第14話 『ラグナロク』

 そのステージの上にあるものは、正しく『戦場』そのものだった。


 レイジの奏でる音をアリアが抑え込み、シロの奏でる音をレイジが叩き潰す。シロは自らの能力の発動しない範囲内でしか戦うことが出来ない。だから、レイジとの戦いでは完全状態で戦うことが出来ない。彼女が最初の試合で全力を出すことが出来たのは、矢神の演奏があったからだ。だが……。


(負けない……負けられない……ッ!!)


 彼の持つ演奏技術の中には、シロから採取したデータも含まれている。シロを含めた、施設に監禁されていたあらゆる演奏家たちのデータが、神威レイジを音楽の神の領域へと押し上げている。


(でもそれは偽物の神だ……! シロはそんなものを神様だなんて思いたくない……! それでもお前が音楽の神様だというのなら……)


 音が爆ぜ、シロの振るった死神の鎌が、レイジの首元で闇の剣と鍔迫り合う。


(私だって……神だ。死神だ……!)


 刃と刃が互いを跳ね返し、突風が会場を吹き荒れる。会場全体がギシギシと軋みをあげ、観客たちは目の前で起きている音楽のラグナロクを前にして、呟く。


「あれは……音の神の戦いだ……」


 レイジの全てを纏った闇がシロへと迫り来る。それをアリアの歌声が押し留め、シロはレイジへの再攻撃の機会を窺っている。アリアは強い。しかし矢神のようにシロの全力を引き出すことは出来ない。そしてシロは自らの能力を制御することが出来ない。全力で演奏すればこの会場にいる人々を殺してしまう。それだけは、絶対にダメだ。だからアリアがレイジを押し留め、シロがその中の一瞬の隙を探す。全力の出せない今のシロでもレイジを屠れる、一瞬の隙を……。


「だが、現実はそう甘くはないぞ、鬱塞シロ……」


 客席の開瞳はニヤリと笑う。


「レイジはお前の能力を既に学習済みだ。それに対抗するためには、レイジと同等以上の力を発揮しなければ勝てるはずがあるまい。今はアリアが奴を抑え込んではいるが、それも長くは保つまい。レイジはアリアの弱点を既に把握しているぞ……」


 瞬間、レイジの音がアリアの首を掴んだ。


「──ッ!!」


 喉を潰される……。瞬時にして自らの生命の危機を察知したアリアは、その次の瞬間──。


「やらせない……!」


 死神の鎌が、アリアを捕えた音を真っ二つに引き裂く。蒼い瞳が真紅に燃え滾り、アリアはシロの瞳の奥の炎に奥歯を噛み、それから口端を上げた。


「鬱塞ちゃん……ようやく、本気になったね……」


 矢神は他者の奏でる音を正確に把握し、それを自らの音として利用する才能を持っていた。別の奏者の演奏と自らの演奏を絡めて一つの演奏にする天才……それが矢神の本質だった。

 アリアはあらゆる楽器を奏でてきた。今まであらゆる音を聴き、それを再現することに心血を注いできた。であれば、矢神の持つ音に対する検知能力は既にアリアも持っていると考えていいだろう。

 つまり……。


「いいよ鬱塞ちゃん……。暴れて? その死神の鎌から、観客たちを私が守ってあげるから……」


 アリアはシロの横で彼女をサポートする陣形から、シロから離れステージ上、観客達に背を向ける形で立った。


「ほう……支えることは出来ずとも打ち消すことは出来る……というわけか。これでは二対一というより、一対一対一の構図……レイジとシロとの戦いをステージ上に押し込めるつもりか、アリア……。しかし、お前にそれが出来るかな……?」


