20 体育館(終)

 週末、ゲームをやり倒したために月曜の今日は目がなかなか開かなかった。しょぼしょぼする。やりすぎはいけないと身をもって知った。普段ゲームなんてやらないから加減がわからなかった。寄らなくてもいいところへ寄り、買わなくてもいいアイテムを買い。できることは必要不必要にかかわらず全部やりたかったというのもあって。

 今朝は全校朝礼がある。面倒なことに全クラス体育館に集められて、座らせてもくれない。こういう状況になるとたまに貧血で倒れる生徒もいて、先生に背負われて保健室へ向かう奴をみんな羨ましそうに見送りながら早く終われと念じるのだ。校長先生の話が長いとか生活指導の先生の話が長いとか保健室直行人が出る理由はいろいろある。話さなければならないことなのだろうけどもう少し手短にしてほしい。聞けるものも聞けなくなる。

 僕はゲームのやりすぎで食欲がわかないからと朝飯を食べなかった自分を呪った。体育館へ入ってまだ十分ほどしか経ってないのに何かふらふらする。倒れるというのもこの場から逃げられることに関しては有効だが、やはり格好のいいものじゃない。女子じゃあるまいし。

 とっとと終わることを願って僕は腕時計に目を落とした。もう始まる時間だ。はあ。

「それでは全校朝礼を始めます」

「えっ」

 ちょ……。

 散々聞いた声が体育館のスピーカーから聞こえた。

 ふらふら感もどこか吹っ飛んで。

 僕はステージ横のマイクスタンドの前に立つその人を、並ぶクラスメイトの頭をなんとか避けて、見た。

「………」

 僕と同じ、紺色のブレザーに赤いネクタイ姿で立っている人は。 

 本当に、いた。ゲームの中の服装ではないけど、目立って、格好良くて。僕をカリンと呼んだあの人だ。気のせいだと逃げられないほどに。

「あ、あのさ、あの人、なんていう名前?」

 前に並ぶ真鍋に小声で訊く。

「えぇ、どいつ?」

「今マイクでしゃべった人」

 そう言った途端、真鍋は怪訝な顔をした。

「はあ? お前知らないの? 神代かみしろ恭一郎きょういちろうだよ」

 神代……さん。

「せ、生徒会長?」

「そそ。あの人さ、バイって話だぞ」

「ばい?」

「めっちゃモテるらしい。男も女もどんとこいってやつ」

 は?

「いやまあ、わかるっちゃわかるよな。男前だけどエロい顔してるし上手そう」

 はあ!?

「気を付けた方がいいかもな、三崎」

 真鍋はニヤニヤしながら僕を見る。

「な、何を」

「お前みたいなひょろっとした奴、簡単に生徒会室に連れ込まれそうだもんよ。キス一つで済めばいいけどな」

「あははは……そんなことないから大丈夫」

 私語をやめるようアナウンスされ、真鍋は前を向いた。

 そこはもう越えてしまったよ、僕は。

 いやいやいや、カーリンだから!  僕にじゃない!

 それだけだ。

 きっと。

 多分。

 うん。


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悪役令嬢になってみた! 慶野るちる @keinoru

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