第17話 消えてしまった子供

「頼む。儂らにはどうすることもできんのじゃ」


 村長は頭を下げたまま、何度も何度もアルバンとリスタに頼み込む。

 しかしアルバンは首を縦に振らない。

 調査には来たものの、自分達を出汁に使った村長の言い分に聞く耳を持つ気は無いのだ。


「礼なら弾むぞ。そ、そうじゃ、おい、誰か米俵が残っていたな。あれを……」

「そんなものは要らない」

「つまりタダで引き受けてくれるんじゃな」

「アルバン君……」


 リスタも村長の腹が見えてしまった。

 この村長は、自分の手を汚す気が一切無い。

 つまりは誠意が一切感じられない。流石のリスタも話にならなかった。


「リスタも気が付いたな。行くぞ」

「うん。流石にこれはあんまりだよね」


 アルバンとリスタは村長宅を後にしようとした。

 しかし振り返った途端、アルバンの腕を村長は掴む。

 体重を掛け離さないようにすると、村長は必死に懇願する。


「本当に頼むんじゃ。儂らには、儂らにはもう……」

「知るか。俺達だって暇じゃない」

「そこをなんとか。ほれ、村の皆も頼むん……じゃ?」


 村長は集まってくれた村人達にも頼むように急かした。

 しかし誰も声を上げないし、反応もしてくれない。

 人望が無いのか、そう思ったが、アルバンとリスタは異変に気が付く。


「おい、リスタ。これは……」

「うん。この人達、もうみんな……」


 アルバンとリスタは近付いてみた。

 すると全員の目が黒くなっている。

 白い部分が真っ黒で、何かの病気かと疑うが、黒い靄が飛び出していた。


「死んでるな」

「うん、死んでるね」

「な、何故じゃ。一体なにが起きておるんじゃ!?」


 如何やら村人達は全員死んでいるらしい。

 誰一人として生きている節は無く、如何やら感染型の魔術か魔法らしい。


「酷いな、感染源はあの遺体か」

「そうだよね。もしかして、空気感染?」

「いや、おい、アンタの息子をここに運んだのは誰だ? そして何人いる?」

「そ、それは、その……」

「ここにいる人達なんだね。ってことは、接触感染?」

「そうだな。皮膚による皮脂感染の可能性が高いだろうな」


 アルバンとリスタは専門外ではあるが、経験から推測した。

 するとこの状況で起きているのがただの魔術では無いことは分かる。

 これだけの感染力。恐らくは魔法だ。二人は嫌な顔をすると、村長を連れて外に出ようとする。


「ここは危険です。急いで外に出ましょう」

「ど、どう言うことじゃ!? 一体なにがどうして……」

「そんなことはいい。とにかく出るんだ」


 アルバンとリスタは焦ってはいないが、村長を連れて宅を後にしようとした。

 今は少しでもこの場から離れること。

 それが遺体に触れないように配慮した行いで、二人は村長には言っていないが、ある種の予想を立てていた。


「リスタ」

「分かってるよ。【白璽】:《モノ・チェイス》!」


 リスタは指先に珠を挟むと、遺体に向かって投げつけた。

 すると白くて眩い線が浮かび上がり、リスタにだけ見える。

 この線を追う。そうすれば、何処が元凶か一目瞭然だった。


「リスタ、視えたな」

「うん。多分この先で……」

「一体なんの話をしておるんじゃ……ま、まさか!?」


 村長が血相を変えてアルバンにしがみつく。

 そんな中、突然村長宅に響くよう、玄関先から声を上がった。


「村長、村長!」

「ん、誰か来たぞ?」

「今はそれ所ではないんじゃ。あの者は後にして……」

「大変なんです、村長。うちの子が、うちの子が、ヒュード墓に行ったっきり帰って来ないんです。お願いします、村長、助けてください!」


 村長宅に押し入ってきたのはまだ若い男性だった。

 血相を変え、青ざめた顔色を浮かべると、村長に頼み込む。


「お願いします、村長! 娘が、娘がいなくなったんです……」

「あっ、そんなことを言われてもの……」

「お願いします、村長」

「ううっ、しかし儂にはどうすることも……」


 男性は村長に懇願するが、村長は厳しい表情を浮かべる。

 それから視線をアルバンとリスタに預けると、頬を掻き毟る。


「仕方ないか……」

「ようやく本気になるんだね、アルバン」

「……こうなった以上、やるしかないだろ」

「そうだね。私の【白璽】:《モノ・チェイス》も、ヒュード墓? に向いてるから」


 アルバンとリスタは本気になれた。

 しかしその中に人助けと言う感情はほとんどない。

 目的を果たすため、アルバンとリスタは元凶、ヒュード墓に向かった。

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