 シロはアリアに視線を一瞬向けると、彼女が頷くのを見て、両手をゆっくりと広げた。

 刹那、ピアノ越しに声が響いた。


「鬱塞シロ……君の演奏は何度となく見ているが……」


 神威レイジは、淡々とピアノを弾きながら、続ける。


「君の本来の演奏というものを、私はこの大会で初めて見た気がしている」


 ハンマークラヴィーア。

 それはルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが演奏者の限界とピアノの限界の両方を問うたピアノ最難曲のうちのひとつ。そもそもこの楽曲の求める音域は彼の作曲時代のピアノでは一台では全てを完走することは不可能であり、これを完璧に弾ききるためには、高音をカバーするピアノと低音をカバーするピアノの二台を必要とするという前代未聞にして限界突破の楽曲であった。現代のピアノはこの楽曲の音域を全てカバーしているが、それでもこの楽曲を弾きこなすことが出来るとされる演奏者は片手に数えるほどしか存在しないとされる。


 レイジはそれをたおやかに弾きながら続ける。


「私は君の思っているような残忍な男ではないよ。組織の末端として他者を害するつもりも毛頭無い。私はただ、祝福と贖罪のためだけにこの指とこの楽器に魂を預けているのだ。ただ、私の意思ではないとはいえ、私のせいで君に酷い経験をさせてしまった。そのことについては謝りたい」


 レイジのその言葉に、シロは息を飲んだ。


 謝罪。そんなものを、この戦いの中で聞くことになるとは想像すらしていなかった。


 シロは今まで自分の受けてきた仕打ちを思い返す。何度も痛い目に遭わされ、何度も怖い目に遭わされ、どうしようもない孤独感と恐怖感の中で、なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのかと自問自答を繰り返した。この世の理不尽を呪い続け、心を病み、世界を恨んできた。


 それを、たった一言謝られて、許すだと?


「ふざけないで……! 私はあなたをぶっ飛ばしたいの! 何度も何度も叩かれて、何度も何度も泣かされて、鞭で叩かれたり、電流を流されたり、焼きごてを突き付けられたりする恐ろしさがあなたに分かる? 常に監視され続け、友達もいなくて、ひとりぼっちで、自分のやってることの意味も分からなくて……その苦しさの何が分かるっていうの!? 何も分からないよ! あなたの言葉なんて私は信じない……!!」


「たしかに君の体験したことを実感を持って追体験することは出来ない。しかしデータとしては知っている。それが耐えがたい苦痛であることも、君のメンタルグラフを見ることで私は既に把握している」


「それが一体なんだって言うの!? 私はあなたを許さない……。自分自身が神になるために、他者の才能を喰らい、何の罪の意識も持たずに人前に顔を晒せるその厚顔無恥さを許さない!」

「罪の意識はある。言ったはずだ。私の演奏は祝福と同時に贖罪であると」


 レイジは淡々と演奏を続け、シロの怒濤の連撃をやり過ごしながら語る。


「今の私は確かに組織の末端だが、私自身の魂までもが組織に懐柔されているわけではない。組織の目的と私の目的は全くの別物だ」


 レイジはピアノ越しにシロを見据え、瞳に漆黒の闇を宿らせながら続ける。


「組織の目的は全く新しいタイプの大量殺人兵器の開発……。土地や施設、機械類を一切傷付けることなく、そこにいる人間だけを殺害し、無傷で敵地を制圧するための音響兵器の開発。しかし、私はそんなものには興味はない。私の目指すものは、その先にある。魂の解脱だ」

「魂の……解脱……?」


 レイジの言葉にシロは困惑する。


「そうだ。組織によって私の脳内にはマイクロチップが内蔵されている。このチップによって、私の演奏には組織に収容されたあらゆる能力者のデータが集約される。その能力は多岐に渡る。君も既にいくつか能力を見たはずだ。映像記憶能力、歌唱による立体音響の再現能力、他者の記憶を閲覧する能力……そして、君自身が持つ、演奏により他者を殺す能力。現に私はそれ以上に多くの手札を持っている。そして、今はその手札を増やしている最中だ。私は私の演奏と能力で全ての生命を解脱させる。それが私の目的だ。あらゆる生命をこの穢れた大地から払拭し、穢れなき魂の世界へと解脱させるために……君たち能力者のデータを欲している。そのために組織に自らの才能を売り、組織を利用させてもらっている」


