第7話 家畜売りには制裁を

 アルバンとリスタはいち早く荷車を出ると、急ぎマーカーを付けた。

 アルバンは指先から魔力を出すと、誰からも分かるように取り付ける。


「これでよし」

「アルバン君、マーカーは付け終わった?」

「もちろんだ。それより急いでこの場を離れるぞ」


 アルバンはリスタを連れ、即座に離れることを提案する。

 しかしリスタは人面馬の顔を見ると、少しだけ声を掛ける。

 

「ヒヒン! ヒヒヒン!?」

「大丈夫。もう少しの辛抱だからね。【白璽】:《モノ・セキュリア》」


 リスタは人面馬の額に指を当て、魔法を掛けた。

 人面馬は何が起きたのか分からない様子だったが、リスタの邪魔をしないように黙っていた。

 おかげで無事に魔法を掛け終わると、リスタはアルバンに急かされる。


「リスタ、早く行くぞ」

「待ってよ、すぐ行くから」


 リスタはすぐさまアルバンの下へと戻ると、馬車から離れるように道なりに進んだ。

 急いでここから消えること。

 アルバンとリスタはエンヴィルの前から姿を消し、その痕跡を何一つ残さなかった。



「ねぇ、アルバン。本当に私が解かなくても・・・・・・よかったの・・・・・?」


 リスタはアルバンに訊ねる。

 隣を歩くアルバンは正面を向いたまま何も答えない。

 もう充分以上に距離は取ったはずなのに、ここまで無言は酷いとリスタは思いつつも、アルバンは念には念を入れ、短い言葉で返した。


「そうだな」

「そうだなって、それじゃあ答えにもなってないよ。エンヴィルさんも、あんな具合だったから……ねぇ?」

「そうだな」


 アルバンとリスタは既に勘付いていた。

 否、人面馬と対面した瞬間から、既に気付いてはいた。

 エンヴィル。あの男性は商人なんかじゃない。


「正直バレバレだったな」

「うん。手付きも手引きも全部嘘っぽかったよね」

「特にあれだ。俺達が出された水に飲まなかった時、目の色を変えていた。時分で飲んだように見せていたが、あの水は自分で飲んだ際には魔術が働かないんだろうな」

「そうだよね。それにしても酷いよね。人を騙して、売り物にするなんて」

「詐欺師なんてそんな物だろ」


 エンヴィルは商人の皮を被った魔術師。

 しかもただの魔術師では無く、魔術師の中でも闇に位置する魔術師で、アルバンとリスタにとっては敵だった。


 しかも用いた手段は懐古的。

 わざと荷車を壊し、近付いてきた人間を荷車に引き込むと、温情を掛けるように水を進める。

 汚い器の中に入った水。魔術が欠けられたあの水を飲めば、きっと毒が全身を回る。

 体の形が変わり、そうなれば最後、魔術を解かない限りは食い物にされるのだ。

 荷車を引かされ・・・・・・・ていた人面馬・・・・・・のように・・・・


「あの人、可哀そうだよね」

「そうだな。だが、従わない限りは、次は自分が剥がされるだけだ」

「ううっ、考えただけでも悍ましいよ。それを殺気ダダ漏らしながら平然と……気持ち悪い」


 リスタは全身に鳥肌が走り、身の毛がよだって仕方がない。

 アルバンも道端に落ちていたゴミでも見るかのようで、苛立ちさえ感じている。


「だが、俺達はできることをしたぞ」

「マーカーのこと?」

「そうだ。あれがあれば、適当な国・または街に常駐している騎士警察が動き出すはずだ。恐らく事情は伝わるだろう」


 アルバンがエンヴィルに気が付かれないように付けた精巧なマーカー。

 各地に常駐する騎士警察に、事態の重要性を知らせるものだった。


「おそらくは即刻身柄を取り押さえられるだろうな」


 アルバンが付けたマーカーは色によって異なっている。

 今回付けたマーカーは危険人物であることを証明する重要な手掛かりになる。


「最悪、既に殺人に関与している場合もあるからな」

「うーん、昔だったら普通だったけど」

「今の時代、こう言った手口は多くないからな」


 アルバンもリスタも平然としていた。

 苛立ちは覚えるものの、それ以上に感じるものは無い。

 例えリスタであったとしても、その点に関しては非常にドライだった。


「でも、未然に防げて良かったね」

「俺達に出会ったことが運の付きだ」

「確かに。エンヴィルさんは、私達が何者か知らないもんね」


 アルバンとリスタは互いに考えは同じだった。

 そのおかげか、これ以上話が膨らむことは無い。

 町に辿り着く頃には全て終わっている。そんな期待を込めながら、歩を進めて行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る