第14話 橋上の盗賊達2

「それでアルバン、やり過ぎちゃダメって言ったよね?」

「……はい」


 リスタはアルバンを睨みつけて説教をしていた。

 睨まれたアルバンは、言い返す言葉も無いのか、唇を噛んだまま下を向いていた。

 橋の上。真ん中を陣取るように始まったリスタの激昂に、アルバンは肝を冷やす。


「そうだよね。それじゃあこれはどう言うこと?」

「どうと言われても……見た通りだ」


 アルバンはリスタに言われて視線を変える。

 振りむいた先。そこには盗賊達の遺体……ではなく、気絶した姿。

 仰向け、うつ伏せ、横たわる姿の数々に、地獄絵図を思わせる。


「やり過ぎちゃダメって言ったよね?」

「悪かった」

「私に言ってもダメだよ。アルバンは強いんだから、ここまでのことしなくても良かったでしょ?」

「……つい楽しくなった」


 アルバンはリスタに正直に答えた。

 確かに大人げないと思ってしまったのだ。


 実際、アルバンは終始余裕だった。

 剣使いの男性を軽くいなすと、橋に叩き付け戦闘不能に追い込んだ。

 それから斧を振り上げた男性の腹に肘を入れ、嗚咽を漏らさせた後は足を攫って転ばせる。無防備になった体を痛めつけように拳を叩き込むと、一撃で気絶してしまった。


 その結果生まれたのがこの有様で、あまりにも一方的。

 まさしく強者が弱者をいたぶるだけの存外な光景が広がったのだ。


「私みたいに最低限の攻撃で倒してよ」

「……魔法の奇襲の方が怖いだろ」

「うっ……それは、まあ……ねっ?」


 リスタもアルバンの反撃を喰らって嗚咽を漏らす。

 確かに言い返す言葉は無い。

 シュンとなって目を伏せたが、一度置いておくことにした。

 まずは目の前の山を片付けるのだ。


「とりあえず、全員治してあげよう。【白璽】:《モノ・ヒーリング》!」


 リスタは回復魔法を使って盗賊達を全員治した。

 アルバンに付けられた傷がみるみるうちに治癒されると、盗賊達はただのぼせただけになる。

 その姿に安堵すると、一応縛り上げて橋の隅にまとめて固めた。


「とりあえずこれでよし」

「なんとか痕跡は消せたな」

「その言い方、ちょっと嫌。って、元はと言えばアルバンのせいだからね!」

「……よし、先に行くぞ」


 アルバンは責任転嫁させるべく、リスタを置いて先に行ってしまった。

 急ぎ足で逃げ去るアルバンを追い掛けるべく、リスタもその場を後にする。

 縛り上げられた盗賊達は魔法で報告すると、橋上は解放され静かになった。



「あれから十分くらい経つけど……」

「気配は消えたな」


 アルバンとリスタは村を目指して歩みを進めていた。

 橋を過ぎ去りあれから十分。

 トボトボ鋪装された細い道を歩き、人気の無さを感じ取っていた。


「あの老爺、俺達を追って来ていたな」

「そうだね。でも気配が消えちゃった」

「先を急いだみたいだな。どうやら俺達は使われてしまったらしい」

 

 アルバンとリスタは初めから気が付いていた。

 橋上に居た盗賊の姿を見た時から、背後に気配を感じていたのだ。

 明らかに先程助けた老爺。如何やらアルバンとリスタに盗賊を倒して貰おうと、隠れて見ていたのだろう。


「でも倒した拍子にいなくなっちゃったね」

「もしかすると、盗賊達の頭領かもしれないな」

「あっ、その可能性もあるよね。私達を誘い込んで、油断した瞬間襲うとか……」

「そうなれば敵とみなして返り討ちだがな……おっ」


 アルバンとリスタは物騒な会話を続けていた。

 すると視界の先に何やら形あるものが見えてくる。

 竹でできた柵のようで、何かを守るように建てられていた。


「見てよアルバン! 村があるよ」

「どうやら着いたようだな。あれがヒュード」

「ヒュード村。名前からして怪しいね。でも悪い雰囲気はしないかな?」

「そうだな。とにかく行ってみるぞ」


 アルバンとリスタはようやく辿り着いたヒュード村に向かった。

 一体どんな障害が待ち構えているのか。

 アルバンとリスタは微かに警戒しつつも、態度を変えずに楽しんでいた。

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