「あなたが……何を言っているのか分からない……」


 シロはレイジの言葉を拒絶する。


「魂の解脱……? あなたがなぜそんなことを言い出すのか……私には全く分からない……」

「それは君たちを見て決めたことだ、鬱塞シロ。いや……人型殺人用実験兵器第ゼロ号と呼んだほうがより正確かな?」


 レイジは哀れむような顔でシロを見て、言った。


「私は君が可哀想だと思った。他者を傷付ける兵器のために自らも傷付けられ、使い捨てられる。そうして残るものが、世界を恐怖に陥れる大量殺人兵器とは、あまりにも君たちが浮かばれない。私は人々の心の安寧のために音楽を奏でたい。それはもちろん鬱塞シロ、そして君と同じ扱いを未だ受け続けている施設の少年少女たちに対してもだ。それに、それ以外の、全世界の苦しみを抱えた人々すべてを、私は救いたいと思っている。愚かな人類の過ちを正すためには、争いのない世界を再構築する他道はない。私は自ら神になり、その理想郷の建設を行う。そこにいる人々には肉体はなく、肉体がないが故に戦争もなく飢えることもない。そこはただ純粋な魂だけがゆったりとたゆたう、静かな湖の水面のような場所だ。私はその理想郷建設のために、あらゆる能力を身につけてきた。ただ、神になり人々を祝福するためだけに」


 レイジの音が爆ぜた。シロはなんとか彼のハンマークラヴィーアを耐え、顔を上げた。


「あなたはそんなことのためにピアノを弾いているの……? そんな……苦しいことのために……?」

「苦しいだと? 私の作る理想郷に苦しみはない。あるのは未来永劫の安らぎだけだ」

「それをやろうとしてるあなたは苦しそうだよ。だって、音楽を楽しんでないんだもん!」


 それを聞き、レイジは溜息を吐いた。


「それを君が言うのか。誰よりも音楽で傷付いてきた君なら、私の思い描く理想郷を理解してくれると思っていたのだが……」


 レイジの音が爆ぜた。シロとアリアがそれを受け止め、息を切らす。


「音楽は手段だ。目的ではない!」

「音楽は……音楽だよ! それ単体で楽しいものだ! 私は音楽そのものを愛する!」

「残念だが、君とは意見が合わないようだ……。ここで終わりにしよう」


 レイジの指が加速し、ハンマークラヴィーアが悲鳴を上げる。その絶叫にシロは抗う。アリアはシロとレイジの壮絶な戦いを前に音圧に圧されるが、それに抗うように前に向かっていく。ここで退けば、観客席が持たない。アリアの喉は既に限界を向かえつつある。二つの才能の刃に裂かれ、どうしようもなく疲弊している。だけど、アリアは信じて待つ。


(矢神くんは、絶対に戻ってくる……)


 十年間、彼はこのときのためだけに戦ってきた。奏でてきた。アリアは知っている。彼の音を最初に聴いた時から、彼の音の中に秘められた覚悟と信念を。だから、アリアは退かない。例え相手が音楽の神になろうとする者であろうとも、人を殺す音楽であろうとも、自らの声で歌い、守る。


(無駄になんてさせない……。私がこの大会に参加した意味を……。私は……矢神くんとの誤解を解くためにこの大会に参加した……。それは紛れもなく私自身のため。だけど、矢神くんのためでもある……! 私との因縁と誤解にケリを付けて、まっさらな気持ちで神威レイジとの戦いに臨めるようにするための禊……。私は、そのためにこの大会に参加した……!! だから……!!)


 聖域アリア

「ヴォカリーズ」


 この戦いは、本気でぶつからないと収集が付かない。


 アリアは、自らの歌の本領を発揮する。シロとレイジの間に割り込み、守ることより攻めることを選んだ。攻撃こそ最大の防御という言葉もある。


(私は……私の信じたいものを、信じたいように信じる!!)


