第11話 レストランで作戦会議
「あっ、アルバン! 捜したよ」
アルバンは大通りを歩いていた。
すると奥の方からリスタが声を掛けて来た。
如何やら突然姿を消したアルバンを捜していたようで、手を振って駆け寄って来る。
「リスタか。悪かったな」
「悪かったなじゃないよ。何処に行ってたの?」
「アリアムの所だ」
「アリアムさん!? そう言えば私、まだ挨拶に行ってなかったよ。今から行って来るね……うわぁ!?」
リスタはアルバンにアリアムのことを教えられると、すぐにでも挨拶をしに行こうとする。
しかしそんなリスタの腕をアルバンは掴んで離さない。
せっかく合流できたのにまたはぐれれば元も子もない。
ましてやアルバンの性格的に、リスタを捜す気配はない。自分でもそれが分かっていたからか、はぐれないように腕を掴んだのだ。
「アルバン?」
「お前は行かなくてもいい。それより話がある」
「話? なにかあったってこと?」
リスタの目が変わった。
鋭い眼光になり、アルバンの思考を読もうとする。
目の奥、芯の瞳の奥を覗き込むと、リスタは只事ではないと悟った。
「分かった。でもその前に何処かでご飯を食べよ。もう私、お腹ペコペコだよ」
リスタはお腹を押さえていた。
今にもグゥーと鳴り出しそうで我慢していた。
「飯か。そうだな、丁度臨時収入も手に入った所だ。好きなものを食べに行くぞ」
「えっ!? アルバンが珍しいこと言った」
「俺をなんだと思っているんだ。……俺にはこれくらいの配慮しかできないからな」
アルバンは目をキラキラと輝かせるリスタから、視線を瞬時に外した。
アリアムの言葉が過ってしまい、いつもお世話になっている相棒にできることをしたかったのだ。
しかし何か贈り物を贈るなど、センスを問われることができない。
だからだろうか。せめてリスタが選べるように配慮を全力で行った結果だ。
「アルバン?」
「なんでもない。ほら、選べ」
しかしリスタは不審な動きを見せるアルバンに疑問符を浮かべる。
アルバンもそんな自分を察すると、すぐさま意識を切り替える。
表情から迷いを消し、淡々と声の抑揚も無いまま問うた。
「そんな急に言わないでよ……うーんと、それじゃああのお店にしよ」
「あの店? 大衆的なレストランだな」
「でも流行っているよ?」
「それはそうだな。間違いは無さそうだ」
リスタが指を指したのは、街の中には必ずあるような大衆的なレストラン。
高級店でもなければ、超が付く程、庶民的な造りをしていた。
けれどその分たくさんの人が利用しており活気がある。
味も評判も間違いない証拠であり、アルバンも納得した。
「それじゃあ行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
アルバンはリスタよりも先にレストランへと入ってしまった。
リスタは急いでアルバンを追い掛けると、レストランの中に入るのだった。
「ご注文がお決まりになりましたら、手を挙げるなどしてお呼びください」
「はい、分かりました」
レストランの中に入ったアルバンとリスタは四人掛けのテーブルをありがたく独占することができた。
ウエイトレスの女性が丁寧に接客をしてくれると、アルバンとリスタはメニュー表を開き、何を注文しようか考え込んだ。
「どれにしようか」
「どれでもいいだろ」
「どれでもはダメだよ! もう、アルバンは自分の意思無いね」
リスタはアルバンの態度が気に食わずムカついてしまった。
ピキンと蟀谷辺りが破裂する音が聞こえ、ギロッと鋭い視線をアルバンに剥き出す。
その表情にアルバンは怯えると、喉を締め付けられる気分になり、顔をメニュー表で隠した。
「それよりリスタ」
「ん?」
「少し話がある。この後の打ち合わせだ」
アルバンは料理を注文する前に、リスタに話を切り出した。
空気が一変した。リスタは鋭い感覚によって嗅ぎ分けると、メニューを置いてアルバンに訊ねる。
「なにかあったの?」
「あったと言われればあったな。アリアムからの依頼だ」
「依頼!? アリアムから!? 珍しいね」
「そうだな。実に十年ぶりだ」
リスタはアリアムからの依頼に驚く。
しかしアルバンは淡々と会話を続けた。
「今回の依頼は注文された品を北東の小さな村まで届ける簡単なものだ」
「本当に簡単だね。でも北東の村って、なんだか嫌な予感がするね」
「そうなのか?」
「うん。スクラープでもちょっとだけ噂になっているみたいだよ。謎の遺体、怪しい匂いがするよね」
リスタの耳にも情報が届いていたらしい。
アルバンは余計な説明も省けると思い助かった。
これならスムーズに話が進む、アルバンは隠すことを止め、リスタに問うた。
「リスタはこの一連、どう思う?」
「どう言って言われても分からないよ。実際に行ってないんだから」
「そうだな……これから行こうと思う
「何処に? もしかしてその村に? 依頼を受けたんだから、行くしかないよね」
リスタはアルバンの言っていることに矛盾を感じた。
どのみちその村に行くことになるのだ。
それならまどろっこしい話をするのは野暮だと思い、リスタは首を捻ったのだ。
「そうか、リスタも行くんだな」
「私見行かないといけないでしょ、相棒だもん。それより何を注文するか決まったの?」
「そうだな……それじゃあすぐにでも行くぞ。時間が惜しい」
「うん……えっ!?」
リスタは顔を上げた。既にアルバンは立ち上がっていて、旅支度の準備をしている。
余りにも忙しない動きに、リスタは言葉も出なかった。
それもそのはず、まだ何も食べていないのだ。
「ちょっと待ってよアルバン。今すぐ行くの? 今すぐ」
「こうしている間にも遺体の腐敗は進行しているからな。すぐにでも行きたい」
「ま、待ってよ。あ、アルバン!」
アルバンは珍しく活動的だった。
リスタは圧倒されてしまい、瞬きを何度もする。
メニュー表とアルバンの姿を交互に見比べると、究極の選択肢に立たされた上でアルバンを追うことになってしまった。
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