第16話 死の臭いが渦巻く

「それじゃあ俺達はもう行く」

「えっ、アルバン!?」

「……黙っていろ」


 アルバンは荷物を届けると、リスタを連れて行こうとする。

 リスタは当然驚いた。

 荷物を届けるのは理由の一つで、まだ調査が終わっていない。

 けれどアルバンはそんなリスタに無言の会話をすると、村長はアルバン達を引き止める。


「いやはや、待ってくれ」

「なんだ?」

「二人の活躍は見ておったぞ。そこでじゃ、儂らを助けてはくれんか?」

「はっ、何故だ」

「何故もなにも、とにかく儂の家に上がっておくれ。ほら、早く」


 アルバンは村長に腕を引かれた。

 リスタは戸惑った表情を見せるが、一瞬見せたアルバンの表情にピンと来る。

 ほくそ笑むように笑っていて、如何やらこれが狙いだったらしい。


「全く、アルバンは……待ってください、私も行きます」


 そう言うと、リスタもアルバンと村長に続いて村長宅に上がり込んだ。

 その際、出迎えてくれていた女性が戸惑う顔を見せる。

 けれど村長の鶴の一声を前に、今更何か言いだせるわけもなく、アルバンとリスタは通された。


「おい、俺達になにを見せたいんだ?」

「見せたいというのかのう。実はの、あまり心地の良いものではないんじゃ」

「どういうことだ?」

「それは……おお、ここじゃ、この部屋じゃ……少しくらいが勘弁しておくれよ」


 そう言うと、村長は障子の間を開けた。

 そこには何人もの黒い服に身を包んだ男女が並んでいる。

 座布団の上に座り、シクシクと泣いている。

 確かにあまり気持ちの良い空気ではない。


「アルバン、一体なにが……あっ」


 リスタも追い掛けると、部屋の中の空気に苛まれる。

 部屋の中央奥。そこに鎮座するのは四角い長方形の箱。

 中には何かは言っているようだが、非常に生々しい臭いがした。


「これはまさか……」

「そのまさかじゃよ」


 村長の悲しい声に胸を打たれる。

 アルバンとリスタはそれでも悲しむことは無く、箱に近付いた。

 中に入っているもの。予想通り、人間だった。


「ご冥福を祈ります」


 リスタは手を合わせると、ソッと目を閉じた。

 形だけでも礼儀を見せないと失礼なのだ。


「こいつは?」

「儂の息子じゃ。つい昨日、死んでおる所を発見されたんじゃ」

「息子さんが……その」

「だからなんだ。俺達には関係ないだろ」


 この状況下でもアルバンはアルバンだった。

 息子を亡くし、悲痛のどん底、ストレスの最下層に叩き込まれた村長に向かって、厳しい言葉を掛ける。

 それを受けてか、集まって同じように冥福を祈る人達から睨まれるが、一切動じない。


「そうじゃな、旅のお二人には関係ないやもしれん。しかしの、儂は縋るしかないんじゃ」

「縋る?」

「お二人はさぞ優秀な魔術師だとお見受けした。そこでじゃ、如何か儂らを助けてくれんじゃろうか。この村をすくう、忌々しい呪いから」

「呪い、アルバン君……」


 リスタは助けを求め懇願する村長を前にし、アルバンに促し掛ける。

 こうなることは予想済みだ。その上でここに来ている。

 しかしアルバンの顔色はすこぶら無い。その理由をリスタも察しており、遺体を取り巻く黒い靄だった。

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