第20話
どうする?
恐らく横山さん辺りが対応してくれてると思うけど…………。
……最上位ダンジョンの迷宮暴発なんて………俺は対応をしたことなんて一度もない。
「………ははっ……珍しすぎるだろ……。」
自分の体が僅かながらに震えていることに気づく涼太。
由奈や流陣達も涼太の異常とも言える様子に気づいた。しかし、はたから見れば顔が真っ青であり、尚且つ体が震えた様子で恐怖を表している姿に誰も何の言葉をかけることもかなわない。
ブー ブー ブー
涼太のポケットからバイブ音がした。
ポケットからスマホを取り出すと、波川と表示されており……
「……もしもし?」
「涼太さん、ニュースは見ましたか?」
「あぁ、……見たよ……。」
悲痛という感情に染め上げられた声で電話の応答をする。その声に幸之助はあえてなにも触れずに本題に入る。
この声を聞いていたクラスメイトは涼太のいつもと全然違っている様子に動揺をするが、この2人の会話に聞き耳を立てることに集中をする。
「では依頼をさせていただきます。……最上級ダンジョンの迷宮暴発の鎮静化を引き受けていただけませんか?」
………あえてなにも触れないんだな……。
正直そっちの方が助かる……。きっと俺は人に見せられないような顔をしているんだろうな………。
幸之助のある種の気遣いともいえる『なにも触れない』ということに少し心が軽くなる。
「俺の番か………。」
思わず呟いてしまった一言に、電話越しではわからないがきっと顔をしかめているであろう幸之助を想像し、口許を緩くする。
「涼太さ「いいぞ。」……えっ。」
「引き受けてやる。そもそもとして、あんたは俺に対して命令をするのではなく、あくまで依頼として俺を頼ってくれた。その気遣いに答えないで、一人の人間としては最悪だろう?渋谷の最上級ダンジョンだな?今すぐ向かうよ。」
「………すまない……涼太くん……。君にとって一番辛いことをさせてしまう私を許してくれ………。」
涼太の発言に申し訳なさがたっぷりとつまった嗚咽を挙げる。その嗚咽に対して涼太は無性に心地良いものを感じて………気づかないふりをする……。
「そういう謝罪は終わってからにしてくれ。それよりかは、愛のことを頼んだぞ。」
「あぁ……。」
「一つ言っておく。俺が『救世主』として戦う姿は別にメディアで報道をしてもいい。正直呪縛を背負うのは嫌だが、父さんが残していった唯一の繋がりだからな……。俺が拾うよ。」
「!!………本当にすまない……!」
「だから今はいいって。」
2人の会話に聞き耳を立てていたクラスメイトは、『救世主』という単語に体を硬直させていた。それは流陣や瑠色も同じで……。
涼太はそのまま電話を切って、開いていた窓の縁に足を乗せて空を飛ぶ準備をする。
空を翔ける直前、後ろをスッと振り返ると由奈がこちらに駆け出していた。
そのことに妙な感慨を覚えるが、すぐに切り替えてそのまま空を翔ける涼太であった。
《Side横山 光西》
迷宮暴発が起きている最上級ダンジョンでは周辺に人が多くいたためにいくつもの死体が転がっていた。その死体の上にはモンスター達が乗っていたり、空を飛ぶ鳥のモンスター、まるでゴ○ラを彷彿とさせる化け物等、とにかく普通上級ダンジョンでは見ることが不可能なモンスター達が辺りを侵略していた。
そんなモンスター達から人々を避難させているS級探索者達。その内の一人である横山光西は迫り来る大量のモンスターを持ち前の多彩な魔力技術で対応をしていた。
「!!うらぁぁ!!」
彼のような魔力技術を持ってすれば、自身の体を武器として扱い、素手でモンスターの体を吹き飛ばすことだって可能としていた。
しかし、迷宮暴発とは、モンスターの持つ体内魔力が大幅に増大して、潜在能力を引き出し、強大な力を手に入れているため、光西であったとしても時間を稼ぐことしか出来なかった。
光西に向かってまるで恐竜のような大きさのモンスターが空中で空飛ぶモンスターを対応していた光西にタックルをする。
その反動により周辺にあったビルと突き破ってかなり吹き飛ばされてしまう。
「けほっけほっ……煙いなぁ。……一応逃げ遅れていた人たちを避難させることはできた……かな?」
突き破ったビルの一室で埃が舞う空気を手で仰ぎながらその言葉を呟く。
光西はS級探索者の中でも最上位の存在である。だからあのレベルの攻撃なら彼の纏う『魔力静寂』により、ほとんどの攻撃を無効化させることができるため、今も大きな怪我はせずに戦い続けることができていた。
ただ、あまりにも数が多すぎる。ダンジョンの入り口から出てきたモンスター達は100という数を優に越えており、1000に届くのではというほどであった。
今回の迷宮暴発は、今まであったものよりも圧倒的に数が多い。それに加えて最上級ダンジョンのモンスター達。
これ程の規模のモンスターが地上に出てきたのであれば日本はどうなってしまうのか?
そんな不安がこの最上級ダンジョンを知る探索者達によぎらせてしまう。
「………殲滅しないと……。涼太くんが来てしまう……。」
この呟きは決して自分の手柄が奪われるから呟いたものではない。涼太のことを憂いて呟く一言。
光西は涼太と仲が良かった。そんな光西だが、憧れた人がいた。その人は日本にあった迷宮暴発をほぼ鎮静化させて命を落としてしまった人。その背中を見た人々は口を揃えて『救世主』と呼んだ。
ただその人は父親としてはダメな部類であった。子供達とうまく接することが出来なかった。しかし子供達はその人のことを深く信頼しており光西と同じように強く憧れていた。
ただ、その人が死んだことで一人は塞ぎ込み、一人は傷ついているくせして強がって気づかないふりをする。
そんな話を聞いた光西は涼太によく話しかけるようになった。同情からではない。哀れんで近づいたわけでもない。ただただ、強がっている子供のような姿にどうしても友達になってみたかった。涼太は強い子だ。涼太は賢い子だ。
そのことをよく理解している光西だが、未だに強がっている涼太に、傷ついている涼太に、これ以上傷を増やしたくないと願っていた……。自分を救ってくれた人の願いを叶えさせてあげたかった。
「………行こう…。」
光西はモンスターが嫌いだ。自分にとって友達のような存在を傷つけたモンスターが大嫌いだった。
だから立ち上がる。だから最前線に立つ。その覚悟はまるで神を殺す決意をする英雄のようで、誰にも止められないと悟らせるような雰囲気を纏っていた。
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