがに疲れたクロエはボロボロのベンチに腰掛けた。
「ああ、庭が蘇ったら、どんなに素敵かしら……」
ベンチから眺める荒れ果てた廃園を、咲き乱れる花でいっぱいにする光景を想像する。
(そうね、絶対にバラは必要。ハーブも植えたい……。花々だけじゃなく、木も欲しいわね……)
だが、思い描く庭を実現するには、人手と時間が必要だ。
(これは大変……)
だが、一から庭作りをするという滅多にできない経験に心がわきたつ。
(やりがいがあるけど、一人でやれることは限りがある。まずどこから手をつけるべきかしら。暗い過去を背負った城を美しく生まれ変わらせたい……)
クロエは頭の中で庭の構想を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます