第4話 【白璽】:リスタジア・H・マーガレット
「いやぁー、助かったわい。アルバン、ありがとうの」
「大したことはしていない」
「アルバン、そこは素直に喜んでおこうよ。毎回毎回、謙虚なのは良くないよ?」
リスタはアルバンが謙虚過ぎるのを咎めた。
もちろん謙虚なことは良いことだ。
実際、アルバンにとっては大したことでは無いのだから。
「そんなものか?」
「そんなものだよ。それよりお爺さん、大丈夫? さっきは私が強引に走らせちゃったけど、腰とか痛めてない?」
リタリは老爺のことを気にしていた。
腰を痛めていたにもかかわらず、また走らせたせいで、余計に腰を痛めたかもしれない。
申し訳ない気持ち一杯になる中、老爺は口を開いた。
「痛くはないぞ。だが、急に動いたせいで……」
「もしかして、足を捻っちゃったの?」
「ううっ、歳を取るとこれだから良くない」
老爺は苦汁の顔を浮かべていた。
如何やら足首を捻ってしまったらしく、痛々しく腫れている。
おまけに青白く浮かんだ血管が青紫色に充血していて、血流が良くないのが窺えた。
「悪かったな」
「いや、アルバンが悪い訳じゃない。全ては儂が……」
老爺は自分が年老いたことを気にしていた。
しかしそれは致し方が無いことだ。
アルバンとリタリは苦悶の表情を浮かべると、老爺に寄りそう。
「若返らせてはあげられないけど、怪我は治させて」
「ん? 痛みだけじゃなくて、血も止められるのかい?」
「もちろんです。アルバン、適当に包帯の代わりになりそうなもの探してきて」
「分かった」
リタリはアルバンに言いつけると、アルバンは言われるがまま森の中へと消える。
一方残ったリタリは怪我をした老爺の足を見ると、早速固有魔法を使った。
「【白璽】:《モノ・ヒーリング》!」
リタリは白い珠を一つ取り出すと、魔法名を発した。
すると淡い光がポロポロと溢れ出し、老爺の腫れ上がった足を癒してしまう。
それは一瞬の出来事で、眩い光が瞳を虚ろにさせると、直後には回復してしまっていた。
「はい、これで大丈夫ですよ」
「な、なんと!? 一体どんな魔術を使ったんだ?」
「魔術じゃないですよ。魔法ですよ。えっへん、こう見えて私は凄いんですよ」
リタリは褒められて少しだけ調子に乗ってみる。
いつもはしないことなので、あまり慣れていないのか、何処か歪だ。
腰に手を当てると、鼻を高くしようとするも失敗し、上手く間取りができなかった。
「儂には魔術も魔法もよく分からないが、これは凄い。儂にも使えれば、柴刈りも寄り容易いんだろうな」
「そうですけど……お爺さんの方が凄いです。人間らしいですよ」
リタリは落ち込む老爺を讃えた。
手を伸ばし、口を開き、人間らしさを伝える。
「魔術や魔法は本当は逸脱した力だと思うんです。本当は自分の手で足で、なにかを成せることが、そこから成功して失敗して、経験を重ねて超えて行く。それが一番凄いことだとも思うんです。って、魔法使いがなに言って……」
「リタリは優しいの。うむ、儂にはあんな芸当はできんが、それでもこの歳でできることをやってみるかの」
「その意気です!」
リタリは老爺を褒めて、暗闇の底から引き上げる。
難なく引き上げることが叶うと、念押しとばかりにリタリはガッツポーズを取った。
「リタリ、これでいいか?」
「アルバン、戻って来たんだね」
そうこうしていると、アルバンは包帯の代わりになりそうなものを持って戻って来た。
その手には長くて艶のある、大き目の葉っぱ。
魔性植物、ヒールドアロエ。火傷を治す時に効果的で、包帯の代わりにもなる殺菌性能を持っていた。
「これなら充分過ぎるよ。流石はアルバン、分かってるね」
「得意分野なだけだ」
「得意分野が自分で自覚できるのが凄いんだよ。それじゃあお爺さん、包帯巻くね」
そう言うと、リタリは手慣れた動きで包帯を巻いた。
絞め付け過ぎず、緩すぎず、痛みが無い様に抑える。
すると包帯代わりに使ったヒールドアロエが反応して、淡く煌めいて見えた。
「リスタの魔力に反応しているのか?」
「そうみたいだね」
「ハイエルフ、種族補正だけでここまで」
「ちょっと、それじゃあ私がハイエルフってだけに聞こえちゃうけど?」
「そんなことは言っていない。リスタはリスタだ。俺にも他の奴にも持っていない物があるだろ」
アルバンはリスタのことを知っている。
だからだろうか、アルバンはリスタのことを気遣う。
いつも明るく振舞いながら放浪の旅を続け、時に困難があっても決して揺るがない明るさを誇る。そんなハイエルフならではなのか、生も死も超越舌先にある自分らしさを前面に押し出すリスタのことを、アルバンは頼もしい相棒だと認識していた。
「それになにより、スタイルがいい。俺は興味無いがな」
「えー、それって逆にー?」
「逆? なにが逆なんだ?」
「マジで興味が無いんだ。やっぱり、アルバンはモテないよ」
「モテってなんだ?」
「その時点で止まってたらもうお終いだよ」
「ん?」
あまりにもレスポンスの無い会話だった。
そんな会話を目の当たりにした老爺は憐れむような顔色を浮かべる。
けれどもそれ以上のことはせず、決して放つ言葉もない。
この場に居るハイエルフの少女、リスタジア・
彼女もれっきとした魔法使いで、その眼差しは今日も誰かを見届けるのだった。
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