 シロを押し退け、アリアはレイジに突撃する。レイジは彼女の音を真っ二つに両断する。しかしその背後から……。


(隙は作った……あとは任せたよ、鬱塞ちゃん……)


 死神の大鎌。

 あと一瞬早ければそれは絶対強者の首を刎ねていたかもしれない。


 しかし……。


「意外とやる……。しかし、お前の演奏は知っていると言った!!」


 レイジは大鎌を躱し、カウンターの一撃をシロに放つ。一撃必殺の音圧を、確実に命中する場所へと……。瞬間、光が爆ぜ、爆音が轟き、全ての音が止んだ。

 レイジは爆炎の中、手についた煤を払いながら立ち上がり、ふっと息を吐いた。


「最後の一撃には驚かされたよ。だが、残念だ。私のほうが、全てが上だ」


 静まり返った会場の上、爆風によって吹き飛ばされたアリアは目の前の光景に息を飲んだ。

 ステージは既に半壊し、その上でレイジのピアノには傷ひとつない。


 しかし、アリアはふっと微笑んだ。


「待たせすぎだよ。矢神くん……」

「ごめん。色々あって……」


 爆炎の中、シロを支えながら矢神がピアノの前に立っている。


「矢神礼……矢神櫂の息子か……」

「親父のことはまだ覚えているみたいだな。悪いが復讐させてもらう」


 矢神の言葉にレイジは瞼を閉じて、軽く息を吐いた。


「君の最初の演奏を見た時、私はまさかと思ったよ。矢神櫂に息子がいたとは私も知らなかった。しかし、よく見ると面影がある。演奏技術も申し分ない。だけど残念だ。君の目的は私への復讐。それは叶わぬ夢というやつだ。演奏技術では君は私に匹敵するかもしれないが……君の能力では私の能力には勝てない」

「それはどうかな」

「なに……?」


 矢神は後頭部を指しながら言った。


「お前はもう自分の能力しか使えない。脳内のマイクロチップは、『既に殺されている』」


 矢神の言葉にレイジはまさかと口元をおさえた。マイクロチップを通して組織へのアクセスを試みるが、何度試行しても上手くいかない。そしてレイジはそれが完全に破壊されていることを理解する。


