第8話 鉄くずの町に寄り道
アルバンとリスタは久々に町にやって来た。
そこまで大きくはないが、賑わいを見せる町で、少し鉄の臭いと油を注した独特な香りが立ち上る。
「久々に来たね、スクラープ」
「そうだな。とりあえず、買い出しだ」
「分かってるよ。でもさ、私女の子だよ? まさかすぐには町を発たないよね?」
「……」
「アルバン?」
「……分かっている」
絶対に分かっていない反応だった。
アルバンはリスタから距離を取るように離れて行くと、リスタは背中を追いかける。
「アルバン?」
「うっ、リ、リスタ……」
襟を掴まれると、アルバンは逃げられなくなる。
振り返り際、見せたリスタの顔が怖い。
表情が強張ってしまい、唇を噛むと、狐に摘ままれたみたいに大人しくなってしまった。
「アルバン、せっかく町に来たんだよ? しかもスクラープだよ?」
「そうだな」
「知り合いも確かいたよね? すぐに町を発ったら、次いつ会えるかも分からないよ。言いたいこと、分かるよね?」
「……はい」
アルバンはリスタに押し潰されてしまい、心苦しくなってしまう。
もはやリスタに反抗することはできない。
そう悟ったアルバンはただ黙って従うと、コクリと首を縦に振り、リスタの馬鹿力から解放された。
「ふぅ……」
「それよりアルバン。これ見てよ」
アルバンはリスタに引っ張られた服を整えた。
するとリスタはアルバンの肩を軽く叩き、新聞を見せる。
何か面白いことでも書いてあるのか。アルバンは久々に新聞を読むことになった。
「新聞か。いつの間に買ったんだ?」
「それはいいでしょ? それよりこの記事」
「記事? なにか事件でもあったのか? あっ!」
「そうだよね。これってエンヴィルさんのことだよね?」
リスタが買った新聞には、ここ数日の間に起きた出来事が記事として書かれていた。
しかもこの新聞は世界新聞と呼ばれるもので、その国ごとの情勢がある程度読み解ける。
その中でもリスタが指を指したのは、この国で起きた事件の記事だった。
「やっぱり逮捕されたか。意外にも早かったな」
「あれから二日くらいかな?」
「そうだな。とは言え、今までに野放しされていた期間を加味すれば、遅いだろうな」
「だよね。エンヴィルさんのせいで、今までにたくさんの人が……」
「助からなかった命だ。俺達には関係が無い話だろ」
「そうだけど……」
エンヴィルは今までに何人もの人達を罠に掛けて来た。
その人達は、もうこの世にはいない筈だ。
それを考えれば、一人でも救われたこと、これ以上被害者が増えないことを想った方が何倍もマシになる。
全く傷付いていないアルバンとリスタは、エンヴィルが捕まったことを、魔術を齧った犯罪者が一人お縄に付いただけ。それ以上のことを思うことはできなかった。
「おっ、あの人面馬は助かったんだな」
「そうみたいだね。やっぱり女性だったんだ。綺麗な人」
新聞の記事にはイラストが描かれていた。
如何やら馬に変えられていたのは女性だったらしい。
案の定、卸される前に取り押さえたことで、無事に魔術を解除されたみたいだ。
ホッと一安心をしたのも束の間、記事には気になる一文もある。
「えーっと、なになに。[道中で優しく声を掛けてくれた男女の魔術師さんに励まされたおかげで、最後まで希望を胸に抱くことができました]だって!」
「まるで俺達のことを話しているみたいだな」
アルバンは女性が自分とリスタを讃えていると考えた。
しかしリスタは口元に手を当てると、軽く笑みを浮かべる。
「うーん、どうかな? でも、それなら私も嬉しいな」
「いや、根拠はある」
「根拠があるの? どれどれ」
「このイラスト見てみろ。額の部分、妙な珠が発光しているだろ。これはお前の魔法のはずだ、リスタ」
気掛かりだったものが確かにイラストに描かれている。
女性の額部分が妙に発光している。
真白な球体が浮かび上がると、淡く輝きを放ち、粒子を振り撒いていた。
「おそらく、他の魔術師が解くよりも早く、リスタの魔法が解いていたはずだ」
「私の魔法が?」
「そうだ。実際、魔術は魔法に劣るからな。それを考えれば、今回の活躍はリスタに軍配が上がる。誇っていいだろ」
「誇っていいって……別に私は大したことしてないよ?」
リスタは自分ができることをしたまでだった。
しかしアルバンは気が付いていた。
その行いが、本人にとってどれだけの救いであったことか。
けれどアルバンは特に口を挟まない。
「そうか」と一言呟くと、リスタが広げた新聞を弾く。
その足はそそくさとその場を立ち去り、リスタを置き去りにして町の中に消えるのだった。
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