Section 12: アンネリース進軍

 迅龍は、粒子砲を中破している艦艇に叩き込みつつ離脱を開始する。それに追いすがって来るのはカナン級高速砲艦一隻のみであった。


「は――、確かに、相手はティアナを確保することが優先だったからな……。機関が壊れて航行不能になったふりすればこうなるのは当然か」

「それでも不用心に近づき過ぎではあるがなぁ。まあ……相手を下に見てるヴェロニアらしいっちゃらしいか」


 ロバートの言葉にエリオットが答えを返す。ジオは指揮官席で笑いながら言う。


「後は追いついてくる高速砲艦を叩いて、この星域を離脱するだけだな」

「まあ……それがまたきつい話だが」


 ジオの言葉にロバートは苦笑いして答えた。しかし――、


【カナン級――、ヴェロニアの主力高速砲艦……、サイズがこちらの1.5倍ほどですが。一騎打ちなら突撃艦が有利です。この艦は、伊達に奇跡の不沈艦とは呼ばれてませんから】

「は……そうだな。無論、後続の戦列砲艦の支援砲撃にもけいか……」


 ――ロバートがそう言った瞬間、それに被せるようにジェレミアが叫んだ。


「艦長! 時空振動感知! ワープドライブの反応ですよ!!」


 その言葉にロバートは顔を歪めて問う。


「まさか……ヴェロニアの友軍?!」

「いえ……、これは。艦種を確認――、リヴァイアサン級突撃艦4隻――、ワーム級高速砲艦4隻? あ……、隻眼剣神アンネリース?!」


 ジェレミアの驚きの声がブリッジに響き、それを聞く皆も驚きの表情を作る。


「ここに来て……アンネリースが動いた? どうして?」


 ロバートの驚きの言葉に、ジオもまた首を傾げる。


「まさか……俺達を助けに来てくれた……とか?」

「は……、辺境の――、見ず知らずのお前のためにか?」

「……」


 流石に状況が混乱しすぎて言葉を失う一同。その中で唯一モニターを真剣に眺めていたジェレミアが言う。


「カナン級高速砲艦が反転して後退していきますよ。あと……、再び時空振動確認。今度はヴェロニアの戦列砲艦の後方ですね」

【……アレは。ヴェロニアの増援? 50万t級の輸送艦も見える】


 ジェレミアの言葉にティアナも言葉を続ける。

 ヴェロニアの4隻の戦列砲艦の後方――、ひとかたまりに編隊を組む艦艇群が見える。


「……カナン級高速砲艦2隻――、それにアレは駆逐艦母艦と駆逐艦?!」


 その宙域に新たに現れたのは、高速砲艦2隻と、駆逐艦2個戦隊8隻、それのドックである駆逐艦母艦1隻、最後に50万t級の輸送艦であった。

 その艦艇群はホログラムで宇宙空間にヴェロニア海賊団の海賊旗を表示している。それはアンネリースの艦艇群も同じであり……、


「おいおい……、ヴェロニアとアンネリース……、これは――」


 まさに始まりつつある海戦の気配にロバートは顔をひきつらせるしかなかった。



◇◆◇



「ゲンターか……」

【はい……ヴェロニア様――、アンネリースの本星に動きが見られたので急いでまいりました】

「貴様に手間をかけさせてしまうとは……な」

【勿体ないお言葉でございます。ヴェロニア様――、とりあえず我艦の後方へとお下がりください】

「……、この状況では仕方がない……か」


 ヴェロニアは舌打ちしつつ座席に深く腰を下ろした。


「アンネリースが動いた……、ならば、どこからか私の情報が漏れていたと言う事か――」

【……おそらくはエルヴィラあたりかと――】

「――で、あろうな、アーチボルドの親父はあの性格ゆえに、こちらを裏切るとは思えんし……な」

【ヴェロニアさま……。とりあえず、こちらのセンサーが――、かの迅龍がアンネリースの艦艇と超光速通信のやり取りを始めたのを確認いたしました】

「ち……、漁夫の利のつもりか」


 その情報にヴェロニアはその顔を怒りに歪める。そのまま立ち上がって命令を下す。


「もういい……、全艦隊をもってアンネリース艦隊――、及び迅龍を殲滅せよ! 生死はもはや問わぬ――」


 その言葉を聞いてアガルタ艦長は驚きの表情を作る――が、すぐに無表情になって、全艦艇へと命令を下した。


「全艦――編隊を組み直して前進……、目標、アンネリース艦隊」


 静かな命令が艦橋に響き。そして一斉に状況は動き始めたのである。



◇◆◇



 そして――、遥か星屑の彼方。美しき水の惑星カノンにて――。


「……レヴィア。止まっていた時が動き出すわ」


 その暗い部屋の中で、ただ一人夜の空を眺める壮年の女性。


「結局――、わたくしは貴方に話すことが出来なかった。これ以上、貴方に重いものを背負わせることは出来なかったから」


 壮年の女性は小さくため息をついて――、そして呟く。


「これからわたくしがすることは――、重荷を貴方の子供に背負わせる事。貴方はわたくしを許さないでしょうね」


 その女性――、【エルヴィラ】は小さく笑って――、


「でも――すでに一度貴方を裏切っているから、もう同じことですわね。ならば、精々裏切りの魔女として貴方の子供を悪夢へと導き――、そしてその英雄譚を飾る悪役として最後を迎えるとしましょう」


 そういって天を仰いたのである。

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