第18話 ヒュード墓

 ヒュード墓。それはヒュード村から更に北東に位置する小さな墓だ。

 とは言えヒュード村の名前を冠する以上、それ相応の場所ではある。

 百二十年前に一度、アルバンとリスタは立ち寄っている。

 その時も苔生すことなく丁重に扱われていたことを思い出す。


「アルバン、ヒュード墓が原因だったんだね」

「そうだな」

「百二十年前はこんなことなかったのにね」

「そうだな。とは言え、大方の想像は付く」

「そうだよね。多分、あの村長さんが原因」


 アルバンもリスタも気が付いていた。

 恐らく今回の死の真相。全てはヒュード墓に起因する。

 過去と現在に繋がる点が一本の線になると、村長の体たらくが見えた。


「村長として信頼されてなかったな」

「それ、絶対に本人の前じゃ言っちゃダメだよ?」

「分かっている。が、俺達を引き込もうとする魂胆を見れば分かるだろ」

「うっ、そうだよね。あの雰囲気、自分のことしか見えて無かった気がする」


 アルバンとリスタは村長がろくでもない奴だと気が付いていた。

 だからだろうか。ヒュード墓の手入れなんてしていないだろう。

 そのせいで墓に眠っている人に怒られた。

 それがこうして村長以外に振り掛かり、負の連鎖を生んでいるのだ。


「それにしても陰湿だよね。どうして村長さんにはなにも起きないのかな?」

「そんな理由、一つしかないだろ」

「一つって?」

「単純だ。村長以外に振り掛かることで、当の本人はなにも出来ずに苦しむ。そうなれば、村長の威信は消え、最終的に村長に対して残った村人達が暴挙に出る。いわゆる……」

「反旗ってことだよね……恐ろしいことするね。こんなこと千年前ならよくあったけど、今もあるんだ」

「どんな時代だろうが、地位を誇示する人間は、信用ならないものだ」


 アルバンは偏見をこじらせながらも、一つの結論に至っていた。

 その結論はリスタにも見えていて、気が付くと、丘の上に立つヒュード墓にやって来ていた。


「やっぱりか……」

「そうだね。手入れが全然されてない」


 そこは木々が鬱蒼とし、蔦がグルグル巻きに巻かれた荒れ地だった。

 その上で何処か湿っぽく、小さな虫達が蠢いている。

 苔も蒸していて、明らかに手入れが行き届いていない。

 何一つとして敬意が感じられず、ここで眠る先祖が浮かばれない。


「これは魔術や魔法じゃなくても呪いになる」

「しかも負の魔力で満ちてる。きっと二百五十年前に私達が放置した魔法が発動されたんだよ」

「だろうな。全く、あの時も忠告した筈だがな」


 人間とは成長しない生き物だとつくづく感じる。

 しかしこうなった以上仕方は無い。

 アルバンとリスタは本気で相手することを決め、予め魔法を唱える。


「リスタ、出てきたら速攻で仕留めるぞ」

「分かってるよ。それより、見えて来るよ」

「そうだな。気を引き締めるか」


 鬱陶しい木々を超え、ちょっとした森の中を抜ける。

 すると目の前に石片が立ち並んでいる。

 何処となく綺麗な装いだが、その奥に建てられた墓石は真っ黒に変色している。

 悍ましい程に忌々しい魔力が立ち込め、アルバンとリスタは警戒した。


「明らかに入るとマズいな」

「うん、負の魔力で満たされてる……見て、アルバン、誰か倒れてる!」

「いなくなった子供だな。……まだ死んでは」

「いないみたいだよ。アルバン、助けるよ」

「分かっている……行くしかないな」


 アルバンとリスタはヒュード墓に立ち入った。

 二人の体をなじるように負の魔力が流れる。

 本当なら吐き気がする筈で、最悪倒れてしまうだろう。

 しかしアルバンとリスタの前では意味は無く、子供の下に容易に辿り着けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る