【第一章・第三十四話】認識阻害の効力
「……意外だな。あのドクトリナ殿に、懸想するお相手がいたとは」
「それは、オレたちが知ってる人なのか?」
「ああ、おそらく知っているんじゃないかな。ついでに訂正させてもらうと、断じて懸想していたわけではないよ。……一人の人間として、心から尊敬していたんだ」
いつの間にか、話題はドクトリナ様が慕っていた方の話になっている。これは予想外だ。……まあ、少々居た堪れないが、先程の話から逸れたのなら都合が良い。
「あっ!ボク、分かっちゃったかも〜!あの子でしょ、ソ___」
「___フィノファール。そんな話よりも、まずは説教だろう?もとはといえば、君が無理やりこの子を騎士団へ勧誘したのが原因だよ。もし何者かがこの子の魔法を止めてくれていなかったら、君たちがこの世からいなくなるどころか、アストノズヴォルド皇国そのものが地図から消え去るところだったんだ」
フィノファール様が相手の名前を言い切る前に、光の速さでその言葉を遮ったドクトリナ様は、静かに怒りを含ませた声でニコリと笑った。だが、すぐに表情を変えて、新しい玩具を目の前にした子どものようにキラキラと輝いた目で辺りを見渡す。
「けど、それにしても……こんなにも完璧な認識阻害魔法は見たことがないよ!」
「ああ、それに関しては同感だ。これほどの騒ぎを起こし、国が跡形もなくなるような魔法が放たれたというのに……本当に、何者なのだろうか」
二人の言う通り、お師匠様の掛けた認識阻害はとても強固なものであるということが、今この瞬間、明らかになった。認識阻害魔法とは、本来そういった効力を発揮するものなのだが、お師匠様の魔法は少々……いや、かなり異常だ。
わたしの放った煉獄の塊のせいで、あちこちに黒煙が上がっているというのに、民衆はそのことを気にも留めない。こればかりははっきりと言わせてもらうが、本当に論外である。
「フィノファール、この魔法を掛けたのは誰か分かるかい?」
「うん、ティアが師匠から与えられたお守りの効力みたいなものなんだって」
「なら、その師匠っていう人の魔力である可能性が高いね。いったい、どんな人なんだい?」
「ミラージュ・ドゥ・シュヴァルツの店主だよ。例の、魔道具店の店主。っていうか、それ聞いたときも不思議だったんだけどさ、物体にそんなに魔力って蓄えておけるものなの?複雑な術式なら、その分、難易度も上がるわけだし……」
そう問いかけるフィノファール様だったが、その質問の答えは返ってこなかった。そのことに疑問を持ったわたし達は、ドクトリナ様の様子をそっと窺う。すると、彼は、先程、認識阻害魔法について感想を言ったときよりももっと、その透き通った瞳を輝かせていた。
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