第15話 ヒュード村の村長
ヒュード村に訪れたアルバンとリスタ。
早速柵を潜って村の中に入ると、雰囲気はあまり心地よくない。
「不気味な雰囲気だな」
「うん。ちょっと気味が悪いかも」
ヒュード村には過去に二度訪れたことがある。
その際も不気味な雰囲気が漂っていたのかと言われればそんな記憶はない。
けれど全身をジットリとした汗が撫でるような感覚は、残念なことに不穏を思わせた。
「これが例の黒い靄の仕業だとすれば、いわゆる通夜と言う奴だな」
「場違いな時に来ちゃったかもしれないね」
「それは百も承知だ」
「そうだね。まずは依頼された品を届けに行こ」
アルバンとリスタは気を取り直すことにした。
まずはアリアムから頼まれていた商品を村長に届けに向かう。
そうと決まれば行く当ては決まった。ヒュード村の奥、大きくて立派な造りの家を探す。
何処の村でも地位のある家は大きいと相場が決まっていた。
「となればあそこだな」
「やっぱりそう思うよね? それにしても、人の気配が……」
アルバンが顎で指示したのは、一本道の先にある大きな家。
茅葺屋根の家で他の民家に比べても、明らかに縦も横も幅がある。
おまけにリスタは家の中から複数の気配を感じ取った。
如何やら村長宅に人が集まっているようで、村の緊迫した状況がヒシヒシと伝わる。
「どうする、アルバン? この状況でも行ってみる?」
「まだ決まった訳じゃないだろ」
「分かっている癖に。でもいいよ、行ってみよう」
アルバンとリスタは立ち入ってはいけない空気だとは前以って理解していた。
それでも村長宅に行かなければいけない理由がある。
足を伸ばして家に赴くと、畏怖に満ちた暗い雰囲気が、家全体から放出されていた。
「うわぁ、相当病んでるね」
「仕方ないだろ。村の人間が死んだんだ」
「軽く言っちゃう所が私達らしいね」
「……無駄口はいい。行くぞ」
アルバンはリスタの言葉を途中で遮ると、先に村長宅の玄関へ向かう。
リスタも隣に立って歩み寄ると、玄関に向かった。
残念ながらチャイムは無く、直接声を掛けることにした。
「すみませーん、お届け物でーす」
リスタは口元に手を当てて拡声器の代わりにする。
おまけに村長宅に配達に来た体を装う。
すると声と言葉に反応したのか、村長宅で騒めく音がして、スタスタと女性がやって来た。
「ああ、すみません、配達ですか?」
「はい、お届けに来ました。アルバン」
「……村長に届け物だ。送り主は、アリアム」
「アリアム? そう言えば村長がなにか頼んでいたような……」
女性はしどろもどろな様子で、常に考え事に耽っていた。
如何やら村長がアリアムに注文していたことを知らないようで、これでは話にならない。
そう思ったリスタは女性には悪いと思いつつも、それを承知で村長を呼ぶ。
「あの、村長さんは?」
「村長でしたら、今は出掛けていて。すみません、いずれ戻って来られるとは思うのですが……村長!?」
「「ああ、やっぱり」」
女性は目を見開いていた。如何やらアルバンとリスタの背後に村長が居るらしい。
いつの間にか現れたようで驚いているが、アルバンとリスタは気が付いていた。
否、気が付かされていたのだ。
「今、戻ったぞ」
「何処に行っておられたんですか、村長。もう皆さん集まっていますよ。それと配達屋さんです、しっかりと受け取ってくださいね」
「分かっておる。のぉ、旅の者」
アルバンとリスタは振り返る。
そこに居たのは先程蹲っていた老爺。
顔色は良く、心配要らない程清々しい表情を浮かべていた。
「さっきのお爺さん! やっぱりこの村の人だったんですね」
「しかも村長だったとはな。ふん、考えたな」
「なんのことかの? 儂には見当も付かんな」
「……嘘が下手だな」
アルバンとリスタは村長にしてやられていた。
その事実を改めて理解すると、何だか笑い話のような気もしてしまい、心の中でだけクスッと笑ってしまった。
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