「まさか……貴様! あの時に……!」


 最後の一撃、死神の大鎌は絶対王者の首を刎ね切れなかった。それは、刎ねようとしなかったからだ。


「信じてた……矢神は絶対に戻ってくる。だから、復讐を果たすのはシロじゃない。矢神の復讐は、矢神自身の手で果たすべき。そう思ったから」


 シロはしてやったりと笑い、後頭部を指して言った。


「私が『殺した』。これで舞台は整ったね」


 シロは倒れたアリアのほうに微笑む。


「聖域さんのおかげで隙が出来た。ありがとう」

「矢神くんのためだから……」


 差し出された手を取り、アリアは立ち上がる。


「残り二曲あるよ。矢神くん、やれそう?」

「ああ、ここまで待たせて、まさか尻尾巻いて逃げたりしないよ」

「十年間待ちわびたステージだもんね!」


 シロはそう言って、アリアに肩を貸し舞台袖へと退いていく。

 シロはともかく、アリアは既に体力を使い切っている。ここから先は矢神の邪魔にしかならないだろう。


「私たち、やったね……」

「だね! ちょっとスッキリしたかも」


 二人は矢神の対戦を見るために観客席へと向かう。着いた席で開瞳に合流し、そこに同時に血だらけの伊藤が合流する。


「伊藤!? なんでそんなに血だらけなの!?」

「ああ……色々あってな……」


 彼はそう言ってシロにUSBを見せニッと笑う。


「まあ、間に合ってよかったぜ。開瞳のおっさん、これはアンタに託す。アンタが一番上手く使えるだろ」

「任せておけ」

「言っておくが、バックアップは取ってあるからな。揉み消そうとしてもそうはいかねえ」


 それを聞くと開瞳は豪快に笑った。


「まあそう疑うな。安心せい、この情報は最高のタイミングで使わせてもらうわい」


 四人は矢神とレイジの最終決戦を見下ろす。


「あの二人……どっちが勝つかね」


 伊藤の問いに開瞳が答える。


「チップが壊されたとはいえ、レイジは素の状態で矢神の親父を殺した男だ。つまり、矢神は自分の親父を越える必要があるというわけだ」

「それはちょっと無理ゲーすぎねえか? いや、でもアリアとシロはレイジに勝ったわけだしな……」

「それは違う。奴は相手を弱者と見誤って慢心し手を弛めていたに過ぎない。もし最初から本気を出していれば、この会場ごと二人は倒されていたはずだ」


 開瞳の言葉にシロとアリアはムッとする。


「ふーん? レイジってそんなに強いんだ? まあ、勝ったのは私たちだけどね?」

「次戦う機会があったら、潰す……」


 物騒なことを宣うアリアを尻目に、伊藤は肩を竦め、それから矢神たちの立つステージへと視線を下ろした。


「まあ、今は大人しく奴らの戦いを見届けようぜ。なんせ、十年越しの因縁だからな……」


 矢神とレイジはステージ上で相対する。

 黒いスーツに黒い髪、漆黒の瞳の神威レイジと、それとは対象的な白い男。

 矢神はボロボロになったピアノを撫でながら呟く。


「神威レイジ……君の目的についてはさっきの試合で聞かせてもらった。その上で再度問う。なぜ、君はピアノを弾く」


 矢神の問いにレイジは肩を竦めた。


「言っただろう。魂の解脱のためだ」

「違う」


 矢神は間髪入れずにそれを否定する。


「君が他者のデータを入念に調べていたのと同じように、僕も君のことは調べられるだけ調べさせてもらっている。君は十年前の雑誌のインタビュー記事でこう答えている。『いつか矢神櫂を越えて世界一のピアニストになりたいです』と……。そして君はその夢を叶えた。それから、君は変わってしまった」

「……」


 レイジは何も言わず、ただ矢神のことを見据える。


「君は、始めは純粋にピアノを愛していたんだ。だが、十年前に起きたあの事件を境に、君はおかしくなっていった。組織に入ったのもそれが原因だ。あの時一体何があった? 観ていることしか出来なかった僕たちとは違う景色を、君と僕の父は見ていたはずだ。それが何なのか教えて欲しい」

「よく調べているなあ……。しかし、相手を分かろうとし過ぎるのはお前の悪い癖だ。矢神礼……とか言ったな。先ほどの二人はマイクロチップを破壊して良い気になっていたが、あんなものは再手術をすればもう一度入れ直すことは容易い。データそのものは組織にあるからだ」


「そんなことは聞いていない! 質問に答えろ。君は一体何を見た……!」


 矢神の問いにレイジは溜息を吐く。


「話すつもりはない。それが知りたくば……」


 彼は椅子の上に腰を下ろした。


「演奏で聴きだしてみせろ。ただし……」

 レイジは不敵に微笑む。

「矢神櫂の二の舞は踏まないことだな」


 矢神はそれを聞くと、自らのピアノの前に腰を下ろした。

 指をしならせ、手が鈍っていないことを確認すると、矢神は、最後の戦いを前に今までのことを思い出した。


 父が殺されたあの日、矢神の人生の全てが決まった。十年に渡る開瞳のもとでの様々な訓練、シロとの出会い、アリアとの誤解と戦いによるその解消。柏木が強いことも知った。組織に乗り込んで、伊藤が自分が思っていたよりもずっと自分のことを考えていてくれたことも知った。そして、シロがこの大会を通して成長し、レイジのマイクロチップを破壊出来るようになったことも。


 辛いことも沢山あったけど……嬉しいことも沢山あった。


 矢神は自らの指に、自らの演奏に、その全てを乗せようと思う。悲しみも苦しみも、嬉しいことも楽しいことも、それら全てを表現出来るものが、音楽という芸術だと信じているから。


「さあ、エンターテイメントの時間だ……」


 最後の復讐が……今、幕を開ける。

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