第19話
3人に真実の一片を暴露した俺はダンジョンから帰ってきて自分の部屋で一人もんもんとしたようにベッドの上で悩んでいた。
「まじでどうすればいいんだろう……。」
これからどうればいいんだ…。あの人の件に関してもそうだけど、愛のこれからも、課題が多すぎる。
「そもそもとして……勝手に死んだくせに親みたいなことをすんじゃねぇよ……。」
本当にイラつく。あんたのせいで愛がトラウマを抱えて生きていくことになったんだぞ…!あんたさえ生きていれば……こんなことに悩む必要なんてなかったのに……!
自分を今困らせている最大の要因である自身の父に怒りを覚え、その場にいたら殴り飛ばしそうな勢いで頭をブンブン振る。
「絶対にあんたみたいな人にはならないからな……。」
確かな決意とこれから愛を支えていくという使命を再認識して、そのまま寝落ちするのであった。
尚、これから様々な事態が急速に進み人生最大の決断を迫られることになることを涼太は知る由もなかった。
「それで涼太くんは個人情報を公開することを決意してくれたということでいいのかな?」
自身の秘密の暴露から数日経って涼太がS級探索者を会議に集合するように連絡をして今、以前会議をした面々が同じくして集まっていた。
「あぁ。愛にはまだ言ってないが問題はない。」
「そうか……それでそれとは別に大丈夫かい?前の話でかなり傷ついたんじゃないのか?
君は隠しているけど割と繊細だからね。」
「大丈夫ですよ。ある程度は整理をつけさせましたし、これからの事は俺自身で解決していかないといけないのでね。もう子供じゃないんだよ。」
涼太は弱気になっていた夜の事など一切悟らせないような態度で自身の決意を宣言する。それはその場にいた全員が若干気圧されるような圧力があり同時にカッコいいと思えるほどに堂々としていた。
「そ、そうか。……そういえば君が『救世主』であることは公開してもいいのかい?」
「そちらも問題ないですよ。別にそれが公開されてもデメリットもないですし。それでいつ頃公開する予定なんですか?」
「それに関しては何の心配も要らないよ。ふふっ。」
幸之助のおっさん臭い笑みにめが細まるS級探索者達。幸之助は厳しいイメージを持たれがちだが実際はユーモア溢れる変なおじさんで、こういう笑いをする時は決まってイタズラが成功した子供のようなしょうもないことをするのである。
「実は君が会議をしてくれと連絡した数日前に資料を作成し、ついさっき涼太くんが公開してもいいと言った瞬間に日本国内のテレビ局等に重大発表があると告知を済ませたんだよ。」
こういう大人にはなりたくないは~~。いやまじでしょうもないことするな。ガキかよ。………この人なりの気遣いってやつか?俺の決意が鈍らないように急いで準備をしてくれたってことかな?
幸之助のこの行動をよい風に捉える涼太であったが、幸之助ががっはっはと笑いだしたのを見てそんな妄想をすぐに消し飛ばした。
「別に問題はないですけどね。そちらがその気ならこっちだってやれることがありますよ。」
良太の様子に全員が顔をしかめる。
「俺の友達はなぁお前らよりもすっげぇんだぜ。流陣に関しては横山さんと同等と言えるレベルの魔力技術のセンスがあるしこれから俺等4人で配信だってする予定なんだぜ!あの近畿の方にいる配信野郎を越える予定なんだよ!」
これから約3時間近い拷問を受けさせられるS級探索者であった。
そして事の原因となった幸之助のことを全員が睨み付けることになったのである。
「ねぇねぇ聞いた!なんか迷宮省から重大発表があるんだって!」
「知ってる知ってる!確か今日の17時だったけ?何なのかな~。」
翌日、いつも通り賑やかな教室内でそんな会話が聞こえてきた。今は既に昼休みで、みな思い思いの時間を過ごしていた。
「だってよ、涼太。お前なんか知ってる?」
「知ってるもなにも俺が昨日発言をしたせいでこうなってんだよ。」
こちらはお弁当を食べているいつもの4人である。
流陣からS級探索者ならなんか知ってんじゃねぇのかと思われて素直に答えた涼太。
それに対して他2人が食い下がる。
「えっ!涼太くんもしかしてなんかやらかしたの!?……どんなことになっても私は君の味方だからなね。」
「由奈、それはよくない。犯罪を犯したならしっかりと償うべき。」
「俺が何かやらかした前提話を進めんじゃねぇ。最近俺ツッコミ増えてない?」
涼太がなにかやらかした前提で話されたせいで少し不貞腐れる。しかしそんな涼太の様子に流陣と瑠色が爆笑。由奈は涼太が活力を取り戻せるようにエールを送っていた。
「りょ、涼太くん!大丈夫!私は貴方がそんなことをするなんて最初っから思ってないよ!私になら少しくらい………、」
「由奈、それはまずいよ。」
2人のやり取りにもうどうでもよくなったと思った涼太が弁当を食べ出す。
「簡単に言うとS級探索者の個人情報が公開されるんだよ。勿論ある程度は制限されるが、名前や功績とかは公開されるんだよ。」
「へぇー、じゃあお前のことが世界に知れ渡るわけか。………少し…嬉しいな…。」
「なんだって?」
「何でもねぇよ。」
流陣が何か言った気がするが気のせいか。………それにしても、……俺がここまで青春みたいなのを送れるとはな……。ちょっと前までは愛のことばっか考えてたからな。
………こういう日常は絶対に失いたくないな……。
そう考えた時、背筋が凍ったような感触がする。
涼太は嫌な気配を察知する。
…………………?
……………………!!!
バッ!!
涼太は席を立ち窓の外を見る。そこから見えたのは………なにも見えなかった。
かなり離れていたが確実にヤバイ気配がするのはわかる。
「………おい!誰でもいい!スマホで渋谷方面の方で何かあったかニュースがないか調べてくれ!!」
涼太の突然の叫びに教室にいた全員が驚いた顔をする。
「りょ、涼太、どうしたお前?そんな叫んで………」
「どうしたもこうしたもない!!頼む!全員で調べてくれ!!」
涼太のその言葉にほとんどの人がスマホを触りだす。普段の穏やかな表情ではない涼太に触発されて全員が指示に従う。そうして一人を皮切りに全員が同じ内容のニュースを確認する。
「し、渋谷にある最上位ダンジョンが迷宮暴発を起こしてるってニュースがあるぞ!」
「こっちも同じ内容がある!」
「こっちも!今はS級探索者数人が一般人の避難を誘導してるって書いてある!]
渋谷の最上位ダンジョン
そのダンジョンは世界で1番難易度が高いと言われるダンジョンであった。あまりの難易度の高さに寄り付くのはS級探索者の中でも上位の実力を持つものだけ。そんな危険なダンジョンが何の前触れもなく迷宮暴発を起こした。今までにも最上位ダンジョンが迷宮暴発を起こす例は日本でも数件あった。しかし、基本的に迷宮暴発は難易度の低いダンジョンしかならない。そんな迷宮暴発は一番難易度が低いダンジョンのものでも最低B級探索者が対応しなければいけなかった。
そんなものだから世界で一番難易度が高いと言われているダンジョンの迷宮暴発。いったいどれくらい高いランクの探索者が必要なのか?それは誰にも考えることが出来なかった。しかし、ただ一人を除いて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます