7 レイフという男
「レイが来たって?」
「はい」
今日の報告を聞くということでヤンが家に来てくれた。朝の出来事を順序だてて話していけば、当然レイフのことも言わなければならない。
レイ、って。ニナもそう呼んでいた。カーリンをカリンと呼ぶのは親しい人だけだ。つまりレイフをレイと呼ぶヤンは知り合いということか。
「レイフ様とは知り合いなのですか?」
「ひとつ下の幼馴染で、四つ葉会の副会長」
……なるほど。学校中みんな知ってるやつなのか。それなら女子の黄色い声も頷ける。ヤンと二人並ぶとすごいんだろうな。じゃあそんな男が平民のニナと婚約したとなると大騒ぎどころでは……。
「あいつ、ここで来る予定だったか……? 少しずつなんか違ってるな。腰巾着のノートっていうのも違うし。なのにお前の鞄にニナのノートが入ってるとか」
これも僕のせいか。妙な形でここに来たから。
未だ声はそのままだし。ちょっとは高めに出すよう意識はしてるけど大した足しにはなってないだろう。案外そんなに気にされていないところをみると、そこは重要ではないのかもしれない。
「まあそれでもニナにダメージは与えてるようだし順調には進んでるんだろう」
「あの、」
直球で訊く。遠回しに訊いたって仕方ない。答えられるのはヤンだけだ。レイフには無視されたし。
「レイフ様は葵ですか?」
まさかここでどこのアオイかとは訊かれないだろう。
「アオイって?」
ちょ……。
「僕の弟の三崎葵です」
乗っかれば更におちょくられるだけだ。
「お前、真面目に返すなよ……」
ヤンが呆れた顔で僕を見る。
「延々と続きそうだったので」
どうせ僕は気の利いたジョークも言えない。そういうのは友達の多い葵が得意だ。
「そうだな……今回レイフは葵だ」
やっぱりそうなのか……。
ってことは、僕を殺しに? ストーリーの関係ないところで殺されれば僕は帰れない。自ら引導を渡しに来たのか。帰ってこなくていい、なんて僕に決断を委ねたことは間違っていたと。
いやそもそも。
「葵は前もレイフだった」
「え」
「エンディングを迎えたあとはリスタートでキャラクターはリセットされる。つまり、向こうへ帰ってまたここへ来たとしても同じキャラクターにはなれない」
「え、一度帰ってもまた来れるんですか?」
初耳だ。
「言ってなかったか? 望めば来ることはできる。帰った途端に記憶からここのことが消されるわけじゃないからな。だがストーリーに深く関わるメインキャラではなく、いわゆる脇役でしか参加はできない。今回で言えばクラスメイトなんかになる。まあ二度三度と戻ってくるケースはほとんどないんだが」
「でも」
葵は。
「そう、あいつは特別だ。初回に上のやつらに素晴らしい立ち回りだと称賛されて、いつでも好きなキャラで戻って来れるという特典をもらってる」
「特典……」
「お前が曖昧なままここに来れたのはおそらく葵が絡んでるからだ。お前が望んだことを葵も望み、後押しとなったんだろう。推測でしかないが。何故とか訊くなよ?」
なんてある意味適当なんだ。何一つ僕たちにはわからないのか。
「葵には近づかない方がいいですよね。僕は殺されるかもしれない」
レイフはニナの話からして剣を持っている。
「……そういうシナリオじゃないし、あいつも勝手はしないだろう。させてもらえないだろうし。単に心配でついてきたんだろ」
心配なんてしないだろう。思いっきり無視したし。聞こえなかったはずがない。あっちへ帰ることを心配して、というならわかるが。
「カーリンは最後付近以外レイフと顔を合わせることはないから気にするな。今度レイと会った時に何のつもりか訊いとくよ」
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